リサーチニュース

カラー宝石の価値要因


Gubelinのコレクション 74703 一部 636x358
写真撮影:Robert Weldon/GIA

全5部の連載記事『カラー宝石(ダイヤモンド以外)の価値要因、デザイン、カットの品質』の第1部。

2016年に初版がGemGuide(ジェムガイド)で発表されたこの総合シリーズは、ファセットカットされた宝石の価値を決定する際にカットの品質が果たす役割に特に重点を置きながら、カラー宝石の価値に影響を与える品質要因を検討します。GIAの研究員およびカットの専門家、Al Gilbertsonは、カットの要素を研究し、カット職人の選択、利害得失の判断そしてその理由を探求し、カラー宝石のカットの品質の様々な側面を評価するためのガイドラインを提供します。

オリジナルの連載記事のこのウェブサイト版は、5つの記事に分かれており、オリジナルの文体をわずかに編集したものです。

はじめに

この連載記事は、カラー宝石のカットの要素を評価する方法およびカットの品質が様々な宝石の価値に与える影響を十分に理解する方法について説明します。また、カット職人が選択する判断とその理由を理解することについても紹介します。この記事はファセットカットされた宝石について焦点を置きますが、ファセットカットされていない宝石についても簡単に説明します。

ここで使用する「カット」という言葉は、宝飾業界の専門家にとって単なる「宝石の形」以上の意味があり、「カット品質」の要素もすべて含んでいます。カット品質とは、宝石がいかに良く製造されたか、または様々なファセットがいかに良く配置されているかを指します。良くカットされた宝石は、プロポーション、シンメトリー、ポリッシュと組み合わせて、その色とクラリティ(透明度)だけでなく、ファセットがいかに光と相互作用するかによって生じる美しさを有する必要があります。

宝石の最終的な外観は、原石の素材の品質により制限されてしまいます。したがって、カット職人は透明で、インクルージョンが多くない原石を好みます。見た目がめったに透明でない宝石もいくつかありますが、これらの素材ではある程度のインクルージョンは受け入れられています。色はカラー宝石にとって最も重要であるため、光が宝石の中に入って出ていく作用をカット職人がどのように扱うかは芸術的才能を必要とする作業になります。色が深く飽和したレッドであり、10倍の倍率で観察しても微小なインクル―ジョンさえもないルビーの原石からは、加工の品質があまり良くなくても、素晴らしいフェイスアップの色と外観を有する宝石を作ることができます。しかし、ファセッティングによって色が不鮮明になってしまったり、二色性の色を混合することによってその色を曇らせてしまった場合、カット職人はその色を活かすことができなかったことになります。

宝石の価値を示す円グラフ
図 1-01: Pala International Inc.(パラ・インターナショナル社)の副社長Josh Hallによる、カラー宝石の価値における要因とその相対的な影響。イラスト: Al Gilbertson/GIA

Pala International, Inc.(パラ・インターナショナル社)で副社長を務めるJosh Hallは、宝石全体の価値を念頭に置いてカットすることを勧めます(ホールの個人的なコメントより — 図1-01を参照) 。彼は、色が宝石の価値の約60%を占め、続いて宝石が産出された原産地が価値の15%に影響を与える(カシミール産サファイアなどの特殊な起源でははるかに多くなる)と説明します。その次に重要なのはカットとサイズであり、それぞれが価値の10%前後を占め、宝石の形(輪郭)が最後に重要な要因となります。この記事では、クラリティ(透明度)とカラーゾーニングについても説明しています。これらそれぞれの要因はかなり変更することがあります。

価値要因 1: カラーが最も重要です!

カラーサイエンスにおいて、色には色相 (赤、緑、青など)、彩度 (色の強度または豊かさ)、色調(明度または暗さ)の3つの要素があります。しかし、カラーストーンの色を評価する場合は、色の均一性というもう一つの要素を考慮する必要があります。

色は、私たちの目には赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、バイオレットという虹の七色として映ります。これらそれぞれの色は光線によって作られており、それぞれが異なる波長および異なる速度で通過します。上記の色すべてが結合すると、白色光に見えます。白色光がカラー宝石に入射すると、光の一部が吸収されます。たとえば、宝石が青以外のすべての色を吸収すると、青のみを見ることができ、青い宝石として私たちの目に映ります。

それぞれの宝石に最適な色範囲(色相、彩度、色調の組み合わせ)は異なり、多くの宝石において最適な色を持つ宝石は稀少な場合があります(図 1-02参照)。通常、淡い色は価値が比較的低くなります。しかし、アフガニスタンやパキスタンで産出された淡いブルーグリーン(またはミント)のトルマリンは、同じ原産地で産出され、色がより飽和したトルマリンよりもはるかに高い価格となります。

 

最適な色範囲
図 1-02: 色と価値の間には相互関係がある。最適な色範囲は宝石の種類によって異なり、多くの宝石にとって最適な色の宝石は入手するのが困難になることがある。1列目: スポジュメン、サファイア、シェーライト、スファレライト、トルマリン。2列目: サファイア、サファイア、スピネル、ユークレース、スピネル。イラスト: Al Gilbertson/GIA 写真撮影:Robert Weldon/GIA

The Gem Cutter(ザ・ジェム・カッター)のWayne Emeryは、彩度が低い宝石のほうがより明るくきらめいて見えるため顧客に好まれることを小売業者は学んだ、と指摘します。従って、彩度が低い宝石は彩度が高い(および高価な)宝石よりも早く売ることができるかもしれません。宝石商の立場から考えると、在庫回転率は非常に重要であり、最終的にはるかに多くの利益につながる可能性があります。このような理由から、この顧客ベースに応えるために彩度が低めの宝石をデザインに使用することを好む小売業者もいます。
 
宝石の中を透かして見ることが難しいほど非常に暗い宝石は販売するのが困難であるため、このような宝石の価格は通常大幅に低下します。最適な色は、価値を著しく急上昇させることがあります。ほとんどの場合(バイカラーの宝石を除く)、色が均一であること、または均等であることも価値を決める重要な要因の一つとなります。通常、不純物のないたったひとつの色相を示す宝石は、複数の色相がフェイスアップにある宝石よりも貴重とされています。たとえば、色が均等であるブルーサファイアは、二次的なグリーンの色相があるサファイアよりも価値があります。カラーストーン(ダイヤモンド以外)にとって、色は品質を判断する上で最も重要な要因なのです。

価値要因 2: 色の均一性

宝石内にある色が不均一な部分は、カラーゾーニングと呼ばれています。フェイスアップのカラーゾーニングには、価値曲線があります(図 1-03参照)。色が均一であることはほとんどの高級な宝石で重要となるので、フェイスアップのカラーゾーニングが増加すると通常マイナス要因として判断されます。カラーゾーニングをよく観察するには、白い紙の上で宝石を逆さまにして均一でない色を探します。ペリドットやトパーズなど、いくつかの宝石ではカラーゾーニングを見ることはできないでしょう。フェイスアップにすると、宝石が逆さまだったときに見えたのと同じ暗いまたは明るい色のカラーゾーニングまたは斑点が見えますか?水(または植物油やベビーオイルも利用可能。琥珀には油類を使用しないこと)が入った透明な瓶の中に宝石を入れて、白い背景の前に置くと、宝石の中にあるカラーゾーニングを見るのに役立ちます。

 

フェイスアップのカラーゾーニング
図 1-03: カラーゾーニングと呼ばれている宝石の内部で色が不均一な部分は、色が均一であることがほとんどの高級な宝石の特徴であるため、価値にマイナスの影響を与える。ゾーニングが顕著に見られるサファイア(左)、中程度のゾーニングがあるトルマリン(中央)、裸眼で観察できるフェイスアップのゾーニングがないジルコン(右)。イラスト: Al Gilbertson/GIA サファイアの写真:Tino Hammid/GIA トルマリンおよびジルコンの写真:Robert Weldon/GIA

価値要因 3:原産地または原産国

多くのカラー宝石にとって、原産国または採鉱場所はその宝石の価値に多大な影響を与えます(図 1-04参照)。例えば、カシミールで産出された未処理のインテンスブルーサファイアの場合、これはまさしく本当であり、他の場所で採鉱された同様のサファイアよりもはるかに価値があります。主要なグレーディングラボの中には、地理的な起源を特定するための装置が設置されていたり、専門家がいる施設もあります。産地が高い評価を得ているため宝石の価格が大幅に増加する可能性がある場合(いくつかの宝石では15%以上増加)、これらのようなラボが発行した起源に関するレポートは、その宝石の価値を実証する際に必要となります。

 

原産地
図 1-04: 宝石の原産地がその価値に与える潜在的影響。イラスト: Al Gilbertson/GIA

ラボが発行したレポートをすべて注意深く読みましょう。通常、一般的なレポートは、宝石の素材を識別しますが、地理的な起源は断定しません。銅を含有するトルマリンの標準的なGIAの鑑別レポートでは、「銅とマンガンを含有するこのトルマリンは、宝飾業界では「パライバ」トルマリンと呼ばれることがある。業界で使用されている用語「パライバ」は、この宝石が最初に採鉱されたブラジルの産地に由来するが、今日では、いくつかの異なる産地で採鉱される可能性がある」と記載されます。産地がブラジルでなくても、宝飾業界ではこのような宝石をパライバ トルマリンと呼ぶのです。宝石が原産地レポートのために提出された場合に限り、ブラジルのような原産国が記載されます。その場合には、起源がブラジルであるために価格が影響を受けます。

カラーストーン鑑別及び原産地レポート
GIA 鑑別および原産地レポートでは、宝石が天然石または合成石であるかの判定、宝石の種類の鑑別と地理学的な原産地に関する見解、さらには検知可能な処理について記述されています。またレポートにはカット、形状、重量、寸法、および色に関する詳細な記述があり、依頼された宝石の写真が添えられています。

ルビー、サファイア、レッドスピネル、エメラルド、パライバ トルマリンは、すべてGIAカラーストーン鑑別および原産地レポートの対象となります。しかしながら、それはGIAがすべての場合について原産国を特定できるという意味ではありません。GIAは、化学的および分光学的データを収集し、未知の起源のサンプルにおけるインクルージョンの種類を識別して、地理的な起源を決定します。そのデータセットは、既知の起源の参考となる宝石から取得した数々のデータと比較され、その宝石が特定の場所から産出されたものであることを示す有力な証拠を探し出します。このデータが複数の産地からの宝石と重複し、GIAが1つの産地に決定的に関連付けることができない場合、レポートには結果が「未確定」と記載されます。

名称にはどんな意味があるか?

「ハーキマーダイヤモンド」とは、ニューヨーク州のハーキマー郡とモホーク川渓谷の中およびその周辺で発見される、両端が尖っているクォーツ結晶に対して結晶のコレクターが使用する一般的な名称です。最上級の宝石の市場では、特定の地理的な場所から産出された特殊な宝石の色やフェイスアップの外観を示すために名称が付けられています。「パライバ」トルマリン、「琵琶」真珠、「サンダワナ」エメラルド、「オーストラリア」サファイア、「ビルマ」 および「モゴック」ルビーのような名称は、ありそうもなく豊富に使われていました。宝石の名称は、重要な産地がその宝石を産出しなくなっても依然として使用されます。

負結晶のあるロッククリスタル(水晶)クォーツ、「ハーキマーダイヤモンド」。
負結晶のあるロッククリスタル(水晶)クォーツ、「ハーキマーダイヤモンド」。写真撮影:Robert Weldon/GIA

場所が名称として使用されているにもかかわらず、実際にはその宝石素材がその場所から産出されない場合でも、宝飾業界における数多くの宝石の中では依然として多大な注目を浴びます。ある宝石の色がその場所から産出される素材に類似している場合、その宝石を「カシミール」サファイアと呼び、不当なプレミアムを価格に追加するディーラーも中にはいます。宝石を検査した結果、その宝石が特定の国に関連付けられる特徴を持っていることを示す、主要なラボが発行した原産地レポートが重要となるのはこのためです。

最後に、極めて重要とされている場所から質が悪い素材が多く採鉱されることもあり、このような場合は、原産地を確認することで価値が上昇することはないということを理解する必要があります。

価値要因 4: カラーストーンのサイズ

サイズとは、それぞれの種類の宝石素材の重量およびフェイスアップでの直径を意味し、これも宝石の価値に直接関連しています(図 1-05参照)。宝石が需要の高いサイズに近づくにつれて、その宝石のカラット当たりの価格が上昇します。2~3カラット以上のものはめったに採鉱されない宝石もあれば(例:ベニトアイト)、何千カラットもある宝石もあります(例:クォーツやトパーズ)。

ジュエリーに使用するのに一般的なサイズを超えている宝石には、興味を示すバイヤーの数が大幅に減少し、カラット当たりの相対的な価値が減少します。しかし、素晴らしい色(暗すぎない色)の非常に大きな宝石は非常に高価になることがあります。特に、そのような宝石が見事に素晴らしい色の宝石を産出することで知られている場所から採鉱された場合は価格がさらに上昇します。これは、ほぼブラックの宝石を除いて、そのような場所から大きなサイズの宝石が採鉱されるのはめったにないためです。

 

宝石のサイズ
図 1-05: サイズが宝石の価値に与える潜在的影響。イラスト: Al Gilbertson/GIA

原石の素材にある様々な問題にもよりますが、原石の最初の重量と比較した最終的な宝石のカラット重量である歩留まりは、50%(非常に稀少)から低いものでは2~3%までと様々です。カット職人は、宝石のカットを計画する際に様々な長所と短所を考慮に入れます。飽和した色が大きなサイズの宝石でのみ現れる場合があるので(例えば、クンツァイトやアクアマリン)、飽和した色の小さな宝石は稀少であり、驚くほど高価になります。

逆に、深く飽和した原石が大きな宝石にカットされる場合、暗すぎてあまり価値がなくなることがあります。色が均一である原石からは、サイズとプロポーションが多種多様になるにつれて、色の強度が異なる宝石を作ることができます。たとえば、薄い色の原石からカットされた宝石は、色の飽和を十分に生み出すことができる特定のサイズに達すると魅力的であると見なされます。この場合、カット職人は、わずかに色が付いてよくカットされた宝石をいくつもカットするよりも、深みのある色を持つ1つの大きな宝石をカットするでしょう。

カット職人のホワイトペーパーテスト

原石の色が暗い場合、その原石から得ることができる最高の歩留りを判断するために「ホワイトペーパーテスト」を行うカット職人もいます。このテストでは、原石を白い紙の上に置き、白熱灯の下で観察し、その後に蛍光灯の下で観察します。どちらの場合でも、明るい光源から離れて観察するようにします(図 1-06参照)。原石を通して見える色は、下にある白い紙から反射される光から作り出されます。両方の光源を使用することで、両方のタイプの照明の下で宝石にある色を観察することができます。原石があまりにも暗すぎて多くの色を見ることができない場合、色を最高に活かすために小さめの宝石にカットする必要があります。明らかに、他の多くの環境ではブラックになり得る原石を透かして見るために非常に明るい光源を使用することができます。Wayne Emeryは、薄暗い部屋にて標準的な100ワットの白熱電球の下で白い紙からおよそ30cm上のところで観察することを勧めています。

図 1-06: ホワイトペーパーテストを受けるアメジストの原石。左から右に色の彩度が増加するにつれて、原石からカットされた石は、色を最適化するために深さを減少する必要がある。写真: Emily Lane/GIA
図 1-06: ホワイトペーパーテストを受けるアメジストの原石。左から右に色の彩度が増加するにつれて、原石からカットされた石は、色を最適化するために深さを減少する必要がある。写真: Emily Lane/GIA

価値要因 5: カラーストーンのクラリティ

宝石は色が素敵に見えてきらめきを放つようにカットされるため、クラリティ(透明度)は重要な価値要因となります。きらめきを損なう原因となる問題がある場合、宝石はあまり素敵に見えません。したがって、宝石の種類ごとにも適するクラリティに関連する価値曲線があります(図 1-07参照)。宝石素材の中には、ほとんど常にインクルージョンが発見されるものや、一般的には見た目に透明である(インクルージョンが拡大せずには観察されない)ものがあります。

インクルージョンには実際に特定の宝石の価値を上昇させるものがあります。例えば、光を分散する極小のインクルージョンは、通常到達しない部分まで光を偏向させるため、カシミールサファイアにおいて色の均一性を向上させます。その結果、カシミールサファイアの外観がビロードのように見え、価値が上昇します。また、サンストーン(日長石)では、わずかな量のシラー(クラウドのような外観を生み出す極小の銅のインクルージョン)が適切な場所にある場合、価値が上昇します。

 

クラリティの価値曲線
図 1-07: それぞれの種類の宝石に対してクラリティに関連する価値曲線がある(図 1-07参照)。コーネルピン、デマントイド、ツァボライト。イラスト: Al Gilbertson/GIA 写真撮影:Robert Weldon/GIA

価値要因 6: カラーストーンの形

宝石の形(輪郭)(図 1-08参照)および特定のカッティングスタイルは、長年にわたって進化し、変化を遂げてきました。多くの場合に特定のカッティングスタイルと組み合わされる特殊な形状は、現在のジュエリーデザインにより適しているため、人気が高まっています。他の形は、あまり好まれていないか、限られたデザインにのみ適しているため販売しにくくなります。例えば、ペアシェイプはペンダントとイヤリング以外で使用されることがめったにないため、市場が限られてしまいます。デザイナーの創造性は、通常あまり使用されない形からユニークな魅力を引き出すことができるため、特定の形を販売するのに役立ちます。

図 1-08: ファッショントレンドが、宝石の形とカッティングスタイルの主な決め手となる。イラスト: Al Gilbertson/GIA
図 1-08: ファッショントレンドが、宝石の形とカッティングスタイルの主な決め手となる。イラスト: Al Gilbertson/GIA

トルマリンのようにラウンドシェイプにカットされることがめったにない宝石素材がいくつかあります。ツァボライトガーネットは、エメラルドカットとして加工されることはほとんどありませんが、この素材がエメラルドカットにカットされた場合、より高価な価格で販売されます。その他の素材は、ほとんどの場合ラウンド(モンタナサファイア)またはエメラルドカット(エメラルド)のみにカットされます。現在人気のある形やカッティングスタイルを反映する価値曲線および曲線におけるこれらの位置は、ファッショントレンドとともに需要が変化するに従って時間の経過とともに変わります。Richard Hughes(Lotus Gemology(ロータス・ジェモロジィ)は、高級宝飾品は、多くの場合、控えめなスタイルを好む年配の人々が購入するため(若い人はあまりお金を持っていない)、伝統的な形が良く売れると指摘しました。

価値要因 7: カラーストーンのカッティングの品質

明らかな事実をここで再確認しましょう。ジュエリーや宝石は個人的なものであり、着用する人を反映するものです。したがって、なぜ素敵に見えないものを敢えて選ぶでしょうか?

中央がくすんでおり外側の周りのみがきらめく悪くカットされた宝石を宝石商はなぜ販売するのでしょうか?宝石アーティストのJohn Dyerは、「カットが悪い宝石は、お客様が宝石の品質に関してあまり教育を受けていなかったり、気にしなかった昔のことです」と説明します。シンプルな「カラーストーン」は、良いカットを施すことで本物の逸品になります。しかし、カットがあまり良くない宝石は「十分に良い」とみなしてしまう宝石商が数多くいます。

中央(またはメイン)のパビリオンファセットが、その宝石素材にしてはあまりにも浅くカットされると、光が通過し、宝石の背後にあるものを見ることができます(図 1-09参照)。この現象はウィンドウと呼ばれます。 また、テーブルの下で反射しているガードルが見れる場合、これはフィッシュアイと呼ばれています。汚れは台座の端の周辺に集まるので、そのガードルの反射は、たまった汚れの色(多くの場合は灰色または茶色)となります。これらのカッティングスタイルが魅力的に見えることはめったにありません。

ペリドットのワイヤーフレーム
図 1-09: パビリオンファセットが浅いためウィンドウを示すペリドット。宝石のカットの特徴を示すためにワイヤフレームがペリドットのファセットの配置を描写している。イラスト: Al Gilbertson/GIA 写真撮影:Orasa Weldon/GIA

Josh Hallによるカラーストーンの価値の最後の要因(図 1-01参照)は、カッティングの品質です。非常によくカットされた宝石は、Hallが推定する10%よりも多く宝石の価値を上昇させます。今日の市場では、多くの宝石のカット職人は「アーティスト」として知られています。有名なアーティストがカットした宝石は、そのアーティストが人気があるために価値がかなり上昇します(図 1-10参照)。全国的に有名ではない地元のカット職人でさえも、いくつかの宝石商でその作品の価値が40%も上昇することがあります。

カッティングの品質
図 1-10: 宝石のカットの品質は、他の品質要因と同様に、宝石の価値に影響を与える。良くないカット、平均的なカット、良いカットの例: スピネル(左)、エルバイト(中央)、シェーライト(右)。イラスト: Al Gilbertson/GIA 写真撮影:Robert Weldon/GIA

宝石がカットされていない場合、その価値は非常に少なくなります。宝石の価値に与えるカッティングの影響は、その稀少性に比例しています。数万ドルで販売される非常に稀少なサファイア原石は、カットされると価格が2倍になるというわけではありません。カットされたため付加価値がありますが、カットすることで追加される価値はわずかな割合にしかすぎません。価格が数百ドルのアメトリンの原石が有名なアーティストによってカットされて仕上がった作品に追加される価値にそれを比較してみるとよいでしょう。

連載記事のこの第1部では、カラー宝石の価格に影響を与える7つの主要な要因であるカラー、色の均一性、原産国、サイズ、クラリティ(透明度)、形、カットの品質を検討しました。これらの要因すべてが、宝石が販売されている市場での様々な宝石の全体的な価格や価値を決定する主な要因となります。

次回の予告: 第2部:「宝石のカッティングスタイル - 定義」では、基本的なファセッティングスタイルに焦点を当てながら、カッティングスタイルを説明するのに使用される共通言語を確定し、カボションとビーズに関して簡略に説明します。

Al Gilbertsonは、カールスバッドにあるGemological Institute of Americaのラボのカット研究部門でプロジェクトマネージャーを務めています。GIAに入社する前は、American Gem Society(アメリカ宝石学会、AGS)のカットタスクフォースで、カットグレーディングのASET技術の基礎としてAGSが取得した特許を開発するなど、多大な貢献をしました。GIAには2000年に入社し、ラウンドブリリアントダイヤモンドのためのGIAカットグレーディングシステムを開発した研究チームの一員となりました。また、Gilbertsonは『American Cut—The First 100 Years(アメリカのカット — 最初の100年)』の著者でもあります。

この記事をレビューしていただき、貴重なご意見をいただいたWayne Emery(The Gemcutter)、Brooke Goedert( 研究データスペシャリスト/GIAカールスバッド)、Josh Hall(副社長/Pala International, Inc.)、Dalan Hargrave(Gemstarz)、Richard Hughes(Lotus Gemology)、Stephen Kotlowski(Uniquely K Custom Gems)、Andy Lucas(コンテンツ戦略およびフィールドジェモロジィ教育部門マネージャー/GIAカールスバッド)、Nathan Renfro(鑑別部門分析マネージャー/GIAカールスバッド)に、深くお礼を申し上げます。

この連載記事の第1部および第2部は、GemGuide(ジェムガイド)の2016年1月/2月 第35巻1号、第3部および第4部は、2016年3月/4月 第35巻2号、第5部は、2016年5月/6月 第35巻3号に掲載されました。記事では主題に「ファセットカットされた」という用語は使用されていませんが、この連載記事の主な要点は、ファセットカットされた宝石です。
Gemworld International, Inc., 2640 Patriot Blvd, Suite 240, Glenview, IL 60026-8075, www.gemguide.com
© 2016 Gemworld International, Inc.(ジェムワールド・インターナショナル) 無断複写・転載を禁じます。GIAはこの記事をGIA.eduで公開する許可を取得しました。