書籍:「 In Praise of Hands:
The Art of Fine Jewelry at Van Cleef & Arpels(手の賛美:ヴァンクリーフ&アーペルにおけるファインジュエリーの芸術)」


「美の探求:ヴァンクリーフ&アーペルの芸術」より、ヴァンクリーフ&アーペルのご厚意。
Franco Cologni著, 199頁, ハードカバー, 図解説付き、出版物 出版元:Marsilio Editori, S.p.a. ヴェネツィア、2012年、90.00ドル(約7100円)
1895年に顕著なオランダ人宝石商の二つの家の縁組により生まれたVan Cleef & Arpels(ヴァンクリーフ&アーペル)は、1906年にパリのPlace Vendôme(ヴァンドーム広場)にブティックをオープンし、すぐに国際的な評価を得るようになりました。 このメゾン(店)では長年にわたり、目につかないようにセットされた花のブローチ、おしゃれな装飾小箱やシガレットケース、Ludo Hexagone(ルード・ヘキサゴン)のブレスレット、ジッパーネックレスなどの象徴的なジュエリー作品を製作してきました。 店の華々しい人気上昇の理由の一つは、デザインと職人技の素晴らしさでした。 その広報とブランド戦略の一環として、ヴァンクリーフ&アーペルは、高品質のクラフトマンシップと伝統的技術への敬意を強調しています。 「In Praise of Hands(手の賛美)」では、このブランドへの取り組みが具体化されています。 この豪華な本は、芸術歴史家 Henri Focillon(ヘンリ・フォシロン)が1943年に執筆した、手がいかに芸術を形作るかに関する哲学的エッセイに敬意を表したタイトルになっており、その内容は、ヴァンクリーフ&アーペルの Mains d’Or(黄金の手-マンドール)、すなわち最も高い技術を有する職人を讃えるものとなっています。
 
本の最初の11の章では、様々な専門技能職を扱っています。「デザイナー」「実物大模型製造者」「ジュエラー」「セット職人」「ミステリーセッティング職人」「ストーンカッター」「ダイヤモンドカッター」「研磨師」「製錬師」「彫刻師」「ケース職人(Boîtier)」。各職人技について、デザインと製造プロセスの特定段階が非常に詳細に説明されています。 「デザイナー」「製錬師」「研磨師」などのいくつかの章は、ジュエラーにとって特に興味深い内容になっています。これらの職人たちは、あらゆるジュエリー作品の製作・形成に欠かせない存在であり、よって特集されて然るべきと言えます。 宝石学者にとっては、「ストーンカッター」と「​​彫刻家」の章は非常に有益で、両プロセスに関する詳細な解説が提供されています。 宝石愛好家にとって最も刺激的で示唆に富む章は、「実物大模型製造者」「ミステリーセッテイング職人」「ケース職人」の章でしょう。これらの章では、ヴァンクリーフ&アーペルの製造の秘密が明らかにされ、高度なレベルの職人技を理解することができます。 例えば、合金とラインストーンを体系的に使用して実物大模型を作る様子から、細部への注意をいながらも実用性を重んじていることがわかります。 このレンダリング技術は、今日使われている抽象的な3DのCAD / CAM投影とは正反対の技術です。 この技術により、デザインチームと製造チームは、潜在的な技術上の問題を発見することができるほか、ジュエリーの価格を早期の段階から見積もることもできるようになります。
 
この本の強みの一つは、カラージュエリーの巧みなレンダリングが掲載されていることです。 ヴァンドーム広場の秘密世界のことを考えると、そのスケッチの一部にシリアル番号、常連客の名前、および宝石の価格や、それに対応するベンダーの詳細情報が掲載されていることは注目に値するでしょう。 この種の情報は、宝石の価格設定に関わる人には便利です。
 
この本では、3種類の写真を選択的に活用しています。 一つ目のタイプとして、アンティーク作品の拡大写真が、元々のカラースケッチと共に掲載されています。ここで扱われている宝石作品のほとんどは、同社のアーカイブコレクションからのものです。 第二のタイプは、キアロスクーロ技術を用いた白黒写真で、作業中のマンドール職人が撮影されています。 第三のタイプとして、各章の終わりに、最近のジュエリー作品の全体写真と詳細写真とが掲載されています(個々の宝石が掲載されている場合もあります)。 章の初めと終わりに掲載されている写真は、各章のトピックに適したものになっており、過去の傑作に備えられた職人技が今でも生きていることが伝わってきます。
 
逆にマイナス面としては、職人の手の写真と、セクションの終わりに示された現代のジュエリー作品の写真とが、比較的関連性の無いもののように感じられることでしょう。 もし、ジュエラーの手中にある製作中の作品と、その作品の完成後と、同じ作品が二度掲載されていれば、より大きなインパクトがもたらされたでしょう。 作業中のジュエラーの手の写真は、その技術や熱心さに対して強い敬意を払うものではあるものの、それは表面的な表現にすぎません。 これらの写真はせいぜい、ごつごつとした手と繊細なジュエリーパーツを製作の各段階で対比させ、職人の力強さと器用さを伝えるくらいの効果しかありません。 手に焦点を当てることは限定的すぎており、宝石の作製に伴う身体的な関与をうまく伝えていません。 作製のプロセスは手に限定されるものではなく、むしろ、手、目、脳と常に連動しているものであり、これは写真ではなかなか表現することはできません。 結びの章「The Crafts(職人技)」では、すべて職人の手の写真が掲載されています。 これにより読者は、異なる工程で作品を扱っている様子を実際にイメージすることができます。
 
文章は、ジュエリー製造すべての段階を非常に詳細に記述しており、ためになります。 道具の名前の一覧など、技術的な記述を避けることなく、それでいて読みやすくとっつきやすい書き方になっています。 しかし、決まり文句的な内容の繰り返しへと流れてしまっているところもあります。たとえば、完成度、美しさ、全体的な製造プロセスに対して、完全なるコントロールを追求するメゾンのひたむさを詩的に捉える見方など、です。

これらいくつかの欠点はあるものの、この本は、この高級ブランドについて知識を深めたいジュエリー関係の学生、ベンチジュエラー、宝石専門家にとっては欠かせない作品となっています。 Cologniは、今日の業界ではほとんど消えてしまったレベルの職人技と組織について記述しています。 ヴァンクリーフ&アーペルの多様なインスピレーション、デザインの創造性と製造品質は最高レベルであり、この作品はそのことを証明する美しい作品と言えるでしょう。

Delphine Leblanc(デルフィーヌ・ルブラン)は、ニューヨーク市の ティファニーの評価専門家。