炭化ホウ素:ブラックダイヤモンドの新たな模造石


この1.04カラットの黒く、亜金属光沢をしたラウンドブリリアントは、当初ダイヤモンドとされていたが、その後炭化ホウ素と鑑別された。 写真:G. Choudhary
図1. この1.04カラットで黒い亜金属光沢のラウンドブリリアント石は、初めダイヤモンドと言われていたが、炭化ホウ素と同定された。 写真:G. Choudhary
ここ数年ブラックダイヤモンドが人気を得るにつれ、黒の合成モアッサナイトと結晶シリコンの凝集体も人気を得ています(ラボノート2011年春号 P54~55)。 ジャイプールのGem Testing Laboratory(宝石検査ラボ)に届けられた1.04カラットの黒い亜金属光沢ラウンドブリリアント石(図 1)の試料は、黒の合成モアッサナイトのように見えましたが、そうではないことが判明しました。 これは所有者にはダイヤモンドとして提示された品でした。

市場やラボで黒の合成モアッサナイトが蔓延しているため、我々はすぐに顕微鏡下で典型的な凝集構造の確認をしました。 反射光で粒状の模様ははっきりと見えましたが(図 2)、黒の合成モアッサナイトに通常見られるものよりも、はるかに緻密で細かいものでした。 これによって疑義が生じたため、さらなる宝石学検査を行いました。 試料は、RIがスケールオーバー、SG2.43、モース硬度9以上でした。 SGの低さから合成モアッサナイト(SG3.22)の可能性は否定されましたが、試料の同定についてそれ以外の手がかりは何ら見い出されませんでした。

炭化ホウ素のブラックダイヤモンド類似石
図2. 反射光下で炭化ホウ素試料は、通常はセラミックス等の凝集体に伴う、密で細かい粒状構造を示した。 顕微鏡写真(拡大4​​8倍):G. Choudhary
EDXRF定性分析では、鉄と少量のケイ素とカリウムが示されました。532nmのレーザー励起を使用して複数点から撮影したラマンスペクトルでは、約260、320、480、532、720、1088 cm-1で主要ピーク、そして約800、824、874、967、998 cm-1で弱めのピークが示されました。 この特徴の組み合わせは我々のデータベースで一致するものはありませんでしたが、広範な文献検索を行ったところ、炭化ホウ素のラマンスペクトルと完全に一致することが明らかになりました(V.Domnich他著「Boron carbide: Structure, properties, and stability under stress(炭化ホウ素:構造、特性、およびストレス下の安定性)」Journal of the American Ceramic Society(米国セラミック学会誌)、94巻、11号、2011年、P3605~3628)。    

炭化ホウ素は高硬度、低密度、熱安定性、極度な耐摩耗性を有する高度なセラミック素材で、核、軍事および航空宇宙用途に適しています。 この素材は基本的に、電気アーク炉内で炭素と酸化ホウ素(B2O3)を反応させ融合させた後、温度1900-2200oC、圧力0.02-.04 GPaの真空又はアルゴン気下で、15〜45分間、黒鉛鋳型のホットプレス焼結工程にかけることにより製造されます(Singhal&Singh著「Sintering of boron carbide under high pressures and temperatures(高圧高温下での炭化ホウ素の焼結)」、Indian Journal of Engineering and Materials Sciences(エンジニアリング・材料科学インドジャーナル)、13巻、2006年4月、P129~134)。
    
炭化ホウ素は、戦車の装甲、防弾チョッキ、南京錠などに傷のつきにくいコーティングやめっきを施すといった機械工学および材料科学の用途では一般的ですが、ダイヤモンド類似石としての利用は我々の初めて見るものでした。 検査からもこのセラミック素材が宝石として用いられているということは判明しませんでした。 炭化ホウ素を、ブラックダイヤモンドや合成モアッサナイトと区別することはSGを利用すれば容易でしたが、判別にはラマンスペクトルと参照データが必要でした。 市場への浸透の可能性は排除できません。

謝辞:徹底した文献調査を行ってくださった宝石試験研究所のスタッフジェモロジストであるSandeep Vijay氏にお礼申し上げます

Gagan Choudhary氏は、インドのジャイプールのGem Testing Laboratory(宝石検査ラボ)の副所長で、Gems & Gemology(宝石と宝​​石学)に定期的に投稿しています。 Chaudary氏へのご連絡はgagan@gjepcindia.com まで。