インスピレーション探索
日常を非日常的な視点から見つめる

アールヌーボー、エドワード朝、アールデコの時代のような、影響力のある過去のムーブメントに目を向ける者がいます。 また、ある者は博物館や絵画館を散策し、アートブックやジャーナル、雑誌を閲覧します。 そしてある者は、日常のオブジェクト、見過ごされているアイテム、興味深い場所に着目します。
「私達の環境は美しいもので満たされていますが、いつもそのそばを通っているので、その美しさに気付かなくなります。 インスピレーションを持ったジュエリーデザイナーは、そのように見過ごされた日常的なアイテムを、象徴的なウェアラブルアートに再構成できるのです。」とK. Brunini JewelsのKatey Brunini氏は述べています。
ここでは、非日常的な視点で日常的な物を見て生じた(かもしれない)、インスピレーションによってデザインされた5つのジュエリーを見ていきます。
石畳の道に沿って

ブレスレット提供:カリフォルニア州ビバリーヒルズ、Neil Lane, Inc.(ネイルレイン社)
上のカルティエダイヤモンドバゲットのブレスレット(1933年頃)と、石畳の道を見てください。 では、一緒に旅に出るとしましょう。あるヨーロッパの古い街で似たような道を歩いて、店に向かう宝石商を想像してください。 この日、彼は突然、足元の道の美しさとそこに施された細工に気づきます。 石畳の通りの緻密な設置、石の連動、モザイク的な感覚が、彼をこのブレスレット作製に向けて鼓舞します。
スタイルの架け橋
グラジュエイトジェモロジスト(GG)であるErik Stewart(エリック・スチュワート)氏から、2012年Saul Bell Design Awards(ソールベルデザイン賞)のゴールド/プラチナ/パラジウム部門で2位を受賞したTransit(トランジット)制作背景について話を聞きました。
「私は賞を受け取るためにニューヨークに来て、観光などをしていました。 その時、ブルックリン橋を見たいという思いと同時に、いろいろなジュエリーのコンセプトが私の頭の中を巡っていました。 そして、ブルックリン橋を見た私は本当に感動し、(橋を吊り下げる)ワイヤーを見ていたら、オリジナルなジュエリーデザインのアイデアがはっきりしてきました。」
スチュワート氏は、作品作りの過程を説明してくれました。「Transitは、計画立案に2ヶ月、昼夜の制作に2週間を要しました。 ブレスレットのステンレス製のワイヤーは、ブルックリン橋を想起させるよう意図されています。 ワイヤーはまた、触感を与えてくれます。ギターのように、その弦を弾けるのです。」
双子のアンティーク品
19世紀のブローチ(下写真右)が、アンティーク鏡(写真左)のデザイナーを鼓舞したのでしょうか?もしくは、鏡がデザイナーに、このブローチを作るようインスピレーションを与えたのでしょうか?
制作者はいなくなっているので、私達は答えを知ることは出来ませんが、そのジュエリーデザイナーが、毎日同じような鏡を使用していたと考えても不思議ではありません。 鏡の楕円の形、穏やかな湾曲線、装飾のシダと葉、鏡の周りの木の刻み目は、ほぼ同じデザインのブローチへのインスピレーションだったかもしれません。
このクラシックなブローチの柔らかい、女性らしいラインが、ジュエリーを着用する者の定番となりました。 数え切れないほどの女性が、同じような作品を世代から世代へと受け継いで所有しています。
これら2つのアンティーク品はまた、日常のオブジェクトの影響が、その物が持つ狭い領域をはるかに超えたことを示しています。

ブローチ提供:Mary Mathews(メアリー・マシューズ)
渓谷を造り変えるRichard Kimball氏の、36,000 Ft. Above Flaming Gorge(フレイミング峡谷の上3万6千フィート)というブローチ(下)のネーミングは、デザイナーのインスピレーションを伝えています。それはワイオミング州からユタ州を走る渓谷を横断する、91マイルにも連なる水流です。 飛行機からフレイミング峡谷を見た経験は、このアーティストの心に鮮明な画を刻みました。
「36,000 Ft. Above Flaming Gorgeは、有機的で自然な感触を持ちながらも、非常にエッジの効いた、未来的なラインを持っています。 これは稀な組み合わせです。私たちが想像力によって、見るものを非日常的な形で再創造できることを示しています。」と、GIAのGGとGJであり、GIA展示開発者のMcKenzie Santimer(マッケンジー・サンティマー)は述べています。
Kimball氏の作品は、GIAのコレクションの一部であり、博物館で現在開かれている誕生石の展示において紹介されています。

Richard H. Kimball氏による贈呈
開花するパーソナリティ 
リング提供:Nancy’s Collection(ナンシーコレクション)
Zoltan David(ゾルタン·デビッド)氏のAGTAスペクトラム賞を受賞したリング、Homage to Nancy(ナンシーへのオマージュ)は、大きく、インテンスなオレンジ色のスペサルティンガーネット(20.85カラット)を備え、320のラウンドブリリアントカットのツァボライトのガーネットをちりばめた4つのプラチナの「花びら」で飾られ、24Kゴールドで縁取られています。 金は、ゾルタン・デビッド氏の特許取得済みの金属装飾技術を使用してセットされました。「ナンシーへのオマージュのデザインは、常に花開いた個性を持つクライアントでもある私の友人に触発されて制作したものです。 彼女は常に、いつもより素晴らしい、より輝かしいものになっていくのです。まるで朝顔のように。」とデビッド氏は言います。
「オレンジのスペサルティンガーネットはまた、その友人には適した選択に思えました。 ちょうど彼女自身のように、宝石は色と光で溢れています。」
デビッド氏のリングは、現在カールスバッドのGIA博物館で展示されています。