特集

ピンクダイヤモンドは何故ピンクなのか?
GIA研究員、結晶構造を深く探求する


Placeholder Alt Text
2016年にニューヨーク市で行われたアーガイルピンクダイヤモンドテンダーに出品されたダイヤモンド。左から右: 0.64カラットのファンシーディープピンクの楕円形、0.75カラットのファンシーインテンスパープリッシュピンクのトリリアント、0.91カラットのファンシービビッドパープリッシュピンクの楕円形、1.30カラットのファンシーインテンスピンクのハート、1.35カラットのファンシーインテンスパープリッシュピンクのクッション、0.80カラットのファンシービビッドピンクのペア、0.45カラットのファンシービビッドパープリッシュピンクのエメラルドカット。提供:Argyle Pink Diamonds(アーガイルピンクダイヤモンド社) 写真撮影:Robert Weldon/GIA

天然ピンクダイヤモンドは、地球が生み出す宝庫の中で最も価値が高くて稀少なダイヤモンドの一つです。主要なオークションでは、最高品質の鮮やかな色を呈する石のカラット単価は200万ドルを超えることがあります。このような価格は、その美しさは勿論のこと、その稀少性のため付けられます。それは、ダイヤモンドのごく一部だけがピンク色であり、これらのうち豊かで鮮やかな色を呈するピンクダイヤモンドは、ほんのわずかしか存在しないためです。

しかし、ラボで製造されたピンクダイヤモンドは、ほとんどの天然石とは全く異なります。GIAの研究員は、これらのファンシーカラーダイヤモンドの大部分が自然界で形成された方法を製造業者は複製することはできない、と説明します。

2008年から2016年の間にグレーディングされた9万以上もの天然のピンクおよび関連する色のダイヤモンドに関するGIAの膨大なデータベースを使用し、GIAの主任研究科学者のSally Eaton-Magaña博士、研究員のTroy Ardon、研究科学者のKaren V. Smit博士、主任研究科学者のChristopher M. Breeding博士、名誉研究フェローのJames Shigley博士が、ピンクダイヤモンドに関する史上初の詳細にわたる最も総合的な宝石学的分析を行い、その研究成果をGIAの季刊誌、Gems & Gemology (宝石と宝石学) 2018年冬号で発表しました。

大きなピンクのダイヤモンドリングとキャッチコピーが掲載されたG&Gの表紙。
天然色のピンクダイヤモンドは、非常に貴重な宝石である。本号のメイン記事は、ピンク、オレンジがかったピンク、パープル、レッド、ブラウンカラーの9万以上のダイヤモンドに関するGIAのデータベースに基づいて、その宝石学的および分光学的な特性を要約する。表紙を飾るのは18.96カラットのWinston Pink Legacy(ウィンストン・ピンク・レガシー)。エメラルドカットのこのファンシービビッドピンクダイヤモンドは、先日のオークションにて5000万ドル(約57億円)を超える価格で落札された。ウィンストン・ピンク・レガシーの提供:Harry Winston, Inc. ©2018 Christie’s Images Limited(クリスティーズ・イメージズ社)

9万以上のダイヤモンドの試料には、2008年から2016年にかけてGIAに提出されたピンクを主色とするダイヤモンドがすべて含まれています。また、これらのダイヤモンドの色相の範囲は赤から紫まで、彩度は薄いものから暗いまでとなっており、色の原因がピンクやそれに関連する石と同様であるブラウンダイヤモンドも含まれています。これらの9万以上のダイヤモンドの多くは小さい石であり、彩度が低いものでした。

この研究では、ピンクダイヤモンドの99.5%の色は、ダイヤモンドを青くするホウ素や黄色にする窒素などの微量元素ではなく、結晶構造の歪みに起因することが確認されました。窒素を含むピンクダイヤモンドでは、通常、色が平行な狭いバンド内に集中しています。このようなバンドは、その色に応じてすべり面、ラメラ、もしくはピンクまたはブラウンのグレイニングと呼ばれます。顕微鏡で観察すると、これらの筋を見ることが可能となり、カット職人は地色を最大限に活かすためにテーブルに対して垂直にこれらの筋を配置して加工します。

色を生成する欠陥の多くをラボラトリーで行われる処理過程に導入することができますが、塑性変形によって作られるダイヤモンドの結晶構造における原子レベルの歪みは処理で生成することはできません。

塑性変形がこれらの色を持つダイヤモンドの大部分に関連していることは確認されていますが、色が生じる原因となる欠陥の実際の原子構造はまだ解明されていません。また、分光分析ではピンクの色が550ナノメートル(nm)を中心に広い吸収バンドによって生じていると、Breedingは指摘しました。分光分析は、可視スペクトルにおいて特定の吸収ピークまたはバンドを生じさせるダイヤモンド(およびその他の宝石)内の不純物やその他の欠陥を測定することができる、宝石学において重要な分析法です。研究員は、ラボラトリーで行われる処理または成長過程によって550nmの吸収バンドを持つ塑性変形を複製する既知の方法はないと説明しました。

GIAのグレーディングラボに提出されたすべてのファンシーカラーダイヤモンドは、色そしてダイヤモンド自体が天然のものであるかを判断するために厳格な分析を受けており、このためGIAのデータベースは非常に詳しい結果を提供し、GIAの研究において非常に貴重とされている、とShigley博士は語りました。また、この研究チームが、1,000個のピンクダイヤモンドから成る代表的な試料を選び、Gems & Gemology(宝石と宝石学)の記事のためにさらに完全な検査を行った、と付け加えました。

ピンクダイヤモンドの研究における色分布を示す2つのグラフ。

ラボラトリー グロウン ピンクダイヤモンドの製造方法

市場にはラボラトリー グロウン ピンクダイヤモンドが出回っていますが、これらは3つの異なる方法によって製造されている、とEaton-Magañaは述べました。

最初の、そして最も一般的な方法では、窒素不純物と共に成長したラボラトリー グロウン ダイヤモンドを照射処理(放射線にさらす)して、その後適度な温度(600°C~1000°C)で加熱します。ピンクおよびそれに関連する色の大部分は、この方法を使用して作られています、とEaton-Magañaは説明しました。

この処理過程により、その色を生成する窒素空孔中心と呼ばれる結晶格子(格子内の窒素原子に隣接する炭素原子の欠落によって起きる)に欠陥が生じます。Eaton-Magañaは、天然のピンクダイヤモンドのごく一部には、575nmと637nmで分光線を識別することができるこの窒素空孔中心があると説明しました。

窒素空孔中心を持つこれらのピンクダイヤモンドは、GIAのデータベースにある天然ピンクダイヤモンドのうち約0.5%しかありません。これらはタイプIIaダイヤモンド(窒素またはホウ素がごくわずかしか含まれておらず、ほぼすべてが炭素である非常に純粋な化学組成を持つ稀少な種類のダイヤモンド)であり、ピンク色が非常に均一であり、目に見える着色されたラメラがありません。これらの石はゴルコンダピンクと呼ばれることがありますが、18世紀後半に閉鎖されたインドの鉱山と必ずしも関係があるとは限りません。

一般的に、窒素空孔中心を有する天然ピンクダイヤモンドは淡い色である一方、ラボで製造されたり処理されたダイヤモンドの色はより濃いめである、と彼女は指摘しました。このようなダイヤモンドの色の原因を特定するには、宝石鑑別用のラボラトリーなどでさらに詳しい検査が必要とされます。

研究員が2番目として挙げる方法では、化学蒸着 (CVD)で製造された成長したラボラトリー グロウン ダイヤモンドでのみ発生し、成長中に520nmのスペクトルバンドが生成され、石がオレンジがかったピンク色になります。GIAは、これらの石はほんのわずかしか見たことがなく、その色は他のピンクのラボラトリー グロウン ダイヤモンドほど鮮やかではなかったと報告しています。

Eaton-Magañaによるとさらに稀である3番目の方法では、CVD法による成長過程で大量のシリコンを追加してピンク色を生成します。この方法で処理された石は、UV照明にさらされると、安定したピンク色と一時的な青色で色が交互に変わります。

無色から紫色まで、ピンクダイヤモンドの様々な色相を示すカット済みおよび研磨済みの3列に並んでいるピンクダイヤモンド。

サイズと色の統計: ピンクダイヤモンドの稀少性

この研究に使用されたダイヤモンドは、47%がアンモディファイドピンク(他の色が観察されない)、28%が紫がかったピンクからピンクがかた紫色、17%が茶色がかったピンクからピンクがかった茶色、10%が茶色がかったオレンジピンクからオレンジがかったピンク、3%が茶色、1%がパープルブラウン、パープルグレー、パープル、0.9%が赤、ブラウンレッド、オレンジレッドでした。アンモディファイドピンクダイヤモンドのうち、54%がフェイントからライトのピンクとグレーディングされました。

ブラウンダイヤモンドは自然界の中で最も一般的なファンシーカラーの一つとされていますが、このグループでブラウンダイヤモンドが占める割合が低いことから、ほとんどがグレーディングレポートなしで市場で販売されていると判断できます。茶色はピンクや黄色などの他の色相を伴っているか、または茶色の石は他の色を生成するために処理されています。

このグループの大半(83%)は1カラット未満で、それらの56%が0.5カラット以下でした。形状は主にラウンド(24%)、ペアシェイプ(20%)、長方形(16%)、クッションシェイプ(13%)でした。

ピンクおよびそれに関連する色のダイヤモンドに関してこれまでに行われた中で最も広範囲にわたるこの研究では、25%がタイプIIaであり、これは無色からほぼ無色のダイヤモンド(割合は5%未満)よりもはるかに高いことが判明した、とBreedingは述べました。

タイプIaのピンクダイヤモンド(結晶格子に不純物として窒素原子のクラスターまたは凝集体を含むダイヤモンド)の大半は、オーストラリアのアーガイル鉱山とロシアのほぼ2つの原産地のみから産出されており、このタイプの石を最も豊富に一貫して生産しています。タイプIIaのピンクダイヤモンドおよびその他のタイプIaのピンクダイヤモンドは、タンザニア、南アフリカ、ブラジルなどの他の原産地より産出されていますが、いずれの鉱山も定期的にこれらのピンクダイヤモンドを産出しているとは報告していません。

これらのタイプのピンクダイヤモンドは、他の原産地では滅多に発見されることがないため、ある特定の産地から産出されるのは珍しいことです。アーガイルは非常に飽和した(着色された)ピンクや紫がかったピンクのダイヤモンドおよびレッドダイヤモンドの主要な原産地であるため、この鉱山が来年閉鎖した後、このような石の数がかなり減少する、とBreedingは指摘しました。

処理およびラボラトリー グロウン ダイヤモンドの自動検出を援助する研究

ピンクダイヤモンドに関するこの研究により、これらの稀少で美しいダイヤモンドがどのように形成され、これらに色を与える特性についてGIAが理解を深めることができます。研究員たちは、吸収分光法およびフォトルミネッセンスのデータを分析し、原子レベルで数多くの新しい詳しい情報を発見しました。これらの研究成果は、これらの素晴らしい石の理解をさらに深めるのに役立ち、鑑別をより速く、より正確に行うことを可能にします。

本研究は、ピンクやそれに関連する色のダイヤモンドを処理済みの石や合成石から正確に選別する機能をGIA iD100®宝石検査用機器に追加する、GIAが開発したアップグレードの重要性を強化します。

Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。