現代の研究ニーズに光明を投じる数十年前の合成アレキサンドライト


合成アレキサンドライト(Creative Crystals Inc.製)の原石とファセットカットされた石は、昼光下(青緑色)および白熱光下でこのように見える。 写真:K. Schmetzer、The Journal of Gemmology
図 1. Creative Crystals Inc.(クリエイティブ・クリスタル社)製の原石およびファセットカットされた合成アレキサンドライトに、太陽光(ブルーグリーン、上)および白熱灯(下)をあてたもの。 結晶をb卓面と平行(1、2)、rプリズムと平行(3、6)、またはl 両錐体と平行(4)の種結晶上で成長させたもの。13.49カラットのファセットカットされた合成アレキサンドライトは16.6×11.8mm(5 )の大きさで、rプリズムと平行な種結晶上で成長した。 写真:K. Schmetzer、The Journal of Gemmology(宝石学ジャーナル)。
何十年もの間、天然由来の色のカラーストーン(エメラルド、ルビー、サファイヤ等)については、価値に大きな影響を及ぼす原産地の研究が大いに注目を集めてきました。。 合成カラーストーンは、同種の天然のカラーストーンと比較してカラットあたりの価格はそれほどではありませんが、成長技術と、場合によっては製造業者を特定できることは、ジュエリーの消費者、研究者、または収集家にとって価値があります。 例えば、多くのフラックス法や熱水法の生産者は、より短期間で生成した火炎溶融法またはチョクラルスキー法による結晶といった、彼らの 「高級合成石」に対してプレミアムを要求することができます。

1971年から1980年代初頭にCreative Crystals Inc.(クリエイティブ・クリスタル社)が製造した合成アレキサンドライトは、本物のレッド-グリーンのカラーチェンジ(図 1)を示しています。しかしここ30年間は製造されていないので、これらの標本は希少です。 Karl Schmetzer、Heinz-Jurgen Bernhardt、およびThomas Hainschwangによる最近の研究(「Creative Crystals Inc.(クリエイティブ・クリスタル社)のフラックス法合成アレキサンドライト」(The Journal of Gemmology: 宝石学ジャーナル、2012年、33号、No.1-4、49~81頁)では、同社の歴史、どのように種結晶が生成されたか、どのように結晶を成長させたかなどについて、これらの特別な合成石に観察された、独特な成長ゾーニングの謎を解きながら、詳細にわたって興味深く説明されています。

入手可能な文献を徹底的に見直すだけでなく、この製造中止された素材の非常に典型的なグループのサンプルを収集した著者達の努力は、称賛に値します。 記事には、これらのアレキサンドライトを成長させるために使用された様々な種結晶の起源および配置について、興味深い豆知識が記事に織り込まれており、実用性に対する考慮と研究ベースの調査結果の両方がどのように生産と最終的な品質に影響を与えるうるかを示しています。 記事のハイライトは、Creative Crystals Inc.(クリエイティブ・クリスタル社)の前オーナーであるDavid Pattersonが振り返った、2ページにわたる歴史です。

この顕微鏡写真は、ファセットカットされたCreative Crystals Inc.(クリエイティブ・クリスタル社)製合成アレキサンドライト内に見られる、強烈なカラーゾーニング特有の層状成長跡を示している。液浸、視野5.3×4.0mm。 写真提供:K. Schmetzer、The Journal of Gemmology(宝石学ジャーナル社)
図2. この顕微鏡写真は、ファセットカットされたCreative Crystals Inc.(クリエイティブ・クリスタル社)製合成アレキサンドライト内に見られる、強烈なカラーゾーニング特有の層状成長跡を示している。液浸、視野5.3×4.0mm。 写真:K. Schmetzer、The Journal of Gemmology(宝石学ジャーナル)
これらの合成石ならではの特徴を捉えるために、著者は、顕微鏡を用い細部に至る研究を行いました。 X線蛍光、電子線マイクロプローブ、及び赤外線から紫外線に至る吸収分光法を含む、いくつかの他の技法が、化学的および光学的ゾーニング、多色性、吸収帯、および内包物といったそれぞれの特徴を捉え説明するために使用されました。 著者は、種結晶の配置が形態に与える影響など、成長パラメータと結晶の特徴との間に明確な相関関係を描き出しています。 さらにもっと意義深いのは、著者は以前には説明されていなかった内部成長バンド(図 2)を複数の成長サイクルにリンクしていることです。 成長中の結晶は、実際その成長を評価するために、繰り返し炉から取り出されていたのです。 同様に、 I.G. Farbenは、1930年代に複数の成長サイクルを使用して合成エメラルドを生成しました(Karl Schmetzer、Lore Kiefert著 「The colour of Igmerald: I.G. Farbenindustrie flux-grown synthetic emerald」、 The Journal of Gemmology(宝石学ジャーナル)、1998年、26巻、3号、145~155頁)。 I.G. Farbenが20日周期で一定の温度の溶融を保つのに対し、 Creative Crystals(クリエイティブ・クリスタル)は1週間のサイクルで溶融物をわずかに冷却します。  合成アレキサンドライトの生成に温度勾配を使用することは、さらに数年間実践されていませんでした(Karl Schmetzer、私信)。 ロシアで商用に生産されたフラックス法のアレキサンドライトとの比較も、特性評価の技術がどのように生成過程の詳細を明らかにすることができるかを示しています。

記事は、46の図表と100を超えるの画像を含み、33ページにわたっており、手軽に読めるものではありません。 しかし、結晶の生産者や、合成宝石について詳細を理解することに本当に興味がある者にとっては、この記事は、結晶生成エンジニアリングプロセスへの窓となり、サンプルの特徴がその起源を明らかにする方法を知る手段となります。 他の合成素材が同様に研究されており、さらに他の合成石やより高度な特性評価技術が出現するにつれて、このような分析の必要性は引き続き増加します。

Jennifer Stone-Sundbergは、結晶成長と特性評価技術を専門とする、Crystal Solutions(クリスタル・ソリューションズ)のマネージング·ディレクターです。 『Gems & Gemology』(宝石と宝石学)のテクニカルエディターで、 オレゴン州立大学で無機化学の博士号を取得しています。