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私のダイヤモンドやその他の宝石はどの国で産出されましたか?


人々が集まった部屋で表彰台の前に立っている男性。
2020年3月、カールスバッドのGIAで『Gemstone Country of Origin Reporting(宝石の原産地レポート発行について)』と題した講義を学生と一般の人々のために行ったGIA名誉研究員、James Shigley博士。写真撮影:Emily Lane/GIA

「1931年(GIA設立)以来、GIAは得た知識をすべて皆さんにお伝えしてきました。」

James Shigley博士が先日行った講義『Gemstone Country of Origin Reporting(宝石の原産地レポート発行について)』は、GIAの伝説的な二代目社長であるRichard T. Liddicoatのこの名言で始まりました。
 
「この名言は、GIAが設立された理由を簡潔に最も良く表現しています」と、GIA名誉研究員であり Stanford University(スタンフォード大学)より地質学の博士号を取得したShigleyは語ります。Shigleyは、GIAの研究部門における37年間の経験より得た宝石の起源に関してすべて(または多く)を伝えてきました。この講義はカラーストーンの起源の判定に焦点を当て、原産地に関して特集したGems & Gemology(宝石と宝石学、G&G)2019年冬号に詳細が掲載されました
 
「[カラーストーンの]原産地レポートの発行は、鑑別作業においてラボで最も困難な課題と言えるでしょう」とShigleyは述べます。
 
また、GIAの研究員は、ラボや採掘現場で膨大な量の石を目にするため、カラーストーンの起源に関する見解を提供する独自の能力があるのだと彼は説明します。GIAのフィールド研究員は、過去10年間で21カ国にて現地調査に95回も参加し、合計100万カラット超にも及ぶ22,000以上の試料を収集しました。また、GIAでは60人の研究員が活躍しており、そのうちの20人以上が地質学、化学、材料科学などの分野で博士号を取得しています。
 
これらの現地調査から得られた知識は、GIAのカラーストーンのレポート サービスにおいてGIAが宝石業界に提供できる情報の「基礎」の一部を成す、とShigleyは述べます。GIAカラーストーン鑑別及び原産地レポートは何十年も前からありますが、GIAダイヤモンド オリジンレ ポートは比較的新しいレポートです。 
 

白いマトリックス素材にあるルビー(左)とカットおよび研磨されたルビー。
カルサイトにあるルビー結晶(左)とラウンド カットのルビー。両方ともミャンマー(旧ビルマ)産。標本提供:Eduard J. Gübelin博士コレクション。写真撮影:Robert Weldon/GIA

GIAはカラーストーンがどこで産出したかをどのように判定するか?

「原産地に関するレポートは、専門家の意見であるということを認識するのは非常に重要です。ほとんどの場合、宝石を発見した時に私たちはその現場にいないので、私たちに提示されるのは試料の検査に基づいた専門家の意見なのです」とShigleyは説明します。
 
「石は産出された場所によって異なる地質学的特性を有するはずであると仮定されますが、必ずしもそのような結果になるというわけではありません」とShigleyは語ります。
 
Shigleyは、カラーストーンの原産地を報告する際に直面す課題をいくつか次のように紹介しました。

  • 宝石鉱床の地質学はあまり知られていないことが多く、漂砂鉱床で産出された多くのカラーストーンの起源は不明である(Shigley曰く、元の母岩がどこにあるのか分からず、何キロも離れている可能性がある)。

  • 鉱床へ辿り着くのは困難な場合がある。

  • 宝石の鉱床は国境で途切れることはない。

  • 非常によく似た素材が、異なる国の鉱床から産出されることがある(マダガスカル、カシミール、スリランカのサファイアなど)。

  • 同じ国に異なるタイプの鉱床が発見されることがある。

「これらの課題から、宝石学上の特性、すなわちインクルージョン、化学組成、宝石素材のその他のすべての特性を決定するのは地質学であることが分かります」とShigleyは述べます。
 
原産国や地理的起源に関する報告は、有名なスイスのジェモロジストEduard Gübelinが1950年代に、自身の会社が販売していた石の産出地に関する文書を提供したことが始まりである、とShigleyは説明します。また、Gübelinは、インクルージョンがカラーストーンの原産地を判定するのに手掛かりとなる点に関する一連の論文をG&Gのために執筆しました。
 

青い楕円形のサファイア
7.04カラットの楕円形のマダガスカル産サファイア。提供:Mayer & Watt(メイヤー&ワット)、ケンタッキー州メイズビル。写真撮影:Robert Weldon/GIA

研究員がそれまでに得た知識と記録に残した内容に基づいて、GIAは10年前に「宝石がある場所を訪れる」ためにフィールド ジェモロジィ プログラムを作った、とShigleyは述べます。そのプログラムのチームは信頼性の高いデータベースを構築するために試料を収集し、現場の写真を撮影したり、ビデオを収録します。また、その場所でその時点で実際に行われていることを完全に理解するために、鉱山労働者にインタビューもします。このプログラムはGIAのカラーストーン原産地レポートの基礎であり、GIA教育コースに貴重な情報を提供してくれる、とShigleyは語ります。

 

カラーストーンは、オーストラリア、ブラジル、コロンビアで引き続き発見されていますが、今日では世界の2つの地域でよく発見されています。1つ目は、インドとアジアが衝突する地帯であるインド亜大陸とアジアの間にある国々(イラン、パキスタン、アフガニスタン、インド北部、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、タイ)です。この大陸衝突帯は、宝石鉱床を形成するために必要とされる変成岩質およびマグマ性の地質環境を生成しました。2つ目の地域は、東アフリカ(エチオピア、ソマリア、ケニア、タンザニア、マダガスカル、モザンビーク)、およびスリランカとインド南部であり、これらの地域は宝石鉱床を生成するのに適切な地質条件を有する、もう一つの衝突地帯です。


かがみながら、川の砂利をふるいにかけている2人の鉱夫。
マダガスカルの2人の鉱山労働者が川の砂利からサファイアを見つけようとしている。この写真は、2010年9月にGIAがマダガスカルでフィールド調査を行った際に撮影された。写真撮影:Vincent Pardieu/GIA

GIAフィールド ジェモロジストは、これらの国々を訪れて、研究のために宝石の試料を収集します。これらの試料は、原産地からどれくらい近い場所で収集されたかによって以下のように分類されています。

  • タイプA ‒GIAのジェモロジストが現場で収集した試料

  • タイプB ‒採鉱されるのをGIAのジェモロジストが目撃した試料

  • タイプC ‒鉱山現場で採掘職人から購入した試料

  • タイプD ‒採掘職人から鉱山現場以外の場所で購入した試料

  • タイプE ‒鉱山に近い二次的な調達者(採掘職人以外)から購入した試料

  • タイプF ‒国際市場で二次的な調達者から購入した試料

GIAが収集する試料のほとんどはタイプ D または E であり、可能な場合はタイプ A、B、および C も加えられます。これらの試料はラボに持ち帰られ、研究員が色、蛍光、インクルージョン、成長ゾーニング、化学組成、スペクトル(可視および赤外線)、ラマン分光分析、フォトルミネッセンスを研究します。また、多くの場合、これらの石は100倍に拡大して撮影されるため、インクルージョンおよびその他の視覚的特徴が記録されます。科学者は収集されたデータを基に、手元にある宝石素材の色の原因を判定することが可能となり、起源を判定したり、宝石をタイプ別に分類するのに役立ちます。

暗い色のマトリックス素材にあるエメラルド原石
母岩に埋もれたこのエメラルド結晶は、世界最大のエメラルド生産国であるコロンビアで発見された。写真撮影:Orasa Weldon/GIA

走査型電子顕微鏡やレーザーアブレーション質量分析計など、こうしたデータをすべて収集するために必要な機器の価格は、1台10万~100万ドルとされています。これらの機器の中には、非常にわずかな量の微量元素を10億分率(PPB)で検出することができ、世界の特定の国に特有の元素を発見することができるものがあります。宝石のデータ収集における最大の課題は、宝石を分析する際に非破壊的な方法を使用することです。

宝石の起源を判定するのに直面するもう一つの課題は、宝石が新しい産地で発見される度にその国が原産地リストに追加されるため、GIAフィールド研究員がより多くの宝石を常に文書化しなくてはならないことです。Shigleyはルビーを例に挙げ、長年の間における新しい鉱床の発見の増加について説明しました。ルビーの原産地は、1950年に世界でわずか8ヵ所しかありませんでしたが、今日では30ヵ所もあります。

「必ずしも最高品質の素材が産出されるわけではありませんが、これらすべての鉱床から産出される素材は市場で出回っており、起源レポートのためにGIAに提出される可能性があります。課題は、地質条件が非常に異なる原産地が増えていることですが、地質条件が非常に似ている地域が増えることもあるということです」とShigleyは述べます。

「原産地サービスのためにクライアントの石を比較するために、GIAの鑑別ラボでデータベースにアクセスすることができます。現地調査を行う度にデータベースが拡張し、標準試料のコレクションとGIAのラボラトリー サービスの信頼性が向上します。」

GIAはダイヤモンドの原産地を判定できるか?

Shigleyは、カラーストーンの原産地判定がダイヤモンドの原産地の判定といかに異なるかについても説明しました。ダイヤモンドの場合は、一旦ダイヤモンドがカットされると、それがどこで産出されたかを判断できる明らかな特徴がなくなるため、原産地の判定はほぼ不可能となります。

「ダイヤモンド自体に基づいてダイヤモンドがどこで産出されたのかを判定することはできません」とShigleyは述べます。

しかし、特定の鉱山は、特定の大きさまたは品質のダイヤモンドに関連付けられています。例えば、南アフリカのカリナン鉱山は、過去最大のダイヤモンド原石であるカリナンなど、クラリティが高く、伝説的な大きさを誇るダイヤモンドをいくつか産出したことで有名です。オーストラリアのアーガイル鉱山は、何十年もの間、ピンク ダイヤモンドの主要な原産地とされています。

ルーペで大きなダイヤモンドを観察している様子
302.37カラットのGraff Lesedi La Rona(グラフ レセディ ラ ロナ)ダイヤモンドは、ボツワナで発見された。大きく、高品質の記録的なダイヤモンドの由来は、容易に追跡できる傾向にある。ダイヤモンド提供:Graff(グラフ)。写真提供:Donald Woodrow


Shigleyは、宝石学的および科学的な検査に基づいてダイヤモンドの地理的起源を判断することが不可能である主な理由を概説しました。
 
ダイヤモンドが形成する場所:ダイヤモンドは、地球の奥深く、条件がより均質である場所で形成されます。また、特定の場所に関連する固有の鉱物インクルージョンはありません。
 
ダイヤモンドの構造、化学、分析の課題:ダイヤモンドは炭素で構成されていますが、周期表で隣り合う窒素とホウ素がわずかに含まれていることもあります。このため、これらの原子は、ほぼ同じ大きさであるので、ダイヤモンドの構造で容易に置換することが可能となります、とShigleyは説明します。
 
「ダイヤモンドでは、非常に強くて短い共有結合によって結び付いている炭素原子が非常に密接な状態で四面体に配置されています。他の微量元素をダイヤモンドの構造に大量に入れるのは難しいことです。[微量元素がもしあるとしても、]10億分のいくつかというほど非常にわずかな量です」とShigleyは語ります。
 
さらに、ダイヤモンドの微量元素の分析には、高度な分析装置とダイヤモンド試料の一部を破壊する可能性のある方法が必要となります。スポット分析は二次イオン質量分析法(SIMS)を使用して行うことができますが、この分析には通常大学にしか置いていないような「おそらく100万ドルもする装置」が必要となり、GIAはこの装置を所有していません」と、Shigleyは述べます。

キンバーライト中のダイヤモンド原石。
ダイヤモンドを含有する南アフリカのキンバーライト。写真撮影:Robert Weldon/GIA

風化作用:ダイヤモンド鉱床のなかには二次鉱床もあり、そうした場所ではダイヤモンドはパンニング皿を使用して川や堆積物から回収されます。ダイヤモンドは、爆発的な噴火によって地表へ運ばれます。噴火によって、キンバーライトとして知られている、ダイヤモンドを含む火成岩で満たされた火山岩性パイプが形成されるのです。キンバーライトは風化が早く、ダイヤモンドは放出され、重力または水によって坂を下ります。その後、水系により下流へとおそらく何百マイルも離れた場所へ運ばれ、あるいは堆積岩の一部となります。
 
「ダイヤモンドはパイプが最初にあった場所から何キロも離れている場所へと河川によって運ばれるので、パイプがどこにあったのかさえ分かりません。もちろん、河川は多くの国を横断しています。南アフリカでは、オレンジ川が延々と大西洋までダイヤモンドを運びます」とShigleyは説明します。
 
ダイヤモンド原石の独特な表面の外観の欠如:デビアスの経験豊富なダイヤモンド ソーター(選別士)は、表面の特徴に基づいてダイヤモンドの原石がどの企業の鉱山から産出されたかを判断することができるかもしれませんが、これは正確な技術ではなく、宝石のカッティング プロセスで表面の特徴が取り除かれると石を認識することは不可能となります。
 
Shigleyは、ダイヤモンドの起源の真の問題は、原産地を判定するための基準を開発するにあたり研究するダイヤモンドをどこで入手するか、ということであるとShigleyは語ります。
 
「世界のすべての鉱山とすべての二次鉱床から産出されたダイヤモンドの代表的な試料が必要となります。それでは、代表的な試料とは何でしょうか。[それぞれの産地から]ダイヤモンドを3個選ぶのでしょうか、それとも300個が必要でしょうか?」とShigleyは疑問を投げかけます。さらに、代表的な試料を入手した後、破壊的な検査を行う必要があります。
 
「ダイヤモンドがどこから産出されたかを示すダイヤモンド原石のデータベースはなく、研磨されたダイヤモンドがどこで産出されたかについて科学的に判断できる方法はまったく知りません」とShigleyは説明します。  「試料のデータベースが存在するのであれば、ダイヤモンドの原産地を判定するための構想を開発する情報源となるでしょう」とShigleyは述べます。また、採鉱作業が計画的に行われていないことや、ダイヤモンドの偶発的な発見があることなどから、二次漂砂鉱床から産出されるダイヤモンドがあまりないことは特に問題である、と付け加えました。

起源に関する小冊子とダイヤモンド オリジン レポート。
ダイヤモンド オリジン レポートは、4Cに関する品質分析および起源の立証を宝石業界に提供する。元の原石の写真は、オンラインまたは4Cアプリで閲覧できる。

GIAが注目したのは、原石と研磨済みダイヤモンドの間にある溝を埋めることでした。GIAは、南アフリカ、ロシア、カナダ、ナミビア、レソト、オーストラリアなどの主要なダイヤモンド生産国にあるダイヤモンド鉱山会社と協力して、GIAダイヤモンド オリジン レポート プログラムを宝石業界に提供しています。
 
「このプログラムは、照合サービスのようなものです」とShigleyは語ります。GIAは、クライアントまたはプログラム参加者より、起源に関する必要な文書と共に小包に密封され提出されたダイヤモンド原石を受け取ります。GIAは、後でオリジン サービスのために提出されたカット済みの石と照合できるように、そのダイヤモンドの特徴を記録します。レポートで確認される原産地に関する情報は、鉱山から直接取得したものなのです。
 
「GIAは、そのダイヤモンドがどこから産出されたかについて(レポートに)記載し、元のダイヤモンド原石と完全に一致させることができます」とShigleyは語ります。
 
GIAは、サイズと色、寸法、宝石学の視点から行った観察、吸収分光法とルミネッセンス分光法、蛍光画像、GIAデータベース内の情報に従って、宝石を元の原石と照合します。それぞれのGIAダイヤモンド オリジン レポートには、起源に関する説明に加えて、4Cの品質分析も記載されています。
 
GIAは、これまでに約20,000件のダイヤモンド オリジン レポートを発行しています。

シニア コミュニケーション マネージャーのAmanda J. Lukeは、GIA Insider(GIAインサイダー)の編集者であり、GIAで編集者兼ライターとして19年間活躍しています。