サファイアシリーズ パート4:
宝石質合成サファイアと拡散処理合成石
10月 23, 2013
その答えは複雑です。 生産が新しい場所、特にアジアに移行したという点において、工業用サファイア市場は宝石質合成サファイア市場の展望を変えました。 一方、原材料、機器、およびその他の消耗品などの関連投入コストは、プラスとマイナスの両方の影響を受けています。 より多くの消費者が手頃な価格で得られる贅沢品を求めていて、合成宝石の業界は成長しています。
ところが、工業用サファイア市場は宝石部門の成長を妨げています。 この数十年で合成サファイアの産出量は、生産目的が合成宝石中心であった当時の年間100メートルトン以下から、技術的用途の普及のおかげで、年間約1,000メートルトンへと増大しました。 これに対応して、新たな結晶成長事業が世界中で多数現れ、生産量が大幅に増加しています。 これは、劇的な価格低下や市場の供給過剰を回避するために継続的な需要が必要であることを意味します。
宝石質合成サファイアはすべての色が製造できますが、需要と生産は青、オレンジ、ピンク、赤に集中しています。 深みのある飽和したブルーの色合いは作成することが難しいため、最も高価です。 ブルーの製造を試みた多くの生産者は、業界から撤退するか、ピンクや赤、無色などの石に切り替えています。
ベルヌーイ法、チョクラルスキー法、熱水法、フラックス法によって成長させた合成サファイアの原石およびカットされた宝石は、拡散処理合成サファイアのカット石同様に、容易に手に入ります。 ベルヌーイ(火炎溶融)法の素材は数時間で成長させることができ、安価で豊富に見られます(図1)。 この素材は、応力を緩和させるために1~2日間アニールされることがよくあります。 この素材は非常に明確な湾曲した成長条線および歪みを示し、色分布が均一でない場合は注意深く方向取りする必要があります。 火炎溶融法サファイアはヨーロッパに由来しますが、製造はアルメニアおよび中国で始められました。 宝石の結晶成長のために始まったベルヌーイ法の施設のいくつかは、部分的に又は完全に、工業用途の高純度無色サファイアの製造に切り替えました。 このため入手可能な宝石質合成サファイアの色は少なくなりました。
それとは逆に、従来から工業用途に焦点を当ててきたチョクラルスキー法成長の生産力の中には、装置が原価のごく一部に流動化されてしまうことがあるため、宝石質サファイアの成長に切り替えたところもあります。 チョクラルスキー法は結晶が通常5〜20キログラムと大型であり、ファセットカット石用の非常に均一な原石を多量に提供するという点において、宝石質合成サファイアの成長に有利です。 チョクラルスキー法合成サファイア(図2)は、成長するのに数日から数週間かかります。 この素材は品質と色が均一ですが、カラーバンディングと丸い気泡が見られる可能性があります。
熱水法(図3)とフラックス法素材は生産するのに数ヶ月あるいは数年もかかる工程で成長させますが、これらの結晶は色分布が非常に均一で、ひずみがはるかに少なく、他の方法で成長させた合成石よりもインクルージョンがより自然に見えます。 溶液成長コランダムなどの「高級」合成石のためのニッチ市場はありますが、これは大量生産された火炎溶融法素材の需要よりもはるかに小さいものです。
宝石質合成コランダムの小売価格は、需要が増加したものの、過去数十年にわたって比較的横ばいで推移しています。 現在、特に操業費がより低い地域では、生産者がさらに増えています。 結晶成長技術がさまざまであるのと同様に、ファセットカットされた宝石質合成サファイアの小売価格もさまざまです。 これらの商品の価格は、カラット当り1ドル(100円)から1,000ドル(1万円)の範囲となっています。 ブルーの合成石は、原石とカット石のどちらにおいても一貫してより高価であり、最も安価な変種である無色やピンクの石の二倍から三倍の価格になることもあります。 技術によって結晶成長速度が非常に異なることを考慮すると、より長い工程を必用とする石はカラット当りの価格がより高くなり、供給は限られ、製品市場がより小さくなることは驚くべきことではありません。 (また、主要な原料成分である酸化アルミニウムの価格は、それほど重要ではなくなります。)
市場の調査によると、火炎溶融法によるファセットカットされた合成石のほとんどがカラット当り5ドル(500円)未満で販売されていることが明らかになりました。 チョクラルスキー法の試料は一桁多い費用がかかり、溶液で成長された素材はさらに一桁多い費用がかかり、カラット当り約900ドル(9万円)が最高価格となっています。 これらそれぞれの成長方法では、原石素材はファセットカットされた商品の約10分の1の価格となります。 拡散処理されてファセットカットされた合成サファイアの小売価格は、火炎溶融法素材のものと同様です。
低迷している合成宝石の価格と比較すると、ハイテクサファイアの成長で使用される主要な素材である高純度火炎溶融法ホワイト「クラックル」の大量注文の卸売価格は、 過去数年間で大幅に変動し、最高でキログラム当り120ドル(12000円)(カラット当り約2.4セント)そして最低でキログラム当り40ドル(4000円)(カラット当り約0.8セント)に達しました。 一方、無色の原石は、少ない量でファセットする業者へカラット当り約10セント(10円)で販売されています。 何百もの企業が合成宝石の市場で活躍している中国の梧州市からの様々な色の火炎溶融法の原石は、カラット当り1-3セント(1~3円)で手に入ります。
天然と合成サファイア市場の類似点は、品質の範囲と価格設定だけに留まりません。 天然と合成サファイアはどちらも、様々な効果や色を生成するために拡散処理することができます。実際に、無色の合成サファイアに拡散処理をしてブルーの色を生じさせたものが広く見られます(図4)。 合成サファイアの拡散処理は、1950年代から報告されています。 天然サファイアと同じように、拡散処理された合成石は、未処理の石よりもかなり安価となっています。 成長方法や処理は、特に安価な素材では、常に開示されているとは限りません。 しかし、拡散処理されたブルーの合成サファイアは、屈折率の同じ液体で満たされた液浸容器において検出することが容易であり、図4(下)および図5(右上)に示すように、処理された宝石にはファセットの接合部やガードルに沿って色溜まりがみられます。 拡散処理されたブルーの合成サファイアは、処理が非常に浅くリカッティングの可能性が無くなるという点において、成長させたブルーサファイアよりも劣っています。 また、拡散処理された薄い表面はカットされた試料の大部分とは著しく異なる光学的性質を示す可能性があるので、処理された製品は透明度が低い場合があります。 幸いなことに簡単かつ安価な検出方法があるため、合成サファイアの宝石を購入する際の混乱は起こりにくくなっています。
私は、無色素材から作られる拡散処理されたブルーの合成サファイアの生産が劇的に増加すると確信していて、この傾向は高品質の合成ブルーサファイアの価格を低下させるかもしれません。 このことは、ピンクがかったオレンジ色のパパラチャサファイアが市場に溢れた十年前の、ベリリウム拡散された天然サファイアに対する懸念を彷彿させます。 高純度かつ商品としての価格が非常に正当に設定された無色のサファイアが大量に生産されていると仮定すると、より多くのこの素材がさまざまな色で表れ始めるでしょう。 すべての合成宝石の成長技術および処理に関する情報が消費者にとって価値のあるものであり、今後、このような情報が完全に開示されることを願っています。
著者について
Jennifer Stone-Sundberg(ジェニファー・ストーン-サンドバーグ)は、Crystal Solutions, LLC(クリスタルソリューションズ, LLC) のマネージングディレクターで、『Gems & Gemology』(宝石と宝石学)のテクニカルエディターを務めています。 彼女は、結晶成長と特性評価技術を専門としています。