Gems & Gemology(宝石と宝石学)

G&G 2017年秋号:HPHT合成ダイヤモンド概説、新世界から産する真珠の放射性炭素年代測定、コロンビアで発展するエメラルド産業


Fall 2017 Gems & Gemology
高圧高温(HPHT)法で成長させた合成ダイヤモンドのサイズと色は過去 10 年で大きく変わりましたが、宝石学的特徴や顕微鏡観察による特徴、分光学的特性、紫外線蛍光反応の組み合わせにより、合成石起源だと確信の持てる兆候が示されます。今回のトップ記事では、2007 年以降 GIA ラボで見られた HPHT法合成ダイヤモンドを調査します。表紙にある HPHT 法合成ダイヤモンドは重量が 0.31 から 1.94ctの GIA コレクションの一部で、現在のラボ成長合成ダイヤモンドに見られるカラーを代表するもの。写真撮影:Kevin Schumacher

Gems & Gemology(宝石と宝石学) 2017 年秋号は、HPHT法合ダイヤモンドの鑑別基準から、コロンブス時代に採取された天然海水真珠、そしてコロンビアのエメラルド産業の現状まで、宝石学における広いトピックを取り上げています。そのほかに、地理的起源を決定する方法としてのエメラルドのフォトルミネッセンススペクトルの研究、20世紀半ばのドイツの合成スターコランダムについてのレビュー、「ダルメシアンジャスパー」として業界で知られている素材の検査などが取り上げられています。

HPHT成長法による合成ダイヤモンドの観察:レビュー

HPHT-grown synthetic diamond
HPHT合成ダイヤモンドに見られるインクルージョンには透明なものもあるが、たいていは暗色個体の金属フラックスのような外観をしている。細い棒状や不規則な形状などさまざまな形状があり、フェザーに関連したものもある。これらの金属性のインクルージョンには磁力を持つものがある。写真撮影:Sally Eaton-Magaña

高圧高温(HPHT)法で成長させた合成ダイヤモンドは1990年代半ばから市販されていますが、技術はこの10年で大きく躍進しました。今回のトップ記事では、GIAのSally Eaton-Magaña、James E. Shigley、Christopher M. Breedingが、市販されているHPHT法合成ダイヤモンドに関する洞察について、入手可能なカットやカラー、クラリティについての統計データのほか、ジェモロジストにとっての鑑別基準などを含めて取り上げています。

先コロンビア期からコロンビア時代初期の海水真珠:宝石学的研究および放射性炭素年代測定法の研究

Saltwater Pearls
これら先コロンブス時代からコロンブス時代初期の間のものとされる天然真珠は、今回の調査で検査された85個のサンプルの一部。発見されたときにはすでに穴が開いていたが、ネックレスにされたのは最近のことである。中心のブリスターパール(31.41 × 16.86 × 10.25 mm)は複数の小さな真珠が凝集体となったもの。写真撮影:Sood Oil (Judy) Chia

真珠はアメリカの先住民やスペインの入植者によって珍重されました。カリブ海の海水産貝養殖場は16世紀前半に乱獲されたため、貝が不足するようになりました。あるサプライヤーが、中央アメリカまたは南アメリカで先コロンブス期からコロンブス時代初期に産したとされる85個の真珠を入手したということです。Chunhui Zhouが率いるGIAとGübelin Gem Lab(Gübelin宝石ラボ)のチームがさまざまな方法で真珠を分析し、これらの主張を検証しました。

コロンビアやアフガニスタン、ザンビア産エメラルドのフォトルミネッセンススペクトル

Emerald crystals
ザンビア(左)、コロンビア(右上)、およびアフガニスタン(右下)産のエメラルド結晶。それぞれのエメラルドの六角柱状晶癖は、六角形の端面2つ(結晶のC軸と垂直)と2組以上の柱面(C軸と平行な側面)を平らに研磨することで強調されている。写真撮影:D.B. Thompson

エメラルドのフォトルミネッセンス(PL)は、微量のクロム不純物により発生します。エメラルドのPLスペクトルは石の起源によって異なる2つの特性を示します。筆頭筆者である David Brian Thompsonとそのチームは、地理的起源の証拠の可否を提示するために、コロンビアやアフガニスタン、ザンビア産エメラルド48個のPLスペクトルを検査します。

ドイツ・フライウングにある WIEDE’S CARBIDWERK(ヴィーデス・カービドヴェルク)社製造の合成スターサファイアとルビー

Synthetic asteriated corundum
直射日光下の合成ブルースターサファイアのカボションカット3石と合成スタールビーのカボションカット1石。ルビーの重量は8.92ctで、サイズは13.2×11.0㎜、左下にあるサファイアは重量3.67ct、直径9.1mm。写真撮影:K. Schmetzer

1950 年代、Wiede’s Carbidwerk(ヴィーデス・カービドヴェルク)社は商業市場用の合成スターコランダムを成長させる方法で特許を取得しました。同社は1970年代後半まで商品を販売しましたが、1960年代以降のサンプルは初期のものとは多少異なります。Karl Schmetzerと共著者たちは、これらの合成石を成長させるためにWiede’s社が使用したベルヌイ法の変則法を探ります。

「ダルメシアンジャスパー」の本当の色

Dalmatian stone
今回の調査で検査したダルマチア石のサンプルによって、斑点の外観は、フェルスパー(長石)-クォーツのマトリックスを通って拡散したアルカリ角閃石の存在と関連があることが明らかになった。左:ブロックの形をした原石試料、サイズ 1.5 × 1.5 × 1cm。右:研磨済みブレスレット(ビーズ直径1cm)と長さ3cmのペンダント。写真撮影:Tomasz Powolny

黒い斑点(アルベゾン閃石と同定)があるため業界では「ダルメシアンジャスパー」として知られる模様の付いたこの宝石は、既刊文献ではあまり取り扱われていません。Tomas PowolnyとMagdalena Dumańska-Słowikが石の鉱物組成と特性を調査します。この調査では、この素材はジャスパーとしての宝石学的定義を満たしていないため、「ダルマチア石」という名前で呼ばれるべきだと提案しています。

コロンビアのエメラルド産業:変化の風

Columbian Industry
ムゾー鉱山などコロンビアのエメラルド産地には独立鉱山として長い伝統がある。人生を変えてくれる石を見つけることへの希望は採鉱者たちの強い動機になるが、公的システムへ彼らを組み入れることは難しい課題である。写真撮影:Andrew Lucas

コロンビアにおけるエメラルド採鉱は 1000 年以上も溯ります。ですが、この産業には多国籍企業が透明性とトレーサビリティが最前線に来るように投資しているため、その最大のチャンスはまだこの先に待ち受けています。コロンビアのジェモロジストDarwin Fortaleché 氏が率いるこの探査のフィールドレポートでは、同国の「鉱山から市場まで(mine-to-market)」のエメラルド産業における近年の変化を記録しています。

ラボノート

A 17.15 ct brown dyed precious opal
ブラジルのキンバーライトから産出した50.8ct Ia型ダイヤモンドに見られる、融食により生じた十二面体晶癖。右:この 20.1ct、Iカラーのラウンドブリリアント石はブラジル産原石からカットされたもの。

GIA ラボからの最新情報には、ブラジルのキンバーライトから産した高品質ダイヤモンド、フラックス熱処理のルビーとベリリウム拡散のサファイアへの合成オーバーグロースGIA の iD100 スクリーニング装置を使った天然ダイヤモンドと合成メレーの識別に関するレポートが含まれます。

ミクロの世界

0.62 ct diamond
暴風雨の中の花を連想させるこのインクルージョンの様子は、修正ラインベルク照明法を使ってスリランカのエラヘラ産サファイアに見られる成長が阻止された状態と薄膜ロゼッタインクルージョンを際立たせることにより、劇的に強調されている。顕微鏡写真:Jonathan Muyal、視野 1.34 mm。

G&G の顕微鏡写真法によるセクションでは、スリランカ産サファイアの花のようなインクルージョンクォーツ内の銀のようなルチルのインクルージョン、およびフルオライトが内蔵する目に見えるバライトのインクルージョンを取り上げています。

ジェムニュースインターナショナル

sapphires
これらサファイア(0.64 ~ 8.27ct)はナイジェリア北部のアンタングとゴンべで採れたもの。写真撮影:Shunsuke Nagai。

秋号 GNI セクションではモザンビークのルビー採掘についての最新情報バナジウムを高濃度に含有した青緑色パイロープ/スペサルティンの分析、およびナイジェリア北部の新しい原産地から採れたとされるサファイアの検査が特集されています。

Jennifer-Lynn Archuleta は、Gems & Gemology(宝石と宝石学)の編集者です。