2016年の浮き沈みが、2017年に不透明感を与える
1月 20, 2017
ダイヤモンド業界は、2016年に低成長の経済回復を経験し、カラー宝石の取引は、政治的には激動の年であったもかかわらず効果的な刺激策を得ました。
高級ブランドにおいては、売上げが世界中で2年連続して低迷が続き、世界最大の市場である米国では波乱万丈の大統領選挙が国民の動向に多大な影響を及ぼしたこともあり、ジュエリーの需要は、沈滞した成長と若干の減少との間で変動しました。 世界第2の小売市場である中国の消費者による高級ブランド品の購入は引き続き低下し、同国の主要な宝石商の売上は2年連続で2桁の減少を記録しました。 インドでは高額紙幣廃止政策で混乱が広がったため、需要が年末に衰退しました。
見通しがこのように複雑なため、2017年の宝飾品業界について明確に予測するのは困難となります。
ダイヤモンド
ダイヤモンド業界は、2016年に突入するや否や混乱に陥りました。 2015年にデビアス、Alrosa(アルロサ)やその他の生産者による原石の売上が急激に削減したため、価格の低下および利益の減少の原因となった推定8ヶ月の過剰在庫を減らすのに貢献しました。 原石の価格はほとんどの場合同等の研磨石の価格を上回っており、与信枠を30%またはそれ以上減少されたダイヤモンド製造業者は、デビアスとアルロサからの割り当てのほとんどを拒否しました。
デビアスとアルロサの両社は、契約販売の価格を年初に切り下げ(それぞれ平均5%と15%)、他の生産者も後に続きました。 回復が驚くほど迅速であったため、多くの企業が再び黒字で製造できるようになりました。
2016年の年末には、大手鉱山会社が良い結果を報告しました。 デビアスは原石の売上高が56億ドル~58億ドル(約6,552億円~6,786億円)で同年を終えたと推定されており、原石の価格を下げたにもかかわらず、激動の2015年からほぼ30〜35%増加したことを示しています。 アルロサの売上高は2016年の第3四半期中に48%(39.8億ドル、約4657億円)上昇し、今年の年末までそのペースを維持すると予測されました。 Rio Tinto(リオティント)の売上高は、2015年以降は3〜5%上昇すると予測されました。
しかし、これらの数字は、数年にわたって不採算の状態が続いた後にデビアスが今年閉鎖を計画している、カナダ北部のスナップレイク鉱山を救済するには十分ではありませんでした。 さらに、リオ・ティントは、インドで有望とされていたバンダーダイヤモンド採鉱事業から開発が始まる前に退散してしまいました。
銀行は、2016年にダイヤモンド業界の信用供与に関する条件を依然として引き締めており、その結果いくつかの大規模な事業が財政難に陥りました。 信用供与は、2017年に突入するにあたり難しいままとなり、将来的にもおそらくそのままの状態が継続するでしょう。
原石の売上高における劇的な増加は、上昇しつつある需要と完全に一致しなかったので、春季の後に在庫が増加し始め、大手の貸し手銀行であるABN AMROは株式市場で持続不可能な水準に達する可能性があると警告する原因となりました。 その結果、デビアスとアルロサはおそらく第1四半期の販売において引き続き慎重になるでしょう。
5年ぶりに、一般的なダイヤモンドの広告が米国で復活しました。 デビアスを含む、世界の7大ダイヤモンド採鉱会社の団体であるThe Diamond Producers Association(ダイヤモンド生産者協会)は、「Real is Rare(本物は貴重)」というキャッチフレーズを掲げて、10月に1200万ドル(約12億6000万円)のプログラムを立ち上げました。
様々なソーシャルメディアやテレビを使って流されるキャンペーンは、クラブやリゾートにいる若いカップルを使い、過去何年もデビアスが使っている「永遠に」のキャンペーンと同様に、引き続き男女の関係に基づいて制作されました。 しかし、古いキャンペーンと新しいキャンペーンの間には違いがあります。 過去のデビアスの広告は、婚約や結婚記念日のジュエリーに限定していましたが、 “Real is Rare” (「本物は貴重」)のキャンペーンでは、現在の男女の関係における形式やしきたりを強調する代わりに、天然ダイヤモンドが合成ダイヤモンドよりも望ましいという意味が含まれています。
合成ダイヤモンドは、俳優のレオナルドディカプリオが一部出資した新しい事業、Diamond Foundry(ダイヤモンドファウンドリー)が年初に創業した際に話題になりました。 この新規事業は、代理店の4社を通してラボで生成されたダイヤモンドのテストマーケティングを開始し、2017年の終わりに生産施設をオープンする計画です。
無色の合成ダイヤモンドは2016年にダイヤモンドの売上高のごく一部にとどまりましたが、それらの商品の生産者と販売者はマーケティング活動や販売経路を拡大しているため、売上はおそらく2017年に上昇するでしょう。
カラー宝石
オバマ大統領が秋にミャンマーからの8年間に渡る輸入の禁止令を撤廃したため、世界におけるルビーの主要な原産地である同国が再びルビーを合法に取引することができるようになりました。 いくつかの小売業者や卸売業者はこの禁止令を無視していましたが、ほとんどの米国の大手小売店は、この禁止令の施行中はルビーの作品を所有していませんでした。 モザンビークルビーは、過去2年間における供給のギャップを埋めるのに貢献したものの、いくつかの小売業者やジュエリーデザイナーは、ルビーといえばミャンマーを連想させるものであるため、どこの産地であろうとルビーを扱えば疑惑が付きまとうと懸念していました。
この禁止令は高級品の市場にはあまり効果がなく、米国のトレードショーではディーラーがビルマ産の「ピジョンブラッド」ルビーを公然と展示し、販売していました。
禁止令が撤廃された効果は、宝石のディーラーが供給ラインを再び確立するのに時間を必要とするため、今年後半までは消費者市場では影響が及ばないかもしれません。
Responsible Jewellery Council(責任あるジュエリー協議会)は、2017年にカラーストーン生産者の認定を開始すると3月に発表しました。 この戦略は、業界に携わる各方面との5年間にわたる協議の結果、決定されました。 この業界のダイヤモンド、ジュエリー、時計の分野から、900社の会員企業がRJCに登録しています。
小売り
成長を続ける米国経済によって小売業に対する楽観論が強まったものの、年間を通したダイヤモンド需要の急激な上昇にはつながりませんでした。 主要小売チェーンは、年間を通して不均一な売上高を報告し、第4四半期では売上高が若干下落しました。 米国のほとんどの大手小売店は1月下旬に季節調整値を報告します。
独立した宝石商の調査によると、より多くのプラス成長が報告されており、特に高級品の市場では、大部分の宝石商が5%以上の売上増加を報告しました。
中国では、市場が低迷し続けているため、最大の小売宝石店が二桁の売上減少を引き続き報告しました。 香港政府統計局によると、香港におけるジュエリーや時計の小売売上高は、2016年の最初の11ヶ月間で19%の減少となりました。 中国の当局者は、経済を刺激する必要性を認識している政府が消費者の支出を奨励するための措置を採用するため、2017年には改善されると期待しています。
インドの政府が500ルピー紙幣(約800円)と1,000ルピー紙幣(約1600円)の流通を差し止めた後、インドの小売業におけるジュエリーの売上は11月に直ちに打撃を受けました。 この高額紙幣の廃止は、銀行を通じて多くの商取引を促進し、政府がそれを追跡して、汚職、マネーロンダリングや脱税の機会を減らすことを目標としていました。 しかし、多くの人々は、このような紙幣を用いて現金で支払いをし、銀行口座を持っていません。 経済学者は、この政策のためジュエリーなどの小売売上高が大幅に削減し、経済成長が1ポイントまたは2ポイント減少すると予測しています。
中国で景気が後退したり、過去10年間に流行していたきらびやかな装いから離れていく傾向が依然として残り、高級品の今年の売上げは世界的に下落しました。
スイスの高級時計の輸出は秋に急速に低下し、2016年の最初の11ヶ月で11%減少しました。 このため、業界全体で数百件の解雇が行われました。 役員は、変化を遂げる好みや市場の「新しい現実」に合わせるために努力を惜しまないと述べました。
オークション
2016年春季オークションシーズンは3月から7月の間にほぼ8億ドル(約860億円)の売上げを達成したことと、これまでの一般向けのオークションで競売に掛けられた最も高価な宝石を取り扱ったことにおいて記録に残るものでした。
世界の高級宝石とジュエリーの売上の90%以上を占めるクリスティーズとサザビーズは、GIAがグレーディングしたファンシービビッドブルーダイヤモンドのOppenheimer Blue(オッペンハイマーブルー)が5710万ドル(約61億円)で売られたため、昨年の記録を1億4千万ドル(約151億円)以上で破りました。
昨年初めて販売した主要な石は、10.10カラットのファンシービビッドブルーのDe Beers Millennial 4(デビアスミレニアル4)ダイヤモンドでした。 その石は2000年にロンドンのミレニアルドームで展示されたデビアスの有名な10個のブルーダイヤモンドのコレクションの一部であり、泥棒が大胆にも窃盗を企てましたが失敗に終わりました。
秋季は後れを取り、いくつかの重要なダイヤモンドや宝石が売れ残ったままになっていました。 しかし、数百万ドルもの数多くのファンシーカラーダイヤモンドが徐々に販売され、販売価格が記録を更新しなかったものの最終的には成功を収めました。
11月29日に香港で開催されたクリスティーズでは、GIAで鑑別された4.29カラットのファンシービビッドブルーダイヤモンドが1180万ドル(約13億2000万円)で販売され、10.7カラットのRatnaraj(ラトナラジュ)ルビーが1020万ドル(約11億4000万円)で販売されました。 ジュネーブで行われたサザビーズでは、総計1億3600万ドル(約152億3200万円)以上の売り上げがあり、GIAがファンシービビッドブルーとグレーディングをした8.01カラットのSky Blue(スカイブルー)ダイヤモンドが1700万ドルあまり(約19億円)、そして7.74カラットのファンシーディープブルーダイヤモンドが370万ドル(約4億1000万円)で落札されました。
今年最も話題となったオークションは、6月29日に行われたオークションで競売に掛けられ、かつて発見された中で2番目に大きい宝石である、1,109カラットのLesedi La Rona(レセディ・ラ・ロナ)ダイヤモンドでした。 このダイヤモンドを発見した採鉱会社Lucara Diamond(ルカラ・ダイヤモンド社)は、サザビーズを通じてこのダイヤモンドを公売に提供しましたが、推定8200万ドル(約92億円)の最低落札価格に届きませんでした。
同社は、おそらく12%の買い手の落札手数料を含まない取引料金のみで今年もこのダイヤモンドを販売すると発表しました。
Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。