モザンビーク:21世紀に向けたルビーの発見
12月 3, 2014

はじめに
2014年6月12日~17日、シンガポールにて Gemfields(ジェムフィールズ)初のモザンビーク産ルビーオークションが開催されました。これは世界のルビー取引における画期的な出来事でした。 ダイヤモンドとは異なり、カラーストーンは劇的な供給変動に直面し、価格が常に問題となってきました。 Gemfields のこの事業により、カラーストーン業界には、確かな責任と信頼に基づいて採掘・グレーディング・供給されたルビーを求める消費者層を拡大するチャンスが到来しています。 初回オークションでの総収益は3350万米ドル(約34億円)で、モザンビークのモンテプエスに位置する世界最大級のルビー鉱床に注目が集まりました。GIAは消費者保護という使命に基づく中心的活動として、常に先進的な知識と最新の業界情報を提供してきました。 モザンビーク産ルビーが最初に発見されて以来、GIAのフィールドジェモロジストは現地の採鉱現場を誰よりも先に訪れ、試料を収集し、進展を自らの目で確かめ、宝石が鉱山から市場に出るまでのプロセスを記録してきました。 GIAフィールドジェモロジープログラムは、直接的に得た知見を提供することで公益に利することを目的としています。
2014年9月、GIAの研究者であるTao Hsu、Vincent Pardieu、Andrew Lucasが、モンテプエスのルビー鉱床を訪問しました。 Vincent Pardieu にとっては、この鉱床が発見された2009年以来3度目の訪問でした。 この旅で3人の研究者は、この主要な鉱床の進展に立ち会うことができました。 採掘が容易で供給源が豊富であること、大きな港やよく利用される車道に近いという好立地が鉱床の成功につながったのだ、と Pardieu は述べています。 以下の報告では、モンテプエス鉱床とバルク・サンプリング、産出された宝石の供給販売についての全最新情報をお伝えします。
GIAチームを迎えて案内役を務めてくださった Montepuez Ruby Mining company(モンテプエス・ルビー・マイニング社 - MRM)は、今もバルク・サンプリングを行っていました。 バルク・サンプリングには、大抵小さいピットから大きめの鉱石を取り除く作業が含まれます。 石を選定し鉱体試料とし、鉱物処理検査を行います。この検査により、その場所で得られる鉱物の内容が推測できます。 それが今後大規模な鉱山採掘を行う上での重要決定に役立ちます。 現在オークションで売られている石はすべて、このバルク・サンプリングから直接得られたものです。
モザンビーク
モザンビークは、アフリカ南東部のインド洋沿いに位置します。 モザンビーク海峡を挟んでマダガスカルがあり、北にタンザニア、南に南アフリカ、西にジンバブエ、マラウイ、ザンビアが隣接しています。 その総面積は80万1590平方キロメートルで、カリフォルニア州の約2倍の大きさです。 モザンビークにはとても美しい2470キロメートルの海岸線があります。 気候は主に熱帯です。
ビーチがある。 ルビー鉱山は同国の北東部の端に集中している。 挿図:Peter Johnston/GIA
地図出典:Richard W. Hughes (2009)
モザンビークは貧困に悩まされ国際援助に依存してきましたが、2013年までの10年間に6~8%の年率成長を遂げました。この時期は、アフリカにおける最も順調な経済成長期間とされています。 天然ガス、石炭、チタン、水力発電の資源の豊かさが強固な海外投資獲得へとつながり、国の経済的自立へと進むかもしれません。
ルビー発見の歴史
モザンビーク産のコランダムの歴史は、1505年~1975年まで続いた植民地時代にさかのぼります。 コランダムは1500年代に発見され植民地時代には存在が知られていましたが、実際的な商業利用はされていませんでした。 1991年の春発行の Gems & Gemology(宝石と宝石学)で、Tucson show(ツーソンショー)においてカボショングレードのモザンビーク産ルビーが販売されていたことが報告されました。 その後しばらくはほとんど関連情報がありませんでしたが、2005年に著者 Vincent Pardieu がタイの熱処理職人(「バーナー」とも呼ばれる)と話して、モザンビーク産のルビーのことを耳にします。 タイの職人らは、処理している石の中にタンザニア産とモザンビーク産のものがあると教えてくれたのです。2008年には、モザンビークのルビー鉱床についてタンザニアで報告があります。 事実、ルビーはニアサ国立保護区内の M'sawize 村近郊で、地元のハンター達によって発見されたのです。 GIAからは、Pardieu と Thanachakaphad がその時発見された石に関する予備研究を発表しています(2009年)。 この地では数ヶ月間不法に採鉱が行われていましたが、2009年の夏、当局によって閉鎖されました。 その後ガリンペイロとして知られる違法採掘者のほどんどがカボ・デルガード州のモンテプエス地区に移動したので、鉱床の閉鎖は成功に終わったと言えるでしょう。このカボ・デルガード州では2009年4月に Namahumbire 村近郊でまたルビーが発見されていました。 この時は Suleman Hassan という地元の男性が、木を切っている時に偶然ルビーを見つけたという経緯でした。


2012年9月、GIAのフィールドジェモロジーチームは再度現場を訪れました。 この遠征でモンテプエス産ルビーの試料の包括的調査が行われ、その報告がGIAのウェブサイトで公開されています。 2013年4月20日には、モザンビーク大統領が鉱山を訪問されました。その訪問が、このジョイントベンチャーにとって極めて大きな励みとなったことは言うまでもないでしょう。
2014年6月、Vincent Pardieu と Andrew Lucas が、MRMの初のルビー原石オークションを取材するためシンガポールを訪れました。 続いて二人は2014年9月にMRMとモザンビークを訪問し、新しい参考用試料を収集したほか、現地のバルク・サンプリング状況の最新情報を得ました。 モザンビークがルビーの産出地であることは一般的にはほとんど知られていませんが、業界においてはモンテプエス近郊の鉱床は世界最大のルビーの供給地であると考えられています。

モザンビークルビー タイムライン(PDF)
地質
モザンビーク北東部は、地層が南北方向に傾いたモザンビーク帯と東西方向に傾いたザンベジ帯間の分岐合流点に位置しています。 いずれも「宝の在り処」とされる新原生代(約800~500億年)の造山帯で、世界的な汎アフリカ造山帯に含まれます。 主な地質学的複合岩体(コンプレックス)には、大規模な衝上断層とせん断により分離されているものもあります。 複雑な熱と変形といった事象により、理想的な温度と圧力環境が生まれ、ルビーやガーネット、その他の商用鉱物が形成されました。美しい臨海都市 Pemba(ペンバ)から約150km西に、モンテプエスルビー鉱山があります。 くさび形のモンテプエス コンプレックス(複合岩体)内に位置しています。 その鉱物群から、複合岩体全体が角閃岩と同等レベルの変成作用を受けたことが示唆されています(通常、圧力は0.4~1.1 GPa、温度は550~570度)。
モンテプエスルビー鉱床には、初生鉱床および二次鉱床の両方があります。 ルビーは限られた範囲の圧力と温度、そして十分な量のアルミニウム、クロム、酸素がある状態でのみ形成されます。 モンテプエス周辺では、ルビーの形成は主に交代作用により生じているようです。 これまでルビーは長石、雲母、角閃岩の角閃石に付属したもののみが発見されてきました。 今のところ、大理石の中にはルビーは発見されていません。


古河川とルビーが溜まる仕掛け
風化と侵食が永久的に繰り返されることで、地球の表面を常に形成し続けています。 ルビーを含んだ石が物質的および化学作用的な風化でもろくなり壊れると、侵食の準備が整い、石の破片や沈殿物が水や風などの外的営力により他の場所に移されます。 モンテプエスでは、風化により母石から遊離したルビーとその他の鉱物は水によって削られ、その高比重性と硬度により、現在や昔の川の流れに沿ってある特定の場所に溜まり、風化した岩の上に集積します。 もうひとつ継続的に起こっているのは、経時的な河川形態の変化です。 川の流れは何百年もの月日をかけてかなり変化していますが、地質学者らに「古河川(paleochannel)」として知られる、かつて存在した河の流れを発見するためのヒントになるかもしれません。
Mashamba 地域のピット3はMRMが手がけるピットの中でも最大で、MRMの地質学者が見つけた主な古河川のひとつに沿って位置しています。 その壁には、以前の河道の横断面が見事に観察されます。 「仕掛け(川底がへんこんでルビーが溜まる部分)」の端から底部にかけて、砂利のサイズが明らかに大きくなっています。 重力により、重い砂利はくぼみの底に集まる傾向があります。 大きな砂利は小さな砂利よりも水の速度を遅くします。 ルビーは比較的比重が高いことから、他の重い鉱物と一緒にくぼみの底に沿って留まる傾向があります。 流速の低下も、ルビーの堆積に有利に働きます。 ですから大抵、仕掛けの底にルビーがより多く溜まるようになっています。 水の流れが遅い場所にはこの仕掛けが生成され、重い鉱物が堆積します。 この仕掛けは自然に形成されたジグであり、宝石ハンターにとっては宝の在り処となるわけです。

鉱山
MRMの採掘地区の総面積はおよそ400平方kmです。 鉱山には初生鉱床と二次鉱床がありますが、今はバルク・サンプリングのほとんどが二次鉱床を対象にしています。 現会計年度中には、両方の鉱床のバルク・サンプリングを計画しています。MRMはバルク・サンプリングのピットに数字をつけていますが、多くはその地帯で元々使用されていた名が使われています。 Maninge Nice は二次鉱床と初生鉱石のサンプリングを行っている唯一のピットですが、その名前は「良質(nice)」な石が採れることを理由として現地で元々使われていた名前です。


バルク・サンプリング法
MRMはサンプリングが容易で、良質な石を多く抱えている二次鉱床をに力を入れています。二次鉱床に良質な石が集中して見られるのは、フラクチャーがあり内包物を持つ石のほとんどが風化作用によって砂粒状になっているためです。 しかし、二次鉱床に焦点を当てている最も重要な理由は、無免許の鉱山労働者による不当なルビー採取から守るためかもしれません。




さらなる探査
MRMの資源推定は2016年に完了する予定で、見込まれる生産量や鉱山寿命をよりはっきりと想定できることになります。 探査は初生鉱床および二次鉱床の両方で進行中です。 鉱床のタイプにより、異なる堀削法や戦略が適用されます。二次鉱床探査で目指されるのは、MRM採掘地区におけるルビー含有砂利層の分布をより明確に見極めることです。 その探査や、ルビーが多く集積されている場所のデータに基づき、砂利層の等高線が作成されます。

完了させる。 写真:Andrew Lucas/GIA
Gemfields の地質学者は対象地域を区画に分け、縦横100mの仕切りの内に堀削孔を掘る計画を立てていました。四角の中心と各隅4ヵ所に堀削孔を設ける予定です。 特定の箇所間で岩石的な違いがあれば、堀削孔間の距離を調節します。 例えば、かつて河床だった付近では、堀削孔間の距離を25メートルに縮小することもあります。 漂砂を起源とするカラーストーン鉱山でオーガー堀削技術が利用されるのを見るのは、GIAチームにとってほとんど初めての経験でした。
ドリルとその他の装置は、トラックで堀削現場に運びます。 どの探査チームも地質学者、技術者、4~5人の作業員で成り立っています。 機械を設置してから堀削孔を補充するまで、一箇所につき約1時間かかります。 1日に8~9箇所の堀削孔を扱うのが目標です。 堀削開始前には、現場が片付けられ準備が整っています。
堀削ではドリルが基盤岩石に当たるまで、地表から1mごとに土壌を取り除き、全てのサンプリングを行います。 その後、堀削機は基盤岩を2~3メートル除去して止まります。 堀削孔の平均の深さは約8メートルで、各チームは毎日約70~80メートルの堀削を終わらせることになっています。 MRMは1日2シフト制です。
この堀削の結果により、各場所のルビーが含まれる砂利の層の深さと厚さを推定できます。 何千もの堀削が終わると、エリア全域の砂礫層の深さと厚みを示す等高線図が作成されます。 GIAチームの訪問前にオーガー堀削によってすでに、2.5km続く古河川だけでなく、宝石が採掘される可能性の高い多くの場所が明らかになっていました。 さらに表土のサンプリングにより、鉱石を含む砂利層に到達する前にどのくらいの量の砂利や表土を除去すればよいのか、という見通しを地質学者は得ることができます。
試料を得るプロセスではまず、ルビーを含んだ砂利層の上にあり1mごとにドリルで除去した土を、円錐四分法と呼ばれる方法によって完全に混ぜます。 1mごとの表土について50~100gの試料が採取され、地球化学分析を行います。それにより、その後の探査や地質査定が判断されます。 堀削機が砂利層まで達すると、ルビーの含まれた砂利10~20kgが袋に詰められ、洗浄プラントと選別場に送られます。ルビーがどのくらい含まれているのか大まかな推定を行うためです。 基盤岩の上部1~2m分も洗浄処理されます。ルビーを採取し損なうリスクを最小限にするためです。 どの試料も余った場合は、今後の参考のために慎重に保管されます。 このプロセスは、環境的を考慮した方法で堀削孔を埋めて完了します。
岩石における異なる鉱物の集まりは異なる磁気特性を発しており、磁気走査によって詳しく示されます。 その結果は、特定の種類の岩石がどのように分布しているかを示すモデル作成に使用されます。 角閃岩は通常、高い磁気異常を生じるため、この地帯の他の岩石と簡単に見分けることができます。 地質学者らは高分解能の磁気探査を用いて、角閃岩の位置を正確に示す地図を作成することができます。 次に、この地帯でのマグマ貫入を検出するのに、ウラン、トリウム、カリウムの放射量測定を行います。 これらの結果に基づき、その後の探査計画が立てられます。
初生鉱床の探査は、現在露出している Maninge Nice 地帯周辺における広範なコア堀削によって行われます。目指すのは、表面下のルビー含有角閃岩の3D分布を明確に定めることです。 堀削はすべて約50メートルの深さまで行うため、1日平均10mとして完了するのに1週間ほどかかります。 1mごとの岩石のサンプリングに合成ダイヤモンドでコーティングされたドリルが使われ、深さはドリルビットの長さによって決まります。 二次鉱床と似た方法で、探査チームが100m毎に堀削場所を設けます。 場所によって岩石的な違いが観察された場合、掘削の間隔が50mに短縮されます。
大規模なコア堀削を通して、地質学者らは地面下に関して極めて重要な発見をしていました。 ルビー含有角閃岩は通常、10~30mの深さのところに見られます。 その中心部はどれも表土の部分から始まっており、バラバラとした表土は袋詰めにされます。 二次鉱物のルビー含有砂礫層が初生鉱床の上にみられる場合もあります。 ルビー含有角閃岩は30mの深さまで達している場合もあります。その下は、この地帯の基盤岩である花こう岩へと徐々に変化しています。 基盤岩も掘削され、ここにも角閃岩があるかどうかが調べられます。
生産
MRMはこれまでのバルク・サンプリングでモンテプエスの約180万トンの岩石を扱い、様々な色のルビーとサファイアを計800万カラットほど回収しています。 同社は、2015年には処理能力を倍増させ360万トンの岩石を扱えるようにし、最終的には年間千万トンにまで向上させたいと考えています。実際のルビー回収量を予想するのは、もっと難しいと言えます。 二次鉱床の宝石を含む砂利ごとに、1トン当たりに含まれるルビーの量は大きく異なります。 また、回収されるルビーの品質も大きく異なります。 Mugloto 3 のピットを再び例に出すと、回収率は比較的低く、処理済鉱石1トンあたり0.6~1gです。 しかし、ピット3は高品質のルビーを産出しており、回収率が低くても鉱山にとっては経済的な利益をもたらします。 さらにこのピットでは、6~8gといった大きな原石の結晶も産出されます。 一方、Maninge Nice では1トン当たり20~35gと回収率は高いですが、素材そのものの価値は全体的にかなり低めです。
全体としては、初生鉱床の回収率は1トン当たり約162カラットで、二次鉱床では1トン当たり31カラットとなっています。 二次鉱床のこの数字は処理済の砂利のみであり、移動した表土は含みません。
洗浄
最近、モンテプエスの洗鉱工場では処理量が1時間あたり150トンに拡大され、今後さらに250トンに増す計画があります。 工場は、次のような主な4つのエリアに分かれています。(1)ドライスクリーニング(乾燥状態でのふるい分け)、(2)ログウォッシャーでの分散(水による廃棄粒子の除去を開始)、(3)ウェットスクリーニング(水で濡らした状態でのふるい分け)、(4)サイズ分けと選鉱。 補助設備では、水が貯水場に貯められ洗浄用に浄水されています。
吸入ホースが下へと移動しながら、ジグの各段階にある砂利を除去するのを見た時は非常に感動しました。 吸入ホースが砂利を除去するにつれ、ジグには赤だけが増えていきました。 砂利がほぼなくなると、高比重で下に集積したルビーだけが残り、ジグはほぼ赤一色でした。 ジグの中にそれほどの宝石が集められているのを見たのは初めてでした。
選別
洗浄された砂利は洗鉱工場から選別場へと移されます。 洗浄され宝石を多く含む砂利は、中が見えるように傾斜したガラスの付いた長方形の選別箱の後部に入れられます。 砂利とガーネットからルビーを分けるのが最初のステップです。選別者が実際にルビーに触れることは絶対にありません。 彼らはゴム手袋付きの袖に手を入れて作業をするのです。 こうして石が盗まれるリスクを減らしています。 作業では、回収した石を2つの穴に落としていきます。ひとつはガーネット用、もうひとつはコランダム用です。 選別作業員は外観、特に結晶の形態を見ながら識別していきます。 ルビーは砂利から選別し、ルビー用の穴に落とします。

写真:Andrew Lucas/GIA
コランダム結晶はきれいにし、等級別に分類します。 まず、原石は濃い色のもの(ルビー)と明るい色のもの(ピンクサファイア)に分類されます。 そしてルビーはさらに、プレミアム、ファセットグレード、半透明から不透明の素材、ただのコランダムという4種のカテゴリーに分類されます。 プレミアムとファセットグレードの石は、透明度、色、カラットで等級分けします。
モゴック出身の2人の若いビルマ人グレーダーは、透明度のグレーディングをしていました。 私たちは彼らと、この鉱床ではいかに多様な品質のルビー原石を数多く目にすることができるのかについて会話し盛り上がりました。
Gemfields のルビーグレーディングシステムは、MRMの宝石鑑別士である Phillippe Ressigeac(2009年GIAタイを卒業)が率いるチームによって開発されました。 このシステムは原石のサイズ、色、形、透明度に基づいています。
参考用試料の収集
GIAのバンコクラボは2008年以来、参考用試料と採鉱情報を収集してきました。 このラボでは現在、GIAの手順に準じて、ルビー、サファイア、エメラルドの参考用試料を収集し研究することに主な焦点を当てています。2009年と2012年に、著者 Vincent Pardieu 率いるチームはアフリカの、まだ生産を開始する前の採鉱現場をいくつか訪れました。 それらの採鉱地と、モザンビークの西アフリカ人ディーラーからだけでなく、タイのバンコクやチャンタブリーを拠点とするタイ人商人から、参考用試料を収集しました。 2014年9月の遠征中には、Muglto と Maninge Nice のピットから試料を収集しました。
現場で収集されたこれらの貴重な参考用試料は、GIAの参考試料データベースに追加され重要な資料となります。 これらはAタイプの試料であり、特に貴重です。 つまり、宝石鑑別士自身が岩石から直接採鉱した試料であることを意味します。
2012年の訪問の際のMRMの作業は、 Maninge Nice の宝石が豊富にある地表面のみを対象としていました。 ですから、GIA チームも Mugloto のピットで試料を見つけることができませんでした。 しかし、その前の月にこの地帯から採鉱された試料の一部が、Gemfields の選別場にて選別されていました。 その試料は鉱山労働者が鉱山で回収したものでした。 GIAはそれらの石の実際の回収に立ち会っていないため、試料はCタイプに分類されます。
2014年9月10日、著者の Vincent Perdieu と、遠征に同伴してくださった Stanislas Detroyat 氏が Gemfields の地質学者とともに、MRMの採掘地区外にある Nacaca 地帯へ足を運びました。 そして、採鉱活動を記録し、洗鉱場所や自らのキャンプ地にいたガリンペイロから、参考用試料を収集しました。 この遠征で収集したすべての試料は Gemfields によってバンコクのGIAラボに送られ分析され、宝石の原産地識別にまつわる研究論文の執筆に有効活用されます。
初期的な宝石学
モンテプエス産のルビーは多量に産出し、幅広い品質と大きさのものがあるため、宝石業界において非常に重要な存在です。モンテプエス産のルビーの色は、伝統的なビルマ産のもの(蛍光性が高く、鉄含有量が低い)と、タイやカンボジア産のもの(蛍光性が弱く、鉄含有量が高い)の間に位置づきます。 ルビーはクロムにより赤色を発しますが、その色は鉄の存在によって変化します。鉄は、クロムによる蛍光性を弱めるためです。 モンテプエス近郊の角閃石関連の鉱床から産出されたルビーの興味深い点は、異なる鉄含有量を含む点です。その鉄含有量は、ビルマ産の大理石種ルビーと同じ程度に低いものから、タイとカンボジアの国境に沿った玄武岩関連の鉱床で発見されるルビーと同じ程度に高いものまであります。 つまり、好みの違うそれぞれの市場に幅広く対応できるということです。
品質に関しては、熱処理を必要としない色とクラリティを持つルビーが、少数とはいえ無視できない数産出されます。 しかし、ほとんどのルビーはひびや内包物によって透明度が欠けています。 そういった低品質の素材を熱処理で変化させることで、ジュエリー業界の市場に出すことができます。 フラクチャーの度合いが強い石には、鉛ガラスによる充填を行います。一方、白乳色または絹のような外観でフラクチャーの程度が弱い石には、より伝統的な熱処理(ホウ砂のような添加物は加える場合と加えない場合がある)が施されます。 概して、処理済みの石は処理をしていない石に比べてかなり入手しやすくなっています。


GIAのバンコクラボでは、131個のモザンビーク産ルビーを試料としてその宝石学的特性を研究し、2013年に研究成果が公表されました。 インクルージョンと化学組成の研究は今も進行中で、今後記事になる予定です。
Gemfields と Mwiriti と MRM
Gemfields(ジェムフィールズ)は、ロンドン証券取引所に上場している株式会社です。 同社の目標は、カラーストーン分野で世界最大のサプライヤーになることです。 彼らはグレーディングや市場における戦略を成功させてきた経験を持ち、地質学とカラーストーン採鉱についての多大な専門性を誇りとしています。 Gemfields はザンビアの Kagem エメラルド鉱山での事業を介し、エメラルドのオークションで実績を納めてきています。 また、政府と地域コミュニティーとの鉱業関連の連携を結び、必要とされる専門性およびリソースを入手できる資本を有しています。

Montepuez Ruby Mining Company(MRM)は、Mwiritiと Gemfields が提携して生まれた企業で、 Gemfields が 75%、Mwiriti が 25% の株式を所有しています。 MRMは2011年6月に合併事業契約を結び、2011年11月に25年間の採掘権を取得しました。 同社は実際には、2つの採掘権を所有しています。 MRMの目標は、世界大手のルビーサプライヤーになることです。 現地企業である Mwiriti は正当なビシネス環境を作り出し、中央政府や地方自治体、および各地域コミュニティーのリーダーとのやり取りにおいて、Gemfields を導く役割を担っています。
ビジネス上の課題には、税金、装置の輸入、宝石の輸出、地域社会のための社会支援プログラムなどがあります。 Mwiriti は狩猟権の分野で同様の課題を経験してきています。 また、現地の言葉を話し地元の人々や状況を熟知しているので、プロジェクトを進めるにあたり大変有効でした。 Mwiriti は各地域コミュニティーのリーダーと話し、彼らが何を必要としているのかを見出しました。
モザンビークの税務当局には宝石の輸出にまつわる経験があまりなかったため、Gemfields が税務や輸出担当の政府機関と話し合って相互にとって有利な取り決めをするのに、Mwiriti がサポートをしました。 MRMがモザンビークへ輸入する機器の大部分は当国にとってなじみのない、カラーストーン採鉱専用のものです。 時機を逃さず機器を国へ持ち込むため、関税や輸入税をどう対処するかを学ぶことも必要でした。 機器はまた、常にメンテナンスや部品、交換を必要とするため、モザンビークの輸入当局の担当者と関係を保つことは非常に重要です。

警備とガリンペイロ
Mohun Raman 警備長はモンテプエスルビー鉱山の警備を取り仕切っています。 彼は、検問所や検査などといった内部のセキュリティー対応により、バルク・サンプリング、加工、選別のエリアにおける盗みがかなり阻止されてきたと話してくれました。 しかし、外部のセキュリティー問題は依然として、同社が直面している最大の課題です。


MRMの警備は実際には3つの組織で構成されています。13人の外国人グループと約125人の現地社員から成るMRMの警備スタッフ、現場の外国人警備マネージャーと約250人の護衛から成る民間セキュリティーエージェントの ARKHE、そして制服を着て武装した政府の警察隊で約30人の男性から成るFIRです。

セキュリティーチェックが含まれる。 写真:Vincent Pardieu/GIA
MRM採掘地区内には、Namutcho と Namahumbire の2つの村があります。 Nanhupiu と同様にこれらの村はMRMの採掘地区のすぐ外側の、Pemba に向かう道沿いにあり、ガリンペイロらがレストラン、鍛冶屋、商店を利用したり、トーチやつるはしなどの採鉱道具を入手する場所となっています。 Namutcho や、Ntorro と Mugloto 近郊の村の住民は、他の場所に引っ越し、立ち退き料を受け取ったものとされています。 Raman 警備長に、「地元の人々は宝石を自分たちで採掘する権利を失ってしまったと感じているのではないか」どうか尋ねると、90%以上の無免許鉱山労働者は地元民ではなく、実際のところ、多くがモザンビーク出身者でさえないと語っていました。 その言葉が正しいことを、GIAチームはモザンビーク各地から来ていた無免許鉱山労働者と話して実際に確かめることができました。 Namahumbire や採鉱現場や洗鉱場で出会ったトレーダーの多くは、無免許鉱山労働者の活動に融資していますが、彼らはタンザニアの近くや西アフリカ(ギニア、セネガル、マリ、ナイジェリアなど)の出身者でした。 こうしたアフリカ人のトレーダーは通常、タイ、スリランカ、インドなどに拠点を置くモザンビークの商人の下で活動しています。
モンテプエスと海外のバイヤー
GIAチームはモンテプエスの町と、海外のバイヤーが店舗を構えルビー原石の買い付けをしているエリアを訪問しました。 約500~600人のタイ人バイヤーと100~150人のスリランカ人バイヤーがいました。 そこには非常に緊張した空気が張り詰めていました。 買い付けを行う事務所はそれぞれ金属格子に囲まれていて、武装した護衛が目に付きました。 MRM採掘地区でのルビー無許可採掘に融資しているバイヤーもいました。


地域コミュニティーのつながりと企業の業務
MRMの従業員の約90%が地元の住民です。 同社は給与や手当だけでなく、鉱床が枯渇した後も働ける技術面を磨く手助けもして社員をサポートしています。 約600人を雇用しており、伝えられるところではモザンビークで最も高い税を納めている企業の一つです。バルク・サンプリングプロジェクトに地域住民を雇うことは、MRMにおける地域コミュニティーへの献身の形ですが、これは地域のリーダー達から Mwiriti に伝えられたニーズのひとつでもあります。 MRMが人生で初の雇用主であるという労働者もいます。 採鉱企業で働くために必要なスキルを得たことがないそういった労働者たちを、生産性の高い従業員に育てるため、MRMはトレーニングを行うと決めました。
オークション
Gemfields のオークションによりもたらされる利点の一つは、納税に関して明確で信頼性の高い評価システムが生まれていることです。 モザンビーク政府はもともと、ルビー原石が国から輸出される前に課税することを望んでいました。 Gemfields は Mwiriti からのアドバイスも踏まえつつ、オークションに出さない限りルビーを正確に評価することができないということを当局に納得させることができました。 オークションにかけられたルビーは本来の市場価格が明確になり、適切な税額が査定できるのです。 政府はこれに合意し、シンガポールでのオークション結果に基づいて課税が行われました。
まとめ
ジェモロジストが業界の方向性を変えるような取り組みの一部に立ち会える、またはそれを記録できる機会というのはごく稀です。 これはラボで働く宝石鑑別士とフィールドジェモロジストの両方に言えます。 ラボの宝石鑑別士が、市場に出ている新たな合成品または処理法、識別する方法などを見出すこともあります。 また、新たな原産地の石の特性を誰よりも先に記録する場合もあります。 フィールドジェモロジストは新たな原産地を訪問し、既にある原産地からの新しい産出物を発見したり、新しい製造プロセスや製造場を観察したり、取引市場や消費市場の動きを実際に目にします。 モンテプエスのルビー鉱山への遠征、そして今年初めのシンガポールでの初回オークションへの参加により、筆者らはルビー業界はもちろん、カラーストーン業界を変える可能性のある取り組みを記録することができました。
Tao Hsu(博士)は、Gems & Gemology(宝石と宝石学)の技術編集者です。 Andrew Lucas は、GIAカールスバッドのフィールドジェモロジーコンテンツストラテジー担当のマネージャー、Vincent Pardieu はGIAバンコクのフィールドジェモロジーのシニアマネージャーです。
免責事項
GIAスタッフはリサーチおよび市場への見識を深めることを目的に、鉱山、製造業者、小売業者の他、宝石およびジュエリー産業に関わる場所や企業を多く訪問しています。 GIAは、訪問中にスタッフを受け入れ、貴重な情報を提供してくださった皆様に感謝いたします。 これらの訪問やそれを元にした記事や出版物はすべて、宣伝用と解釈したりそのために利用することは禁じられています。
Ian Harebottle CEO、Adrian Banks プロダクトディレクター、Ashim Roy 宝石学および探査長、Raime Raimundo Pachinupa エグゼクティブディレクター、Sanjay Kumar プロジェクトマネージャー、Philippe Ressigeac アシスタント生産マネージャー、Mohun Raman 警備長、Angus Barthram 物流マネージャーを含む Gemfields および MRM の社員の方々のご協力に深く感謝いたします。