宝石と宝石鑑定の世界


ASA査定記事の英雄
左から:Teri Brossmer、Gina D'Onofrio、Carole C. Richbourg。カールスバッドのGIAキャンパスで、鑑定士という職業の舞台裏について話した。 写真:Kevin Schumacher/GIA
この日、世界の宝石と宝石鑑別についての講義を聞こうと、カールスバッドのGIAキャンパスにある講堂に熱心な学生が押し寄せました。 一日の授業は既に終わっていましたが、さらに学ぼうとする意欲を持った学生達。実は、この姿勢が鑑定士として成功するには必要なのです。

「私たちは永遠に学生です。 私たちは常に学んでいます。そのこと自体が好きなのです。」と独立で鑑定業を営むGIAグラジュエイトジェモロジスト(GG)のTeri Brossmerは言います。 こうして始まったパネルディスカッションには、彼女とAmerican Society of Appraisers (米国鑑定士協会ーASA)の2人の鑑定士がパネラーとして参加しました。 Brossmerは続けてこう言います。「鑑定士には学習を継続して止めない原動力が不可欠です。常に新しい発見について学び、宝石の処理について知り、自分のビジネスに影響する法律の勉強をすることに常に時間を費やすことになるからです。」   

1979年、Brossmerは地元のジュエラーに足を運び、宝石業界でキャリアを積む方法を尋ねます。これが彼女の、宝石やジュエリーの世界への第一歩となりました。 そのジュエラーは、GIAに問合わせてみることを提案しました。 Brossmerがコースカタログを片手に店に戻ると、彼女の自発性に感激した彼は、その場で彼女を雇ったのでした。 彼女はGGを取得し、最終的にはASAから鑑定士の認定を受けました。

鑑定士は、信頼が置け妥当性のある宝石鑑定を行うために、宝石学やジュエリーに関する知識の他に、市場価値を決定するプロセスである評価理論を組合わせるのだとBrossmerは言います。 そして、ジュエリーの専門家とは異なり、鑑定士には販売しなければならない特定の製品がないことを指摘しました。

「私たちは経験、知識、意見を売るのです。」と語ります。 「自分の意見に対して報酬が支払われます。ただし、しっかりとした研究に基づいた意見です。」

彼女は、鑑定士は単に独断的かつ好奇心が強いだけではなく、様々な技術を身につけることが必要だと学生に伝えます。

「鑑定士には、マルチな才能が求められるのです。」と彼女は言います。 時には科学者、コンピュータ技術者、経営者、歴史学者になる必要もあるのです。 宝石に施された処理やジュエリーに施された技術を判断した上で、何かが不自然だと感じた場合、歴史的な知識が役に立ちます。

素晴らしい「アールヌーボー」作品を裏返し、背面にCAD/CAMの形跡があったら、その作品は何かおかしいと感じます。」とBrossmerは言います。 「歴史を通じて、特定の技術がどの時代に可能であったかを知っておく必要があります。」   

鑑定士はときには、ナイーブな状況をうまく扱える外交官または「宝石セラピスト」である必要があるとも彼女は言います。それは多くの場合、ジュエリーが特別な出来事を記念するために購入されたり、宝石に特別な意味が込められているからです。

彼女は初期の顧客の一人を例にあげます。その女性は、婚約したばかりで婚約指輪の鑑定を依頼してきました。 Brossmerは、指輪にはめられた石がダイヤモンドでないとすぐに気づき、それを伝えると、その女性はショックを受けたようでした。 「それから私はすぐに、センシティブな状況に対応する術を学んだのです。」と彼女は語ります。      

Brossmerは、専門性を広げ、法執行機関に貢献するような鑑定も行っています。 まだキャリアの初期段階であった彼女ですが、FBI捜査官から、独立の鑑定士が押収物を評価することを定めた新しい法律について耳にし、仕事の幅を広げたのです。 最初の案件でBrossmerは数百個のジュエリーを鑑定し、彼女の仕事ぶりはFBIを満足させるものでした。

「すぐにFBI、DEA、米国税関、 さらには食品医薬品局(FDA)からも依頼を受けるようになりました。」と回想するBrossmer。 「押収物の鑑定は、非常に大きなビジネスであることが後からわかりました。」  

鑑定士にとって毎日が新しい経験であるものの、特に法執行機関に協力することは特にその思いを強くさせる、とBrossmerは言います。 時には暖房やエアコンもなく、氷点下に近い室温や華氏90度を超える暑さの遠隔の倉庫で作業することもあります。 刑事事件で何度か証言したり、警察の強制捜査直後に宝石やジュエリーの評価に携わったことも何度かあります。

学生は、Brossmerの珍しい経験や、法執行機関との協力の下でのスリル満点の業務に畏敬の念を抱きながら耳を傾けていました。その後、他の鑑定士2人が加わり、学生の質問に答える形式でパネルディスカッションが行われました。

ASA 鑑定記事の学生
宝石と宝石鑑定についてのパネルディスカッション中、学生は注意深く耳を傾け、メモを取っていた。 写真:Kevin Schumacher/GIA

カリフォルニア州ロスアルトスの独立の鑑定人Carole C. Richbourgは、小売宝石店で鑑定士としての道を歩み始めました。 彼女は通信教育でGGディプロマを獲得し、2004年鑑定事業を開始しました。顧客層はほぼ全て、北カリフォルニアの個人消費者でした。

オーストラリアのシドニー出身のGina D’Onofrioは、オパールそしてアンティークジュエリーの販売、小売店の管理からジュエリーデザインに至るまでの幅広い経験をした後、「宝石鑑定のビジネスにはまってしまった」と述べます。 宝石学の勉強をしたが最後、夢中になったと彼女は言います。 「殆ど経験がなかった私が、多方面で知識を増やし、宝石鑑定の基礎知識を築くことになったのです。」と彼女は話します。  

学生は鑑定士たちに、アンティークジュエリーの知識を増やす方法、鑑定ビジネスの始め方、使用しているソフトウェア、好きな鑑定機器などの具体的な質問をしていました。

Richbourgは、宝石を扱ったり、宝石の「感触」をつかむなど貴重な経験ができる、小売経験を持つことを勧めました。 その経験が、鑑定士として宝石の真偽を直感的に判断するのに役立つからです。

D’Onofrioはネット―ワーキングの重要性について強調しつつ、交友関係についても、新しい仕事の紹介を受けるきっかけになることが多いと、その大切さを伝えました。  

3人の鑑定士が口を揃えて言ったのは、鑑定の中で最もやりがいのある経験の1つは、宝石やジュエリーが明かしてくれる物語であるということでした。 Brossmerの印象深い経験の一つは、アメリカの女優Ginger Rogersの個人のジュエリーコレクションを記録したことです。

「彼女の人生を垣間見ることができただけでなく、息の長い女優だったゆえに、時間とともに進化するジュエリーデザインを見ることができました。 1930年代、1940年代、1950年代に作成された素晴らしい作品が含まれていました。」と彼女は思い出します。   

D’Onofrioは、自分はどうしようもないロマンチストだと言います。 「私はジュエリーや出会った人の背後にある発見や歴史、ストーリーが好きなのです。 それが、この業界の最高の部分だと思います。」

GIAのライターKristin A. Aldridgeは、GIAのパールプログラムおよび AJP アクレディテッドジュエリープロフェッショナルプログラムの卒業生です。