特集

2017年のオークションに関する報告:
依然として堅調なピンクとブルーのファンシーカラーダイヤモンド


GIAグレード59.60ctのファンシービビッドピンクのダイヤモンドであるピンクスターは、2013年11月12日ジュネーブのサザビーズのオークションで8320万ドル(83.2億円)で販売された。 写真提供:Sotheby’s(サザビーズ)
4月にサザビーズ香港にて7100万ドル(約78億円)で落札された、GIA鑑定済みの59.6ctの Chow Tai Fook(周大福)のピンクスターは、オークションでかつて販売された宝石で最も高価なものとなった。写真提供:サザビーズ

11億ドル(約1243億円)以上の価値のある非常に高級なダイヤモンド、カラー宝石やジュエリーが2017年のオークションで世界有数の入札者により落札されました。世界の2大オークションハウス、Christie’s(クリスティーズ)とSotheby’s(サザビーズ)での落札は好調な結果で終わったものの、バイヤーは、重要な製品が数多く売れ残っていた今年の後半には特に慎重になっていました。

クリスティーズは、世界中で5億5670万ドル(約629億円)相当のジュエリーを売却し、オンラインのオークションでは890万ドル(約10億円)の売上高をあげました。サザビーズは年間のジュエリー売上高を正式に発表していませんが、同社のウェブサイトからの売上高の集計によると合計およそ5億5200万ドル(約624億円)と報告されています。

本年度最大のニュースは、4月4日にサザビーズ香港で落札されたPink Star(ピンク・スター)ダイヤモンドでしょう。このダイヤモンドは、オークションで落札された宝石の価格としては史上最高を記録しました。59.60ct、ファンシービビッドピンク、インタ-ナルフローレスのこの石は、これまでにGIAがグレーディングした中で最大のダイヤモンドであり、7120万ドル(約78億円)の最高価格を記録しました。このピンクダイヤモンドを落札したのは、香港を拠点に事業を展開する中国最大の宝石小売店チェーンのChow Tai Fook(周大福)でした。

The Graff Pink(ザ・グラフ・ピンク)
24.78ct、ファンシー インテンス ピンクのGraff Pink (グラフ・ピンク)は2010年にカラット当り180万ドル(約1.5億円)超で落札された。このカラット単価は、2017年に売却されたPink Star(ピンク・スター)を上回る。写真提供:サザビーズ

このピンクダイヤモンドは記録を更新したものの、これはサザビーズにて8300万ドル(約83億円)超でほぼ2年前に落札されたことがありました。しかし、バイヤーは、資金を調達することができなかったため、オークションハウスが購入を余儀なくされたのです。その金額は7000万ドル(約70億円)と伝えられています。

ただし、最高記録を更新したピンクスターの価格は、1カラット当り120万ドル(約1.3億円)と比較的低価格であり、近年オークションにかけられた同等のグレードのダイヤモンドのカラット単価の半分以下でした。例えば、24.78ctのGraff Pink (グラフ・ピンク)は2010年にカラット当り180万ドル(約1.5億円)超、14.93ctのPink Promise(ピンク・プロミス)は今年にカラット当り213万ドル(約2.4億円)で落札されています。

それぞれに14.54カラットと16カラットのファンシーカラーダイヤモンドが飾られている、アポロダイヤモンドとアルテミスダイヤモンドは、5月にジュネーブで行われたサザビーズのオークションで5700万ドル(約63.8億円)で落札された。写真提供:サザビーズ
それぞれに14.54カラットと16カラットのファンシーカラーダイヤモンドが飾られている、アポロダイヤモンドとアルテミスダイヤモンドは、5月にジュネーブで行われたサザビーズのオークションで5700万ドル(約63.8億円)で落札された。写真提供:サザビーズ

本年度の最高入札額は、例年と同様、大きなファンシーカラーダイヤモンドに付けられ、その中でも主にピンクとブルーのダイヤモンドに高値が付けられました。これら両方のカラーダイヤモンドが、ジュネーブで5月16日に行われたサザビーズのオークションにかけられた5740万ドル(約69億円)のイヤリングにセットされていました。GIAが鑑定した16ct、ファンシー・インテンス・ピンクのArtemis Pink(アルテミス・ピンク)は1530万ドル(約17億円)、そしてGIAが鑑定した14.54 ct、ファンシー・ビビッド・ブルーのApollo Blue(アポロ・ブルー)は4210万ドル(約48億円)で落札されました。

Pink Promise(ピンク・プロミス)と名付けられた14.93ctのファンシービビッドピンクダイヤモンドは、11月28日に香港で行われたクリスティ―ズのオークションにて3216万ドル(約35.7億円)で落札されました。興味深いことに、GIAが鑑定したこのダイヤモンドは、16.1ctのファンシーインテンスピンクのダイヤモンドから再カットされたものでした。落札後、売り手であったニューヨークのディーラーのStephen Silverは、約15年前に初めてカットされたこのダイヤモンドのカラーグレードを改善したかったからである、とCNNに語りました。

14.93 カラットの楕円形ピンクダイヤモンドは無色ダイヤモンドのヘイロー(輪)に囲まれ、リングにマウントされている。
Pink Promise(ピンク・プロミス)と名付けられた14.93ctのファンシービビッドピンクダイヤモンドは、11月に香港で行われたクリスティ―ズのオークションにて3216万ドル(約35.7億円)で落札された。写真提供: Christie's Images(クリスティーズ・イメージズ)

ヨーロッパおよびアジアのクリスティーズで会長を務めるFrancois Curielは、2017年は全体的に堅調な年であったと述べました。

「業界のバイヤーは、この1年間もっと積極的でしたが、プライベートのコレクターとディーラー両方が、一貫して活発に入札を行っていました」と、彼は説明しました。また、アジアのバイヤーが、最高級の宝石の購入において依然として「優勢な勢力」を示し、ビットコインの急増やイギリスの欧州連合からの脱退による不安定な為替市場などの世界情勢は、オークション市場に目立った影響を与えていないと指摘しました。

今年落札されたその他のファンシーカラーダイヤモンドは以下の通りです。

  • 1450万ドル(約16.4億円)で落札された、フランスの王冠の宝石の一部であったこともある19.07ctのファンシーライトピンク Le Grand Manzarin(ル・グラン・マンザリン)
  • 1320万ドル(約14.9億円)で落札された8.67ctのファンシーインテンスブルー
  • 1270万ドル(約14.4億円)で落札された7.97ctのファンシーインテンスブルー
  • 1260万ドル(約14.2億円)で落札されたファンシービビッドブルーの2つの石のペア(3.36ctと2.71ct)
  • 970万ドル(約11億円)で落札された8.8ctのファンシーインテンスピンクダイヤモンド(リングの台座で2つの小さなファンシーブルーダイヤモンドの間に挟まれている)

そして、2017年の締めくくりとして、12月5日に行われたサザビーズのオークションで匿名のバイヤーが、GIAが鑑定した5.69ctのファンシービビッドブルーダイヤモンドを1510万ドル(約17億円)で落札しました。

主要な無色のダイヤモンドは今年のオークションのブロックではあまり見られませんでしたが、2つの有名な宝石が落札されました。

  • 92.18ct、ハート型でDカラー、フローレスのLa Legende(ラ・レジョン)は、5月にジュネーブで行われたクリスティーズにておよそ1500万ドル(約16億円)で落札されました。
  • 163.41ct、Dカラー、フローレスの長方形にカットされた Art of De Grisogono Creation 1(アート・オブ・ドゥ・グリソゴノ クリエーション1)は、エメラルドとダイヤモンドで作られたネックレスの先端にセットされ、3370万ドル(約38億円)で落札されました。これはオークションで販売された無色ダイヤモンドでは最高額となりました。209,000ドル(約2360万円)というカラット単価は、大きなDカラーのフローレスのダイヤモンドとしては高価ですが、最高価格には達しませんでした。GIAでグレーディングされたこのダイヤモンドは、Lucapa Diamond Company(ルカパ・ダイヤモンド社)によってアンゴラのLulo 鉱山で発見された「February 4(2月4日)」という名称の404カラットの原石よりカットされました。

また、最高価格には達しなかったものの、カラー宝石のなかでも非常に高価な価格で落札されたものがありました。アジアのバイヤーは、香港のサザビーズで10月3日に13.26ctの未処理のビルマ産ルビーを1050万ドル(約11.9億円)で落札した一方、5月にジュネーブで行われたクリスティーズのオークションでは15.03ctの未処理のビルマ産ルビーが1294万ドル(カラット当り861,000ドル)(約14.6億円、カラット当り約9730万円)で落札されました。

ロックフェラーエメラルドは、両側にあるダイヤモンドの間でリングにセットされた18.04ctの八角形のステップカットが施されたエメラルドである。
インクルージョンが全くないということの他に、この宝石にまつわる歴史のため、この18.04ctのロックフェラー・エメラルドは6月にニューヨークで行われたクリスティーズのオークションでカラット当たり305,000ドル(約3500万円)という最高記録を達成した。写真提供:クリスティーズ・イメージズ社

老舗の宝石商であるHarry Winston Inc.(ハリー・ウィンストン社)は、6月20日にニューヨークで行われたクリスティーズのオークションで競売にかけられた数多くの歴史があるエメラルド、18.04ctのRockefeller Emerald(ロックフェラー・エメラルド)を550万ドル(カラット当り305,000ドル)(約6.2億円、カラット当り約3400万円)で落札しました。このエメラルドには、1930年にJohn D. Rockefeller Jr.が、彼の妻、Abbyのためにこのコロンビア産エメラルドを購入したという歴史があります。

ジェードは、常に香港のオークションで高価な金額で落札される宝石です。11月のクリスティーズのオークションでは、ダイヤモンドと小さなルビーがアクセントとして飾られたジェダイトのビーズでできたブレスレットが1230万ドル(約13.8億円)で落札されました。

しかし、すべての宝石・宝飾品が落札されたわけではありません。11月にジュネーブでサザビーズのオークションにかけられた37.3ct、ファンシーインテンスピンクのRaj Pink(ラジ・ピンク)のダイヤモンドの売却は不成立に終わりました。入札額は1000万ドル(約11億円)より始まり、オークション前の推定額の半分以下である1400万ドル(約15.7億円)まで値が上がりましたが、その後失速し不成立となりました。また、12月5日にニューヨークで行われたオークションでサザビーズは、110.92ct、Lカラー、VSIクラリティのダイヤモンドを競売にかけられた中で史上最大のラウンドブリリアントとして宣伝しましたが、このダイヤモンドには420万ドル(約4.7億円)というオークション前の推定額で落札する入札者がいませんでした。

リングにセットされた、変形クッション・ブリリアントカットのピンク・ダイヤモンド。
GIAが鑑定した37.30カラット、ファンシーインテンスピンクのRaj Pink(ラジ・ピンク)のダイヤモンドは、ジュネーブでサザビーズのオークションにかけられたものの、売却は不成立に終わった。この石では、強い、未処理のピンク色が見られ、ファンシーインテンスピンクのダイヤモンドとしては世界最大であると伝えられている。写真提供:Sotheby’s(サザビーズ)

また、かつて王室に所有されていたという歴史があるだけで、直ちに落札につながるというわけではありません。サザビーズは、11月15日に行われた香港のオークションで102.54ctと82.47ctの2つのファンシーインテンスイエローダイヤモンドをオークション前に推定900~1400万ドル(約10~15.7億円)で競売にかけました。これらのダイヤモンドのペアは、1851年にポルトガルの貴族と結婚していたことがあるCountess Henckel von Donnersmarck(ヘンケル・フォン・ドナースマルク伯爵夫人)、La Paiva (ラ・パイヴァ)の所有物でした。La Paviaはパリでホテルを経営しているコルテザンであり、プロイセン人実業家 Guido Henckel von Donnersmarck(グイド・ヘンケル・フォン・ドナースマルク)と最終的に結婚しました。これらのダイヤモンドは、2007年に800万ドル(約9億円)でコレクターに売却されましたが、このオークションでは買い手がつきませんでした。

さらに、非常に有名であった5.15ctのファンシーディープブルーダイヤモンドが、10月3日に香港で行われたサザビーズのオークションで競売にかけられましたが、事前に予想されていた700~960万ドル(約7.9~10.8億円)という価格を満たすことができず不成立に終わりました。

Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。