特集

カットの創造:幻想的な彫刻のアートと科学


大きいものから小さいものまで一列に並んでいる、3つの明るい~中程度の青色の彫刻。
オニキスの土台にアクアマリンの3つの彫刻が飾られている、Sherris Cottier Shank作のWaterfall Suite(ウォーターフォール スイート)。水が流れる様子を見事に表現しているため、1994年にAGTAカッティング エッジ賞を受賞した。提供:Gemscapes(ジェムスケイプス)。写真撮影:Robert Weldon/GIA

宝石のカット職人には、「宝石と心が通じ合える」と述べる方がいます。つまり、原石がどのような作品にカットしてもらいたいかと「語る」内容を理解できると主張するのです。このようなカット職人にとって彫刻とは、注意深く観察し原石の内部の構造と特徴から導き出されるデザインを感じ取ることで、素材と意思疎通を図るプロセスです。その一方、精密な計算に基づいたアプローチを応用して、原石をカットし、見事に素晴らしい正確なファセッティングで宝石の彫刻を完成させる職人もいます。

いずれの方法にしても、秀逸な才能を持つこれらの芸術家は、息を呑むほど素晴らしい宝飾品を制作します。

カットの科学

平らなファセットは、ダイヤモンドやカラーストーンで見られる典型的な2次元のファセットです。これらのファセットは、隣接するファセットとそれらが交差する角度によって形が作られています。一方、凹面ファセットは、ファセッティングにまさしく別の次元を追加します。つまり、長さと幅だけでなく深さも存在するのです。このようなファセットを利用すると、芸術的な彫刻作品を制作するアイデアは無限大に広がります。

ファセット カットされたパープルの宝石。
この140カラットのブラジル産アメシストは、Victor Tuzlukovによってファセット カットされた。提供:Victor Tuzlukov。写真撮影:Robert Weldon/GIA

多くの人々は、凹面ファセットがあると石のブリリアンスとシンチレーションが増し、生命感が溢れて、より美しくなると考えています。平らなファセットでは、明るい光が広く反射すると、色が褪せてしまいます。しかし、凹面ファセットは内側では凸状の鏡の役割を果たすため、宝石の内部でより多くの方向から反射する光線を生成することができます。上部から入る光は、湾曲した表面の上部に細く明るい光線として上から観測している者に反射し、その光線の両側は暗く見えるため強いコントラストが生まれます。

外側が茶色、中央が緑色になっている彫刻された波形の宝石。
熟練のカット職人、Alexander Kreisは、宝石のカラー ゾーニングをドラマチックに使用して、ファンタジー カットのサンストーンの彫刻を制作した。提供:KREIS Jewellery(KREIS ジュエリー)。写真撮影:Robert Weldon/GIA

「強いコントラストのため、宝石がより明るくより魅力的に見えるようになります... 実際に隣接しているファセットの間に強いコントラストがあると、シンチレーションはよりダイナミックになります」と、GIAの研究員であるAl Gilbertsonは、2013年のGems & Gemology(宝石と宝石学)の記事で説明しました。

光の内部反射はインクルージョンを隠し、ウィンドウイングを取り除く傾向があります。このため、色調が「明るいから中程度」の宝石は、外観が非常に改善されます。その一方、色調が暗い石はさらに暗く見える可能性があります。マルチカラーのアメトリントルマリンサンストーンは、非常に魅力的な彫刻を作るのに最適の素材であり、クォーツのルチル インクルージョンは特別な要素を加えます。

彫刻されたクォーツをフェイス アップと側面から観察した画像。
ファンタジー カットにファセット カットされたこの無色のクォーツは、Dalan Hargraveによって加工された。この宝石のキューレットに配置された角度のあるファセットは、宝石のテーブルを通して見たときに魅力的なパターンを示す。写真撮影:Robert Weldon/GIA、提供:Dalan Hargrave。

「(シンチレーションから放たれる)この輝きは、石の屈折率(RI)がより高いような印象を与え、クォーツがベリルのように、ベリルがトパーズのように、トパーズがコランダムのように、コランダムがジルコンのように見えるようになります」、とEddy Vleeschdrager は2002年にLe Bijoutier Internationalに掲載された記事『Cutting Technique Flat, Concave, or Convex?(カッティング技術:フラット、凹面、または凸面?)で説明しました。

イダー=オーバーシュタイン地区の職人は、1900年代初頭から凹面カットのファセットをパビリオンに施した石を制作してきました。これらの石は1920年頃に流行し、1950年代と60年代に再び注目を浴びるようになりました。

内部に「泡」の彫刻がある三角形のアメトリン(黄色と紫色)。
この18カラットのアメトリンには、Michael DyberによってDyber Optic Dishes(ダイバー オプティック ディッシュ)を特徴とするカットが施された。提供:Orasa Weldon 写真撮影:Emily Lane/GIA

アーティストについて

Sherris Cottier-Shanksは、宝石素材が彼女に話しかけると言います。その素材のエネルギーを感じ取り、アイデアが思い浮かんだ後、それを新しい形をした美へと変化させるのです。シンプルな彫刻アーバーを使用して、宝石が彫刻されているときに手でその宝石を持ち、非常に柔らかく、流体のような外観のある湾曲した形が生まれます。彼女はHenry Huntとカナダの先住民族であるイヌイットの芸術作品からインスピレーションを受けました。

丸みを帯びた底部を持つ三角形のアメトリンの彫刻作品。内部に彫刻された「泡」が見られる。
この216カラットのボリビア産アメトリンは、Dyber Optic Dish(ダイバー オプティック ディッシュ)を特徴とする。提供:Michael M. Dyber(宝石デザイナー)。写真撮影:Robert Weldon/GIA

Michael Dyberは、毎年イダー=オーバーシュタインで開催されるGerman Award for Jewelry and Precious Stones(ジュエリーと貴石に対するドイツ賞)の競争が激しい宝石デザイン部門で1994年にアメリカ人として初めて優勝しました。彼は「Dyber Optic Dishes(ダイバー オプティック ディッシュ)」と「Luminaires(ルミネア)」と商標登録されている有名なデザインで知られています。どちらの技法も、窪みのあるファセットの形を使用して錯覚を生み出します。「ルミネア」は、宝石内に空洞の溝をファセッティングした形で構成されています。
 

上から下に明るめから暗めの光を見せる彫刻された2つのシトリン。
John Dyerにより商標登録されているカットの一つ「Dreamscape(ドリームスケープ)」シトリン。ファンタジー カットが施された一対の珍しいペアである。提供:John Dyer & Co 写真撮影:Lydia Dyer

John Dyerは、1996年に宝石のカット職人として華々しいキャリアをスタートしました。試行錯誤を繰り返しながら努力を重ねた結果、美しく輝かしい宝石が生まれました。彼は2002年に初めてAGTAカッティング エッジ賞を受賞し、2005年にはAGTAカッティング エッジ賞の全部門を初めて制覇したカット職人となりました。「Dreamscape(ドリームスケープ)」、「Starbrite(スターブライト)」、「Sunburst(サンバースト)」、「Regal Radiant(リーガル ラディアント)」、「Light Weaver(ライト ウィーバー)」、「Sculptural(スカルプチュラル)」という商標登録済みの名称に応える素敵なカットのコレクションを制作しています。
 

アメトリンの彫刻。
この320カラットのボリビア産アメトリンは、アーティストのMark Gronlundが作った特別設計のファセッティング機械で加工された。アメトリンに見られるユニークなカラー ゾーニングがこの彫刻で見事に活かされている。提供: Mark Gronlund 写真撮影:Robert Weldon/GIA

自身も受賞歴のあるカット職人であるMark Gronlundは、キャリアの早い段階でRichard Homerと出会い、OMF(optically magnified facet、光学的に拡大されたファセット)カッティング機器によって作られた凹面と凸面に関心を寄せました。曲線に魅了された彼は、従来では見られなかったスパイラル カットやスカラップ カットに対する特定の需要を生み出すことになりました。彼はデザイナー ジュエリーに使用される大胆な色と形をした宝石のセットを制作します。

アメトリンの彫刻。
この67.50カラットのファンタジー カットのアメトリンは、Dalan Hargraveによってカットされた。提供:Minerales y Metales del Oriente、ボリビア、南米 写真撮影:Robert Weldon/GIA

Dalan Hargraveは、芸術作品として新しい宝石のカットを開発することに注力しています。彼は次世代の職人に知識を伝授するために、宝石細工アートの授業を教えています。革新的なスタイルを生み出すために特殊なファセッティング装置をカスタマイズするのが好きです。

角が丸い長方形の彫刻されたピンク トルマリン。
この見事に美しい29.56カラットのピンク トルマリンは、凹面ファセッティングの先駆者、Richard Homerによってカットされた。提供:Columbia Gem House Inc. (コロンビア ジェム ハウス社) 写真撮影:Robert Weldon/GIA

Richard Homerは、見事に素晴らしいブリリアンスを放つ宝石にカットすることで有名です。テーブル、パビリオン、ガードルに沿ってファセットを巧みにカーブさせるため、光と色が非常に強く返されます。また、革新的な「凹面ファセット」をデザインすることでもよく知られています。彼のドラマチックなデザインでは、新しいカッティング技術および特殊な機器を特別に用いて作る湾曲した輪郭を取り入れていることが時折見受けられます。

抽象的な彫刻である2つのルチル クォーツ。1つは明るい色で、もう1つは暗い色をしている。
このルチル クォーツの彫刻「Chanting of the Stars(チャンティング オブ ザ スターズ)」は、イダー=オーバーシュタインのAlexander Kreisによって制作された。提供:KREIS Jewellery(KREIS ジュエリー)。写真撮影:Robert Weldon/GIA

KREIS Jewellery(KREISジュエリー)のAlexander Kreisは、イダー=オーバーシュタインで宝石細工を営む家業より技能を身につけました。彼は、物語を語ることができる宝石の彫刻を制作することに力を注いでいます。デザインおよびコンセプトのために必要に応じて革新的な技術およびツールを作ります。

Xのパターンに彫刻された、インクルージョンを持つクォーツの作品。
Metamorphosis III(メタモルフォシスIII)は、1995年にBernd Munsteinerが制作したルチル インクルージョンを持つロック クリスタル クォーツの彫刻である。写真撮影:Robert Weldon/GIA

Bernd Munsteinerは、透明宝石で光が反射および屈折するように、鋭くて角度のある芸術的なカッティングやファセッティングを用いる、ファンタジー カットを発明することで有名です。1960年代後半から1970年代初頭に透明な素材へと移る前、アゲートの浮き彫りで作品を制作していました。芸術作品を制作するために素材の大部分を取り除き、重量を確保するために従来行われているカッティング法に反して制作に取り掛かりました。その結果、アニメーションに匹敵するような光の動きを作成するダイナミックな彫刻作品が完成します。Munsteinerは、大胆な切り込みや刻み付けにより印象的な幾何学的な形を作り出すことで知られています。
 

彫刻された結晶がアルミニウムで囲まれた大きな彫刻作品。格子には11個の石が24列並んでおり、寸法は163 x 51cmである。
Tom Munsteinerが彫刻を手掛けた「Visions In Crystal(ヴィジョン イン クリスタル)」。それぞれ重量が約200カラットある264個のロック クリスタル クォーツ、シトリン、スモーキー クォーツで構成されている。同じようなサイズの長方形のタイルが、格子の模様を成して高さ210cmのアルミニウム製の2つの柱に支えられて並べられている。前面に向かって反射しているカットおよび研磨された結晶の色調は、ほぼ同じである。ロッククリスタルは完全に透明であり、シトリンは半透明の黄色で、スモーキークォーツのみ暗い色から明るい色のものが使用されている。写真撮影:Robert Weldon/GIA

Tom Munsteinerは、宝石彫刻の巨匠として父親の遺産を引き継いでいます。彼の作品は、デザインにおいて建築的な要素の影響を反映しています。例えば、高さ6フィート(約1.8m)以上もあり、それぞれが角度のあるファセットにカットされた264個のロック クリスタル クォーツ、シトリン、スモーキー クォーツのタイルで構成されている「Visions in Crystal(ヴィジョン イン クリスタル)」がその代表作です。Munsteinerは、宝石を美術品として見ることができる一例としてこの作品を制作しました。

補足資料

Morgan, A. D. (2002年10月)Development of concave faceting of gemstones(宝石の凹面ファセッティングの発展)、The Journal of Gemmology(ザ ジャーナル オブ ジェモロジィ)、2002年10月。

Munsteiner, Bernd、Reflections in Stone(石の反射)、Wilhelm Lindemann編集、2004年、Arnoldsche(アーノルドシェ)。

Oriel, Andy、(1997年11月)Learning Curve(学習曲線)、Lapidary Journal(ラピダリー ジャーナル)。

Weldon, Robert、(2005年4月)Mathematical Brilliance(数学におけるブリリアンス)、Professional Jeweler(プロフェッショナル ジュエラー)。

Sharon Bohannonは、写真の研究とカタログ化、そして記録を行うメディア編集者であり、GIAよりGGおよびAJP®を取得しました。Richard T. Liddicoat 宝石学図書館情報センターに勤務しています。


You are being redirected to GIA Alumni Association, LLC.

5