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モンタナ州のYogo(ヨゴ)渓谷から産出されるサファイアの珍しい宝石学


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この原石とカットされたYogo(ヨゴ)産サファイアは、ブルーからヴァイオレットまたはパープルまでと広い範囲の色相を示し、ヨゴ産サファイアで観察することができる明るめから暗めの彩度の組み合わせが確認できる。ファセットカットされた最大の宝石は 1.44ctのクッションカットである。提供:Bill Vance 写真撮影:Kevin Schumacher

大西洋から太平洋まで大陸が横断しているにもかかわらず、米国は宝石の主要な産地としては知られていません。その中でも唯一の例外はサファイアですが、モンタナ産サファイアに関する物語はもっとエキゾチックな産地の陰に常に隠れてしまいます。

モンタナ州は、1890年代からブルーサファイアの重要な産地とされており、カシミール、ミャンマー、スリランカ、オーストラリアなど、世界のその他の産地で採鉱されるサファイアとは異なるユニークな宝石学的特性を持っています。GIAの研究員であるNathan D. Renfro、Aaron C. Palkeが、モンタナ鉱山局のRichard B. Bergと共にYogo(ヨゴ)渓谷地区の鉱床から産出される宝石に関して広範囲にわたる分析を行い、Gems & Gemology(宝石と宝石学)2018年夏号で結果を報告しました。

サファイアの原石およびカットされたサファイア。
Yogo(ヨゴ)産サファイアの原石が平らな板状の形をしているということは、重量1カラット以下の宝石が作られることを示している。写真撮影:Robison McMurtry

Yogo(ヨゴ)産サファイアの多くは、素敵なヴァイオレットからブルーの色で地面から発掘され、通常は熱処理されていないことが主な特徴です。(宝石質の石が処理に反応することはめったにありません。) また、通常、色が石全体に均一に広がっているため、他の産地から採鉱されるサファイアでよく見られるゾーニングがありません。残念ながら、ほとんどすべての未加工の結晶が平らな板状の形をしているため、小さな宝石のみにカットされます。したがって、この産地から1カラット以上のサファイアが採鉱されるのは非常に稀です。

宝石学における検査を詳しく行った結果、Yogo(ヨゴ)産サファイアは他にも特殊な点があることが判明しました。ほとんどのブルーサファイアには、微小で針状の「シルク」と呼ばれるルチルインクルージョンが含まれています。例えば、典型的なカシミール産サファイアの場合、顕微鏡でしか見えないほど極小のルチルが集まり、宝石にビロードのような輝きを与えるため1世紀以上にもわたって非常に貴重であるとされ、高価格が付けられています。また、このシルクは特定のサファイアではクラリティ特性に悪影響を与えることがあるため、そのクラリティとカラーを向上させるために加熱処理が施されることがあります。一方、Yogo(ヨゴ)産サファイアに針状のルチル型シルクが含まれていることはめったになく、これまでに検査した試料では1つのみで発見されただけです。

サファイアのインクルージョンの2つの画像。
ルチル結晶は、濃いブラウニッシュグリーンの細長い棒(左)のように見えたり、熱処理からではなく火成による成長環境に起因する張力による割れ目および修復した縁取りのある黒い不透明な丸い結晶(右)のように見える。顕微鏡写真:Nathan Renfro

インクルージョンは、多くの場合、宝石の起源を示す証拠となる特徴とされています。Yogo(ヨゴ)産サファイアに見られる主な特徴は、形成の過程にあるサファイアの内側に閉じ込められた他の鉱物の非常に小さな破片を囲むストレスヘイローです。ヘイロー(またはデクレピテーションヘイローとも呼ばれる)は、鉱物インクルージョンがサファイアの形成中に内部で拡大し、張力によって生じる微小のフラクチャーが発生したときに形成されました。一般的かつ特殊であるその他のインクルージョンは、負結晶つまり他の素材で充填された非常に小さな空洞の部分です。

さらに詳しい検査を行った結果、Yogo(ヨゴ)産サファイアには、他のサファイアとは異なる特定の数値のマンガン、クロム、チタン、鉄、ガリウムを持つ明確な微量元素の特徴があることが判明しました。

Yogo(ヨゴ)産サファイアおよびモンタナ州から産出される他のほとんどのサファイアは、プレミアム価格が付くほど魅力的な天然の青い色を呈しますが、サイズが小さく、鉱床での作業が複雑なため採鉱することは経済的に困難でした。

このネックレスとイヤリングのサファイアは、すべてダイヤモンドが周りにセットされている。
このセットには、36カラット以上のYogo(ヨゴ)渓谷産サファイアが飾られている。提供:Edward Boehm 写真撮影:Robert Weldon/GIA

Yogo(ヨゴ)渓谷地区で鉱床が初めて発見されたのは1895年のことであり、20世紀になる頃には年間平均40万カラットのサファイアが産出されていました。産出されたサファイアの約25%が宝石質であり、残りは時計の部品や研磨剤などの工業用途の製品となりました。English(イングリッシュ)鉱山とも呼ばれていたこの鉱山は、1929年まで運営されていました。1910年、この産地では史上最大の19カラットのサファイア原石が採鉱され、最大のものが8.5カラットある合計4つの宝石にカットされました。

この鉱山は、他のサファイアの鉱床もある長い岩脈(古い既存の岩石の上にある火山岩の地質学的形成) の中にあります。他の3つの鉱山も稼働していましたが、1920年代後半、時計の部品や研磨剤として使用する目的の合成サファイアとの競争、さらには洪水による大被害や産出量の減少が相次いで重なり、採鉱が不採算になりました。

この地域は30年近く放置されたままとなっており、投資家グループが1956年に採鉱活動の再開を試みましたが失敗に終わりました。Yogo(ヨゴ)渓谷での採鉱の復活を試みて失敗に終わったケースは何回かありましたが、1980年にHarry Bullockという鉱業エンジニアが600万ドル(約13.6億円)で採鉱事業を買収し、社名Intergem(インタージェム)の下で「ロイヤル・アメリカン・サファイア」の採鉱に注力し、大々的に販売しました。操業当初は成功を収めましたが、安価な加熱処理されたスリランカ産サファイアとの競争、積み重なる借金、採鉱費用の増加が原因で1985年に閉鎖しました。

イヤリングは花の形をしており、連なった4つのブルーとパープルのサファイアにぶら下がっている。リングはドーム型をしており、ベゼルセットのブルーとパープルのサファイアが散りばめられており、大きなブルーのサファイアがセンターストーンとしてセットされている。
Yogo(ヨゴ)渓谷での操業が再開し、この鉱床より産出されたサファイアを使用した、より現代的なジュエリーデザインが宝飾業界で見られる可能性がある。このジュエリーセットには、稀少なパープルの宝石とともに、ヨゴが有名になった理由であるブルーの素材が使われている。リングのセンターストーンの重量は1.36カラット。提供:Bill Vance 写真撮影:Kevin Schumacher

その年、探鉱者は岩脈の南西端に新しい鉱床を発見しました。彼らはこの鉱床をVortex(ボルテックス)鉱山と呼び、カットする価値がある約45,000カラットの原石が毎年産出されましたが、2004年に閉鎖しました。翌年、Mike Robertsという鉱夫がボルテックス鉱山の一部を所有し、2012年に鉱山現場事故で死亡するまで小規模の採鉱で成功を収めました。

新しい所有者は再びYogo(ヨゴ)渓谷での採鉱の再開を試みており、鉱山からサファイアを産出できるように必要な改善を行っています。

この研究プロジェクトは「数年の年月をかけて行われた」とRenfoとPalkeは述べています。この研究を行う動機となった要因の1つは、GIAのラボレポートにアメリカ合衆国(モンタナ州)と一般的に記載されている代わりに、原産地はYogo(ヨゴ)であると記載する要請があったことです。

第2の要因は「文献に見落としていた点があった」ことである、とRenfroは述べました。そして、以前に出版された文献は、一般的に(ヨゴ地域の)地質学のみに焦点を当てていましたが、素材の完全な宝石学的特徴は研究していませんでした、と続けました。

第3の要因は、「私は単にヨゴ産サファイアが好きだから」ということです。

Nathan Renfroは、2006年に地質学の学士課程を修了し、William Goldberg Diamond Corporation(William Goldbergダイヤモンド・コーポレーション)奨学金を授与され、GIAのグラジュエイトジェモロジスト(GG) プログラムに入学しました。また、2014年にはFGAを取得しました。GGプログラムの修了後、ダイヤモンドグレーダーとしてGIAのラボに勤務し、2008年に宝石鑑別部門に移動しました。それ以来、Renfroは100作以上の宝石学に関する記事を執筆または共同執筆し、米国の各地で宝石および鉱物に関する講義を行っています。宝石学で彼が専門とする分野は、インクルージョンの鑑別および顕微鏡写真法、宝石のカッティング、コランダムの欠陥化学です。Renfroは宝石鑑別部門のマネージャーであり、インクルージョン研究部門では顕微鏡技師も務めています。また、Gems & Gemology(宝石と宝石学)の連載シリーズ「ミクロの世界」では編集者も務めており、論説審査委員でもあります。

Aaron Palke博士はStanford University(スタンフォード大学)より地質学で博士号を取得した後、GIAでポスドク研究員として宝石学のキャリアを築き始めました。この期間、Palke博士は、ルビーおよびサファイアの微小なインクルージョンを研究して、これらの宝石の地質学的歴史を研究しました。現在はGIAで主任研究員として活躍しており、ルビー、サファイア、エメラルド、その他のカラーストーンのより信頼できる原産地の判断および処理の鑑別を提供するために、カラーストーンの研究を先導しています。Palke博士の詳しい経歴については、ResearchGateおよびGoogle Scholarをご覧ください。

Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。