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稀少な書籍のプロジェクトにより、宝石と宝飾品の歴史に手が届くように


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デジタルトランジションのBC100は非常に専門性の高い装置であり、1648年にUlisse Aldrovandiが執筆したこの文書のように、稀な書籍をGIAの技術者が安全にデジタル化することを可能にする。 写真撮影:Robert Weldon / GIA

慎重に本のページをめくるのは「本当に神経を使います」とSarah Ostryeは言い、多大なる責任感を感じたと言います。  

彼女の手の中にある書籍は普通の代物ではなく、516年前に書かれたプリニウスの『Natural History(自然史)』で、これはGIAにある6万4千点のコレクションの中でも最も古いものとなります。

GIAのRichard T. Liddicoat宝石学図書館情報センターの研究司書とデジタルアーキビストを務めるOstryeは、カルティエの貴重書保管所およびアーカイブの棚より、宝石学、鉱物学、そして宝飾品における最も希少で価値のある数千冊の書籍をGIAに持って来る複数年に渡る活動を率いており、それらの書籍が世界中のコミュニティから簡単にアクセスできるようにお手伝いしています。

現在までに、図書館に収容された200冊以上の歴史的に重要な書籍がデジタル化されており、非営利のデジタル図書館インターネット・アーカイブにて無料でご覧になれます。 民間の反応:プロジェクトが2015年7月に発足されて以来、毎月の書籍の閲覧数は着実に増えており、2015年7月で378だった閲覧数は、2016年9月には1922になりました。

それはGIA図書館の館長で、デジタル化プロジェクトのアーキテクトでもあるDona Dirlamにとっては喜ばしいニュースです。

「これらの情報を提供することによって、民間により信頼してもらえると思います」と彼女は言います。 「宝石学と宝飾品業界の現状と将来は、その歴史を深く知ることにかかっています。私たちの業界の科学とビジネスを理解することが基礎となっているのです。」

美しく、稀少な本が積み重ねられていたり、並べてあったりして展示されている。その一冊はページが開かれている。
GIAのRichard T. Liddicoat宝石学図書館情報センターのディレクターであるDona Dirlamは、Richard T. Liddicoat、Glenn Nord、Kurt Nassau、Bill Boyajianなどの初期の支持者たちが、この図書館が宝石と宝飾品業界の「世界級の情報源」になることを信じていたと述べている。 「今はこのコレクションの本をデジタル化することができるので、世界中のコミュニティにこれらの情報をお届けすることができます」と彼女は言う。 写真撮影:Emily Lane/GIA

すべてのアクセス

プロジェクトが目指していることは、朝のコーヒーを飲みながら新聞を読むように、簡単にSowerbyの1817年に発行された『British Mineralogy(英国の鉱物学)』を読めるようにすることです。 以前は、カリフォルニア州カールスバッドにある同研究所の世界本社で予約をとってから訪問をしなければいけなかったのが、今やマウスでクリックするだけになったのです。

Dirlamは、GIAの図書館員が85年間に渡って保管してきたコレクションをより多くの人に見てもらうための作業に30年以上取り組んできました。 (研究所が1988年にJohn and Marjorie Sinkankas宝石学図書館を買収したとき、コレクションのサイズが圧倒的に増えました。)

「Sinkankasコレクションを入手し、GIAの既存の希少本のコレクションもあったので、図書館の物理的な壁を越えて、どのようにもっとアクセスしてもらうかを考え始めました。 また、John Sinkankasの最も大きな願いの一つは、彼が生涯かけて集めた作品をできるだけ多くの人に見てもらうことでした」とDirlamは述べます。 「技術の進歩により、このプロジェクトのおかげで図書館が開かれ、世界中の閲覧者がアクセスできるようになりました。」

図書館のマネージャーであるPaula Rucinskiを含めたDirlamのチームは、何年にもわたり、地球科学図書館員からロサンゼルスのGetty保管センターのスタッフまで複数のデジタル化の専門家に相談しました。 実行案は最終的に2014年後半に固まり、GIAの経営陣が予算を承認し、2014年12月に特別の装置を購入し、Ostryeが雇用されたのです。

GIAの図書館員は、図書館のコレクションをデジタル化するにあたっての優先順位を決めるために、科学者や宝石業界のリーダーたちの意見を求めました。 最も希少な課題を扱ったものや、著作権侵害がないものも追加しました。

ルネッサンスまでの全ての科学における基礎でもあり、今尚存在するローマ帝国時代からの最大の単一作品でもあるプリニウスの百科事典に加えて、先にデジタル化された本には1801年発行のRenée Just Haüy著『Treatise of Mineralogy(鉱物学に関する学術論文)』、 1511年のBishop Marbodeの論文『Book of Precious Stone(貴石の本)』なども含まれています。Marbodeの作品は中世最古の宝石細工(宝石の本)のための書籍で、グーテンベルクの可動式活版印刷機で印刷された彼の初の書籍です。

ロシアのロマノフ王朝のレガリアとクラウンの宝石の1925年から26年のカタログは特に稀で、デジタル化された200冊目の本でもあり、その406点のコレクションが初めて一般に公開されたのでした。

デジタル化プロジェクトでは、これらの稀で傷みやすい本は、常に大切に保護されました。

「全ての面で慎重に保護し、このコレクションを守るためにあらゆる予防措置をとっています」とDirlamは述べます。 「Sinkankas図書館からの作品や他の希少本は、温度と湿度が制御された部屋に収容されています。 もし洪水や火災などの自然災害が発生して書籍が損傷しても、全ての文章と写真とイラストを取り込んだデジタルファイルがあるのです。 これらの本は、宝石や宝飾品についてを物語り、将来の世代でもアクセスができるのです。」

ハイテクブックスキャナの前に立つ2人の研究図書館員。
GIA研究図書館員のAugustus Pritchett(左)とSarah Ostryeは、過去2年間にわたり、研究所のコレクションにある200冊以上の希少本をデジタル化してきた。 写真撮影:Emily Lane/GIA

骨の折れるプロセス

デジタル化プロセスは実に繊細で、技術者にとっても複雑なものです。Ostryeや研究司書であるAugustus Pritchettは、扱いにくい資料もデジタル化するように託されています。

「文章が本ののどに非常に近かったり、綴じが壊れやすかったり、繊細なティッシュペーパーで覆われていたり、折り込みがガラスの固定盤に合わなかったりします。 それらには余計な時間がかかり、より慎重に作業する必要があります。」とOstryeは話しています。

2人は、カルティエの貴重書保管場所およびアーカイブの近くにある安全な部屋で、交代で作業します。 部屋には高度なデジタル化処理をする装置があり(デジタルトランジションBC100ブックキャプチャシステム)、無理やり本を平らに開いて本の背を傷めずに、丁寧に本を扱うことができます。 ページをとばしたり、破けたりしないように技術者は各ページを手で開き、高解像度の画像として取り込んでから、それらを編集してTIFFファイルに変換します。 処理後に使うソフトは、異なるアルファベットでもPDFや電子書籍を検索できるように、ローマ字、キリル文字、中国語、日本語、韓国語にも対応しています。  

サイトへの訪問者により毎月より多くの本がダウンロードされているとOstryeは言い、図書館がトレンドを調査するためにも役立っています。  

「一番閲覧数が高い本を見ると、どんなトピックが人気があるかがわかります。 最も閲覧されている本の多くは、宝石や宝飾品のデザインの歴史を扱ったものです。」」とOstryeは述べています。

Dirlamによると、図書館は利用可能な電子書籍や電子カタログを増やす意向にあり、デジタル化すべき推薦図書があれば、一般からの提案も歓迎していると言います。 これは図書館がプロジェクトを通して業界や一般市民と関わっていく一つの方法であり、宝石や宝飾品に関して民間から信頼してもらうためには欠かせないことだと彼女は言います。

「世界の宝石や宝飾品産業における貴重な本、記録およびその他の書籍を保管することは不可欠な作業なのです。 Marjorie Sinkankasが『私たちは、短い時間、それらを管理保護しただけです』と言ったように、これらの書籍は、将来の世代も利用できるよう、大切に保護することが私たちの使命なのです。」とコメントしています。

寄稿者のJaime Kautskyは、GIAダイヤモンドグラジュエイトおよびGIAアクレディテッドジュエリープロフェッショナルであり、The Loupe(ルーペ)誌の副編集長を務めていました。