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ジェード・レポート:採鉱増加が引き起こす多大な在庫


ジェダイトのグラジュエイトビーズのネックレスです。
半透明の緑色のジェダイトのビーズが27個並んだ、Hutton-Mdivaniのジェードネックレス。2014年4月7日、香港で開催されたサザビーズのMagnificent Jewels and Jadeite Saleでビーズ1個当たり100万ドル以上に値する総額2740万ドル(28億3千万円)で落札された。 ビーズは、サイズが直径15.4~19.2ミリメートルのグラデーションとなっている。 写真:サザビーズ

Harvard University(ハーバード大学)が公共政策でのイノベーションの推進を目的として行っているアッシュセンターのレポートによると、中国の小売市場は低迷していますが、ミャンマーのカチン州にあるジェードの採鉱が増加しているため、ジェードの在庫が大幅に増加しています。

このレポートは、ほぼすべてのジェダイトの産出地である30平方マイル(78平方キロメートル)に渡るカチン州パーカンの政府筋や宝石商による情報に基づくものです。 レポートの筆者はジェダイトの生産が2015年に増加し始めたことを指摘し、香港のジェードの宝石商はミャンマーの国境近郊にある倉庫や宝石商の金庫で多大な在庫が増加し続けているというレポートの観測を確証しました。 このレポートはジェードの在庫数に関しては推定していませんが、ジェード取引に関与するかあるいはこれを監視する関係者とのインタビューによると、在庫数は多大なものと推測されています。

「中国が国内の在庫数を減らしたいのならば、おそらく5〜10年もの間(新たに産出された)ジェードなしで減らすことができるでしょう」と、宝石商と政府に深く関与しているミャンマーに拠点を置く関係者は述べています。

ジェードの採掘量が急増し、それを吸収する市場の能力をはるかに上回っているため、ジェードの在庫が積み上がっています。 一部の商品は、評価に関する議論が続いているため税関で留め置かれています。また、最近ではジェードが安価になったため、より良い品質の素材を販売することへの抵抗もあります。 ジェードの採鉱における資本コストが低いため銀行からの融資に依存する必要がなく、在庫を保有しても追加費用が発生しないため、生産者や宝石商が多大な在庫を抱えるのには問題がありません。  

このレポートは、2015年1月から9月の間(入手可能な最新の数字)におけるジェードの産出量が24,000トンを記録し、これは2014年の同時期の2.5倍であることを示しています。

ミャンマーの中央政府は、違法採掘に反対する活動を行うカチン独立軍が関与しているため、違法採掘を制御することができないとレポートは報告しています。 ミャンマー政府は、土砂崩れで採掘者の多くの命が失われた後、新たな採鉱ライセンスを制限し、採鉱の中断を試みることで、パーカン地域への立ち入りを制限しています。

しかし、ジェードの採鉱は継続しており、採鉱ライセンスを所有していない20万人にも及ぶ採掘者が巨大な廃棄物の山を作り上げ、深刻な社会問題および危険な状態が発生しています。 Radio Free Asia(ラジオ・フリー・アジア)によると、2月10日にスラグの山が崩壊し、9人の採掘者が死亡しました。  

バイヤーが観察できるようにジェードの巨礫や破片が地面に広げられる。
ミャンマーのマンダレーの郊外であるアマラプラで行われた2012年ジェード市場で売買する宝石商やバイヤー。 写真:Maxine Hesse

小売業におけるジェードの需要の減少

アッシュセンターは、パーカンにおける2011年のジェードの生産額は79億ドル(6320億円)であり、採掘活動の増加により2015年には150億ドル(1兆8200億円)まで増加すると推定しました。 2015年のGlobal Witness(グローバル・ウィットネス)のレポートは、ジェードの取引額を310億ドル(3兆7500億円)と推定していますが、ほとんどのアナリストがこの数字は過大であると同意しています。 その数字を比較してみると、2015年に世界で採鉱されたダイヤモンド原石の生産額は、140億ドル(1兆6900億円)弱であり、世界の研磨済みダイヤモンドの卸売額は220億ドル(2兆6620億円)でした。

中国のジュエリー小売業者は、ジェードの売上高が2016年に20%以上減少したと報告しています。 2016年9月に開催されたHong Kong Watch and Jewellery Show(香港ウォッチ&ジュエリーショー)へ参加したジェードの宝石商は、中国政府が汚職を削減する方法として大規模な現金購入の取り締まりを開始したため、最高品質「A」のものであってもジェードの価格が過去2年間で20%〜40%も急減したと報告しています。 また、中国政府は需要を阻止するためにジェードの輸入に消費税を制定しました。

中国の一流小売業者は売上高を宝石の種類別に発表しませんが、同国の最大チェーンである、香港に拠点を置くChow Tai Fook(周大福)社が所有する2,057の店舗は、2016年に72億ドル(8000億円)の売上高を記録し、これは最高記録を達した2014年の99億ドル(1兆1000億円)から下落しています。 宝石(ジェードを含む)がセットされたジュエリーは、同社の売上高の27%を占めています。

中国のもうひとつの大手ジュエリー小売店、Chow Sang Sang(周生生)の売上高は2016年度には16%減の10億ドル(1111億円)となり、ジュエリーの大手小売チェーン店であるLuk Fook Holdings(六福集団)の売上高は同年度に21%減少し7億ドル(777億円)となりました。

ジェードの大半は中国で作業が行われ、推定50万人もの作業員が様々な製造の段階で従事していると、宝石商は語ります。 多くの場合、ジェードは専門の小売店や伝統的な市場で販売され、これらの業者は販売活動を開示していません。 しかし、中品質「B」ジェーとと低品質「C」ジェードは、WeiboやWeChatのような中国のインターネットサイトを通じて数多く販売されています。 中国でのレポートによると、インターネットにおけるこれらの販売が伝統的なジェードの小売業者の売上高に打撃を与えています。

巨礫の破片には、ジェードがリボンの様に横切っている。
採鉱された巨礫の破片には、ジェードがリボンの様に横切っている。 これは、ミャンマーのマンダレーで発見された。 写真:Robert C. Kammerling / GIA

ミャンマーにおけるジェード採鉱の将来

アッシュセンターのレポートによると、生産の調節、環境および安全基準の強化、政府の歳入の復元を図る目的で、ミャンマーのジェードの生産に対して十分な制御を取り戻すことは非常に困難な作業になります。

ミャンマー北部の中央に位置する大きな州、カチン州における紛争は何年にも渡って続いています。 アッシュセンターのレポートによると、カチン独立軍の一部の者は、この地域を通過する人々や企業から徴収する「通行料」に加えて、不法に採鉱されたジェードの売買で収入を得ています。 このため、交渉においてはこれらの要因を十分に考慮する必要があります。

さらに複雑な問題として、その多くが中国人である鉱山の利権の所有者は、政府による保健と教育のプログラムをサポートするのに十分な税金を積極的に払う必要があるのだが、これはとりわけ鉱山労働者の間で薬物中毒が蔓延し続けており、こうした人々がそのような社会福祉を必要としているためである。

アッシュセンターは収益分配システムを提案しました。このシステムでは、鉱山の所有者は輸出したジェードの卸売価格全額の50%の使用料と事業税を支払い、鉱山の利権を維持することができます。 そして軍隊と分離独立派グループの両方に支持されている、カチンで選出された政府は、環境政策を施行し、住民に健康や教育に関するサービスを提供できます。 また非政府組織は、これらの基準が守られていることを確認する監視としての役割を果たせるでしょう。

さらに、公正に電力を共有することで、水力発電事業を開発することが可能となり、琥珀や金などこの地域で産出されるその他の資源を責任を持って採鉱する能力を養うことができるとこのレポートは主張しています。 

Russell Shor は、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。