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間違えられやすい宝石


赤いスピネル、ビルマ産ルビー
現代の宝石学で用いられている検査が開発される前、赤いスピネルはルビーであるとよく考えられていた。左:赤いスピネルのリング、提供:Jeffrey Bilgore。右:ビルマ産ルビー、提供:Jan Goodman Co. 写真撮影:Robert Weldon/GIA

色だけで宝石を識別すると、過去に実際数回起きたように間違った鑑別につながることがあります。

その例として最も有名なのは、Black Prince’s Ruby(黒太子のルビー)です。カスティーリャ国王ペドロ1世がグラナダ王国のムハンマド太子から戦利品として略奪した後、半磨きの状態であり、卵のサイズのこの大きな深紅色の結晶は14世紀に初めてスペインで姿を現しました。この宝石は中世の時代に何人もの手に渡りましたが、最終的には英国の数人の国王の所有物として留まり、大英帝国王冠に飾られています。

しかし、王冠に飾られているこの有名な宝石は、今日ルビーとして鑑別されるのでしょうか?

そこで、Agatha Christieの推理小説に登場したベルギー人の名探偵、Hercule PoirotにBlack Prince’s Ruby(黒太子のルビー)の身元を調査する仕事を依頼し、彼の意見を聞いてみましょう。

「石に光を当てて偏光フィルターの下で宝石を観察します。同時に、その偏光フィルターを回転させて、光軸を見ないようにするためにいくつかの方向に石を傾けます。その宝石はきらめいたり、色が変わったりしますか。そうならないですね。では、ご説明しましょう。その宝石がルビーであったら、オレンジがかった赤から紫がかった赤のきらめきを放つのです。なので、この赤い石は模造石です!スピネルか赤いガーネットでしょう。」

有名な探偵であったPoirotは、ルビースピネルガーネットの基本的な違いをいくつか知っていました。光がルビーに入ると、光線が分割し(複屈折性)、ルビーの色がオレンジがかった赤と紫がかった赤という2つ(二色性)の異なる色(多色性)になるのを彼は知っていたのです。しかし、ルビーが1色に見える方向が1つあることも知っていました。これら2色を見るためには、少なくとも3つの異なる方向から石を見る必要があります。赤いスピネルとガーネットは、すべての方向から見ても同じ色のままであるため、単屈折性であることを意味します。

赤いスピネルとガーネットの特徴である単屈折性は、ルビーから区別する重要な要因となります。複屈折性は、ルビーとサファイアを鑑別するための重要な要因です。エメラルドシトリン(黄水晶)トルマリントパーズは、複屈折性が弱いため、注意して検査する必要があります。

エメラルドとツァボライトのガーネットの色はよく似ています。ペンライトとルーペを使用して複屈折性または多色性が見られるかどうか確認すると、複屈折性のエメラルドを単屈折性のツァボライトから区別することができます。また、エメラルドの光沢はガラス状からろう状となりますが、ツァボライトの光沢は油状からガラス状となります。

宝石の光沢、透明度、カット、重み、フラクチャーや現象を視覚的に観察することに加えて、宝石の光学的特徴つまり屈折を判断することが、宝石の鑑別において基礎となります。

その宝石は何ですか?

宝石に関するあなたの知識をテストしてみましょう。 これらは宝石は何かおわかりになりますか。

エメラルド形の緑色の宝石2個。1つ目は裸石(ルース)で、もう一つはリングにセットされています。

騙されやすい色

色以外にも鑑別の手がかりとなる特徴は数多くあります。

インクルージョン
10倍ルーペを使用して目で見ることができるインクルージョンがあるとガーネットではなくエメラルドだと判断できます。通常、ガーネットにはインクルージョンがエメラルドよりも少なく、液体インクルージョンまたは二相インクルージョンがエメラルドにある場合は、鑑別する際に重要な要因となります。

「リリーパッド(水蓮の葉)」(ペリドットに見られるディスクのようなユニークな液体と気体のインクルージョン)が10倍のルーペを使って見られる場合、ペリドットをデマントイドガーネットから簡単に区別できます。

光沢と不透明度
アベンチュリンクォーツとジェードは色がよく似ていますが、よく観察すると光沢が異なるため違いが明らかに分かります。クォーツがガラス状の光沢を示すのに対して、ジェードにはあまり光沢がありません。

イエローサファイア、トパーズ、ガーネット、シトリンクォーツのように同じ様に見える透明で硬い石は研磨すると光沢が増します。

宝石の鑑別において経験豊富な方は、明るくて光沢のあるサファイアの表面に反射する光の違いを簡単に確認できるでしょう。イエローオパールや琥珀のような柔らかい石の外観はろう状であり光沢があまりありません。イエローサファイアとトパーズは両方ともガラス状の光沢があり、複屈折性であるため、これらの宝石を鑑別するには高度な検査が必要となります。

青い宝石4個。
これら4個のブルーの宝石はすべてサファイアのように見えますが、サファイアは1個だけです。一番上の宝石は K & K International のご厚意で提供いただいたカラーチェンジサファイアです。左から:カイヤナイト(藍晶石、提供:GIAのEdward Gubelin博士のコレクション)、ベニトアイト(提供:B&B Fine Gems)、ブルースピネル(提供:Palagems.com)。写真撮影:Robert Weldon/GIA

硬度
サファイアはモース スケールで硬度9とされており、非常に硬い宝石です。トパーズとシトリン(黄水晶)は硬度8、オパールはやや柔らかく硬度が5~6½、そして琥珀の硬度は2であり最も柔らかい宝石となっています。また、琥珀は他の宝石と比べて非常に軽いのも特徴のひとつです。

これらの方法は簡単ですが、似たような宝石を区別するには熟練した観察力と経験が多大に必要とされます。これらの原則は近代の宝石学の基盤であり、現在もその中核として存在しています。

Sharon Bohannonは、写真の研究とカタログ化、そして記録を行うメディア編集者であり、GIAよりGGおよびAJPを取得しました。Richard T. Liddicoat 宝石学図書館情報センターに勤務しています。