フープ・ドリームス - NBAチャンピオンリング


2011年ダラス・マーベリックス、1996年シカゴ・ブルズ、2015年ゴールデンステート・ウォリアーズのNBAチャンピオンリングの上面の画像

NBAチャンピオンシップで優勝をするには、世界クラスのスキル、チームワーク、そしてインスピレーションが必要です。 NBAチャンピオンリングを作るのにも、同じ資質が必要とされます。

NBAチャンピオンリングの制作に必要なものを知るために、私たちは Jostens(ジャスティンズ)社とJason of Beverly Hills(ジェイソン・オブ・ビバリーヒルズ)社の幹部たちにインタビューを行いました。 両社は、プロ選手用の究極のステータス・シンボルであるリングのデザインおよび制作を行っている会社です。

ジャスティンズ社は、最も多くのチャンピオンリングを生産している制作会社のひとつです。 同社の制作実績には、NBAチャンピオンリング46回、スーパーボウルリング31回、メジャーリーグ・ワールドシリーズリング、ナショナルホッケーリーグ・スタンレーカップのチャンピオンリング、NASCARリング、メジャーリーグサッカー・チャンピオンリング、その他数百に及ぶ大学や高校のチャンピオンリングなどがあります。 直近では、NBAの2011-2012年および2012-2013年シーズンの優勝チームであるマイアミ・ヒートのチャンピオンリングのデザイン・制作を行いました。

マイアミ・ヒートのリングにはデザインにおける独自の難題がありました。 ジャスティンズ社によると、ネットを通り抜ける0.5カラットのダイヤモンド・バスケットボールのロゴの再現が特に困難だったということです。 リングにはまた、サイドパネルに秘密のメッセージも施されていました。 ラリーオブライエン・トロフィーの下には14金で16本のラインが入っています。 チームがプレーオフへ進出した際、ヘッドコーチのErik Spoelstraはロッカールームにトロフィーを持ってきました。 コーチは、チームが優勝するためには16回の勝利が必要だと選手たちに告げ、チームが勝つたびにそのトロフィーに印を付けていきました。

ジャスティンズ社が制作した、2013年のマイアミ・ヒートのNBAチャンピオンリングもまた印象的なものでした。10.3カラットものダイヤモンドがはめ込まれ、同社製のバスケットボールのチャンピオンリングに使用されたダイヤモンドとしては、現在史上最高の重量を記録しています。

2011年-2012年のマイアミ・ヒート NBAチャンピオンリングは、テーブルに46個のカスタムカットのプリンセスカット ダイヤモンドがあしらわれている。 リングには合計で約10.80カラットに及ぶ、219個のラウンドカットとプリンセスカットのダイヤモンドがセットされている。 ©Jostens, Inc.(ジャスティンズ)

ジェイソンオブビバリーヒルズ社は、2009年以来NBAチャンピオンリングを3度制作しています。 同社は直近では2014-2015年のゴールデンステ-ト・ウォリアーズのチャンピオンリングを制作しており、ステファン・カリーは誇らしげにそれを身に着けています。また、2008-2009年および2009-2010年シーズンには、ロサンゼルス・レイカーズのリングを制作しています。

2015年 ゴールデンステート・ウォリアーズ リングの上面を示す画像。
2014年-2015年シーズンのゴールデンステート・ウォリアーズ チャンピオンリング。 提供:Jason of Beverly Hills社

ゴールデンステート・ウォリアーズの2015年NBAチャンピオンリングには、6カラットを超えるダイヤモンドとブルーサファイアが輝いています。 他にも印象的な技巧、象徴、そして隠されたメッセージが特徴となっています。

リングにセットされた240個のダイヤモンドは、現所有者の下でのチームの勝利数を象徴しています。 トップの円形はウォリアーズジャージのロゴとバスケットボールの形状を示しています。 ゴールデンゲートブリッジと選手の背番号で使用されているカスタムメイドの純度67%の金(およそ16K)は、シーズン中のウォリアーズの67勝を表しています。

提供:ジェイソンオブビバリーヒルズ社

リングのデザイン

NBAチャンピオンリングのデザインは創​​造性とスキルの短距離競争のようなものです。 シーズン最後のショットが放たれた後、ジャスティンズ社およびジェイソンオブビバリーヒルズ社は、次の試合開始ブザーが鳴るまで大忙しとなります。続くシーズンの開幕日に選手たちへと贈呈されるリングのデザイン・制作期間は、約4ヶ月しかないのです。 まず、デザインがチームに披露されます。 そして、チームオーナーが業者を選定します。 プロジェクト全体および各リングに費やされる金額の予算が設定されます。 これはチームによって異なります。

ジェイソンオブビバリーヒルズ社は、試合のタイマーが終了に向けて時を刻み始めると同時にデザインを開始します。 ゴールデンステート・ウォリアーズのリングを制作する際には、選手たちをあっと言わせるコンセプトのスケッチをデザイナーが手描きしていました。 これが3D CADモデルになりました。 そしてジェイソンオブビバリーヒルズ社は、デザイン改良のためにステファン・カリー、ドレイモンド・グリーン、アンドレ・イグダーラとの面会を行いました。 オーナーのジョー・レイコブとピーター・グーバーは、追加の提案をしました。 同社はすべての意見を統合し、チームの独自性をとらえたデザインを作成しました。

ジャスティンズ社のアプローチは異なります。 最終4チームによるNBAプレーオフの試合開始時に、デザイナーたちはすべてのチームを対象とした実物大模型を製作します。 そうすることで、どのチームが優勝してもデザインを披露できる準備を整えるのです。 ジャスティンズ社のデザインチームが優勝チームに初期の完成予想図を示します。 選手たちはそのシーズンの要となった瞬間やイベントを共有します。 オーナーたちは、リングに加えたい要素の希望を伝えます。 その後ジャスティンズ社は、約3〜4週間後に最終デザインを提示します。 目的は、優勝までの物語をゴールド、ダイヤモンド、その他の宝石に刻み付けることです。

シカゴ・ブルズが6シーズンの優勝を果たした1990年代においては、シーズン優勝への特性を盛り込むことは、ジャスティンズ社にとっていくぶん楽だったかもしれません。 ジャスティンズ社はこれらすべてのリングをデザインしたので、フランチャイズチームとそのオーナー、そしてチームについての理解があったからです。 オーナーのジェリー・ラインズドルフとその妻は、ブルズのスターであるスコッティ・ピッペンと密接な協力関係をとりながら1993年のシカゴ・ブルズNBAチャンピオンリングのデザインを作成し、そのリングはマイケル・ジョーダンが誇らしげに身に着けています。

1993年シカゴ・ブルズ・チャンピオンリングの上面と側面の画像
ブルズのロゴを3Dで作成することは骨の折れる作業であった。 製作およびセットに卓越したデザインスキルが必要とされた、手作りのレッドストーンを備えている。 ©Jostens, Inc.

リングの制作

リングデザインの際には、ジャスティンズ社は昔ながらの職人技と最新技術を組み合わせた13ステップのプロセスを駆使しています。 CAD/CAMのレイアウトがハンドスケッチに取って替わります。 制作は、3D印刷と併せて使用されるロストワックス製法(リングのろう型を材料に包み、ろう型を燃焼した後の空間に溶かした金属を流し入れる)を主体としています。 すべてのリングが手作りで、着用者一人一人のためにカスタマイズされます。 同社は、新旧の技法をミックスさせたこの手法のおかげで優れた製品を提供することができると考えています。

リングサイズは、フランチャイズチームで働く小柄のスタッフの9号サイズから選手用の最大47号ほどまであります。 同社はあらゆるサイズのリングを作ることができる専用の道具を備えています。

ジェイソンオブビバリーヒルズ社がリングを制作する際は、どのリングもテーブル面の円周は同じ大きさです。 ですが、リングサイズは個人別に調整されます。 すべてのリングは社内で作られており、制作の完了までには6〜8週間かかります。

NBAチャンピオンリングの宝石には、ジャスティンズ社は天然ダイヤモンド、サファイア、ルビー、そしてエメラルドを使用しています。 フランチャイズチームの特殊なユニフォームのパントーン指定色に合わせるときや、複雑な形状にカスタムカットを施した宝石を使用するときなどは、合成石が用いられることもあります。 しかし、可能な限り天然の宝石を使用することを目標に掲げています。

「当社は、チームのロゴやその他のデザイン要素の作成時にはカラー宝石を使用しています。 これはダイヤモンドのみを特徴としてきたチャンピオンリングにとっては、比較的新しい傾向です。 ボストン・レッドソックスとセントルイス・カージナルスは、当社がロゴにルビーを使用した最近の2つの例です」ジャスティンズ社の副社長 兼 スポーツマーケティング開発部長のChris Poitrasは、このように述べています。

ジェイソンオブビバリーヒルズ社が制作した3つのNBAリングでは、天然石のみが使用されています。 宝石の産出地は世界各地に及び、そのほとんどがカナダでカットされています。

ジャスティンズ社によると、金属部分は14Kホワイトゴールドが最も一般的であるとのことです。 プラチナとイエローゴールドが使用される場合もあります。 ジェイソンオブビバリーヒルズ社は、14Kホワイトとイエローゴールドが最も人気のある金属だと説明します。 イエローゴールドの人気が来年あたりから再燃するだろうとPoitrasは予測しています。

NBAチャンピオンリングの進化

チャンピオンリングは数十年にわたり変化を遂げています。 Poitrasによると、「チャンピオンリングは、単なる勝利の象徴だけではなく、洗練されたチームブランドの延長へと移り変わりました。 こうしたブランドは象徴的で、そのロゴやフォント、重要な瞬間がデザインへ織り込まれ、出来上がった作品からは勝利までのチームの道のり、そしてフランチャイズチームの反映が読み取れるのです」   

リングをブランドの延長へと変えるにはより大きなキャンバスが必要となり、そのためリングはより大きくなります。 大柄の選手も、リングサイズの大型化を押し進めました。 ジャスティンズ社が制作したボストン・セルティックスの1969年NBAチャンピオンリングは、リングがいかに進化してきたかを示す劇的な例となっています。

1969年ボストン・セルティックス チャンピオンリングの上面と側面の画像
ダイヤモンドをバスケットボールの頂点にはめ込んでいることが当時では最先端だと考えられていた、10Kイエローゴールドに0.5カラットのダイヤモンドがついているボストン・セルティックスのリング。 ©Jostens, Inc.

ジェイソンオブビバリーヒルズ社は、より大きいリングの強みはその見栄えの派手さだと見ています。 「すべてのオーナーがより大きい、より良いリングで互いの上を行こうとしています」ジェイソンオブビバリーヒルズ社のデザイナー 兼 オーナーのジェイソン・アラシェベンはこのように述べています。

リングの個別化

NBAチャンピオンリングは、個別化が図られています。 通常、選手の名前と背番号がシャンク部分に刻まれています。 使用される宝石の数は、登録選手名簿の選手の数やチームのシーズン中または歴史を通した重要な節目の出来事などを表す場合があります。 チームのモットー、選手の背番号、重要な試合の最終スコア、その他の重要な詳細がさりげなくデザインに組み込まれているのです。

2011年 ダラス・マーベリックス チャンピオンリングの上面の画像。
14Kホワイトゴールドリングのダラス・マーベリックス チャンピオンリングは、総重量約10カラットに及ぶ、250個を超えるブリリアントラウンドとプリンセスカットダイヤモンドを特徴としている。 ©Jostens, Inc.

ダラス・マーベリックス用に制作されたジャスティンズ社の2011年NBAチャンピオンリングは、この印象的な職人の技と味わいのある象徴性を持つひとつの例となっています。 14の総リング構成品の一部であるマーベリックスのロゴを作るために、6個の個別ピースが必要でした。 それを取り囲む31石のカスタム・プリンセスカットのダイヤモンドは、ダラス・マーベリックスが毎年NBAに出場していたことを表しています。 リングトップの残りの部分の周辺に輝かしくセットされているのは、ラウンドブリリアントカットのダイヤモンドです。

選手名とマーベリックスの初優勝を象徴するシングルスターが、サイドパネルに示されています。 反対側のサイドパネルには、一石のラウンドブリリアントカット・ダイヤモンドがセットされたスターがあります。 マーベリックスの「M」には15個のラウンドブリリアントカット・ダイヤモンドがセットされ、チャンピオンシップに登録されていた15選手を表しています。

このリングをデザインした時は、ゴールラインへ向けてのダッシュが印象的でした。 NBAのストが発生し、ジャスティンズ社がデザインにアイデアを織り込むための選手との会話ができなかったのです。 最終的に打ち合わせができた時点で同社に残されたリングデザインの期間は、たった17日間でした。

「NBAのチャンピオンリングは、精巧なウエアラブルアート作品のようになってきています」と、GIAの博物館展示マネージャーMcKenzie Santimerは語ります。

©Jostens, Inc.(ジャスティンズ)

ジャスティンズ社とジェイソンオブビバリーヒルズ社によって制作されたすべてのNBAチャンピオンリングには、生涯保証が付いています。 リング制作時には細心の注意が払われているため、修理のためにリングが返却されることはめったにないとジャスティンズ社は説明します。 リングに破損が生じた際、選手たちは専用のカスタマーサービス担当者に連絡します。

ロサンゼルス・レイカーズリングの 個別化

リングの上面と選手の顔のプロファイル側を示す2009年ロサンゼルス・レイカーズチャンピオンリングの画像。
Jason of Beverly Hills社はロサンゼルス・レイカーズの15回目の優勝に 15Kゴールドを使用した。 提供:Jason of Beverly Hills社

ロサンゼルス・レイカーズが 2008-2009シーズンで15回目の優勝を果たした際、ジェイソンオブビバリーヒルズ社は2.85ctの大きな15個のラウンドブリリアントカット・ダイヤモンドをテーブルにセットし、 勝利を祝いました。 同社はまた15金も使用してそのマイルストーンを祝福しました。

このレイカーズのリングは、チームのホームアリーナであるステープルズセンターの外観の形状を反映しています。 横から見たときにその「屋根」と「側面」が見てとれます。

すべての選手の顔がリングの側面にエッチングされています。 画像作成にはCAD/CAMと3D印刷が使用されました。 コービー・ブライアントと彼のチームメンバーは、それぞれのリングに永久に名を残しています。

リングの上面と内側を示す2010年 ロサンゼルス・レイカーズ チャンピオンリングの画像。
テーブル上の16個の特大ラウンドブリリアントカットのダイヤモンドはレイカーズ の16回に及ぶ歴史的勝利を象徴している。 「16」というテーマを追求しつつ、Jason of Beverly Hills社は16Kゴールド合金をリングに使用した。 提供:Jason of Beverly Hills社

ジェイソンオブビバリーヒルズ社は、2009-2010年シーズンのロサンゼルス・レイカーズ用NBAのチャンピオンリングの制作も行いました 。 そこには2シーズン連続優勝を表す2つのトロフィーがあります。

巧妙な手触り:優勝した試合のバスケットボールが永遠にリング内側に保存されています。

NBAチャンピオンリング贈呈式

新しいシーズン開幕の夜を照らす明るい照明のもとで、選手たちは自分たちのリングを受け取ります。 フランチャイズチームで働くすべての人に贈呈が行われます。 それは感動の瞬間です。 今やチャンピオンリングは、過去シーズンの戦歴に対する永遠の賛辞です。

ジェイソンオブビバリーヒルズ社はそのプレゼンテーションに気の利いたひとひねりを加えました。 各選手には、電動式ターンテーブルとリングに照明が当たる内蔵ライトが装備された箱が贈られたのです。 これは、博物館の展示ケースとナイトクラブのダンスフロアの間をとったような箱でした。

新シーズンは秋に開幕し、全30チームがラリー・オブライエン・トロフィーを目指して戦いを展開していきます。 優勝を手にするのは1チームのみです。 そして、NBAチャンピオンリングの制作もまた一から繰り返されるのです。