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ジュエリーの蝶結び:最後に与える仕上げの手法


A bow brooch with long ribbon tendrils.
1905年に制作されたTiffany(ティファニー)の蝶結びのジュエリー。このようなコサージュの装飾品は、イブニングドレスを引き立てるのに最適である。ゴールドの上のプラチナにダイヤモンドをセットして作られたこの蝶結びのジュエリーには、髪飾りとしても使えるように取り外しのできるブローチの留め金がついている。提供:Neil Lane Jewelry (ニール・レーン・ジュエリー)。写真撮影:Tino Hammid/GIA、Tino Hammid

蝶結びにしたリボンがあることにより、贈り物に美しさ、ミステリー、期待が生まれます。リボンを素早くほどくと … その中に潜む秘密を明かすのに一歩近づきます。

蝶結びのフェミニンな魅力は、愛、憧れ、回想を連想させます。長年にわたってジュエリーで愛用されている蝶結びは、その時代のスタイルを反映するために蘇って適応しながら、はるか昔のジュエリーやファッションにおいて人気のあるモチーフおよび最後の仕上げの手法として使われています。蝶結びは、18世紀から現代に至るまでジュエリーで使われており、それらを研究することで、蝶結びのデザインとスタイルが時代を通してどのように進化したかを学ぶことができます。

蝶結びはローマ時代ほど早い時期にジュエリーで見られるようになり、物事または人物を忘れないように指の周りにひもを結ぶという習慣が由来であるとされています。恋人結びは、恋愛、友情、愛情を象徴とする、ワイヤーを複雑に編み込んだデザインであり、船舶を停泊させるのに使用する「もやい結び」を変化させたものです。現代では、恋人結びは婚約指輪や結婚指輪で使われています。

A bow forms the main brooch and a pearl pendent hangs from the bow’s center bottom.
This classic Victorian bow motif brooch from the 1800s features a natural pearl. Courtesy of Paul Fisher. Photo by Robert Weldon/GIA

バロック時代(1601年~1700年)の間、蝶結びは、ジュエリー、肖像画やデザインでモチーフとして主に使用されていました。この時代に蝶結びが流行していた風潮は、名誉を称える儀式で軍から授かったメダルを制服に付けたり、色が暗めの王室のローブに精巧なゴールドジュエリーを留めるのにリボンが使用されていた慣習に端を発します。

17世紀後半つまりバロック時代の後半、布地と宝石の両方で世界各地で貿易が拡大したため利用できるようになった新しい軽量の生地を引き立てるために新しいスタイルのジュエリーが紹介されました。パステル調の色合いが、後に1900年代のビクトリア朝およびアールヌーボー様式で最盛期を迎えることになる自然主義のジュエリーに向けた新しいトレンドのために落ち着いた背景として使われました。宝石と真珠の蝶結びとリボンが渦巻いているパターンは、この新しい時代の個人的な装飾品で登場し始めました。

The bow section and ribbon tendrils are made from two metals – silver and gold colored.


また、ルイ14世(1643年~1715年)の宮廷でも蝶結びのモチーフが登場し、金や銀を使用して緩く結ばれた二重の蝶結びが作られ、ネックレスやブローチに付けられました。この時代は感情を抑えることが美徳とされていたにもかかわらず、首に蝶結びのジュエリーを身に着けて遊び心をのぞかせる傾向がありました。蝶結びが心臓の近くに留められていた場合、それは恋をしているという証拠でした。

この時代には蝶結びのブローチで2つのスタイル、セヴィニエとジランドールが人気の的となりました。セヴィニエは、後にジランドールというより精巧なスタイルに進化した平らで対称的なリボンの蝶結びのブローチです。シャンデリアスタイルとも呼ばれているジランドールは、中央のモチーフからペアシェイプの装飾品が3つぶら下がっており、ブローチやイヤリングに作られます。セヴィニエという名称は、ルイ14世の治世中に哲学とサロン文化の芸術をつづった書簡が有名になったフランスの貴族、マルキーズ・ドゥ・セヴィニエ(1626年~1696年)に由来すると伝えられています。

Bow brooch with stripe-like sections of black onyx between diamond sections.
The stylized bow brooch, circa 1915, is composed of onyx sections, edged and overlaid with platinum, and set with old European cut and single cut diamonds. Courtesy of Richter's of Nashville. Photo by Tino Hammid/GIA and Tino Hammid

ジェット、オニキス、エナメル加工などの黒い素材が、蝶結びのモチーフに形作られ、1861年にヴィクトリア女王(1819年~1901年)が夫のアルバート公子を亡くした後、哀悼ジュエリーとして着用しました。また、哀悼ジュエリーは、心臓の近くに留めて、第一次世界大戦で亡くなった方を追悼するためにも着用されました。

17世紀に見られたシンメトリーのある蝶結びとは対照的に、エドワード時代(1901年~1910年)では、無色のダイヤモンドがセットされ、ピアッシングのオープンワークによって作られる繊細で軽快なレースのようなデザインの蝶結びが登場しました。その後、アールデコ時代(1910年~1939年)の間、蝶結びは、柔らかい、リボンのような形で、角度があり対称的なスタイルとなり、金やプラチナにダイヤモンドがセットされているものもありました。

A three-loop bow with two ribbon tendrils.
This contemporary diamond ribbon brooch is set in platinum. Gift of Bette Helwig. Photo by Orasa Weldon/GIA

現代のジュエリーにおける蝶結びは、過去の時代からインスピレーションを受け継いでいます。モチーフは同じかもしれませんが、素材、技術、ファッションは常に変化しています。例えば、上部が輪になっているピンクのリボンは、より合わせている蝶結びのシンプルなバリエーションであり、乳がんの意識向上を推進する現代の国際的なシンボルとなっています。ピンクリボンは、女性の健康、活力、エンパワーメントを意味します。

蝶結びは時代とともに変化を遂げてきましたが、常にスタイルがあり、どんな贈り物にも愛情を加えるということを覚えておきましょう。

Sharon Bohannonは、写真の研究とカタログ化、そして記録を行うメディア編集者であり、GIAよりGGおよびAJPを取得しました。Richard T. Liddicoat 宝石学図書館情報センターに勤務しています。