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価値に影響を与えるために相互に作用するカラーストーンの要因


トルマリン
これらのトルマリンは、素晴らしいカラーゾーニングを最大限に活かすために、シンプルなシェイプとステップカットのファセッティングスタイルにカットされた。写真撮影:Robert Weldon/GIA

全5部の連載記事『カラー宝石(ダイヤモンド以外)の価値要因、デザイン、カットの品質』の第4部。

2016年に初版がGemGuide(ジェムガイド)で発表されたこの総合シリーズは、ファセットカットされた宝石の価値を決定する際にカットの品質が果たす役割に特に重点を置きながら、カラー宝石の価値に影響を与える品質要因を検討します。GIAの研究員およびカットの専門家、Al Gilbertsonは、カットの要素を研究し、カット職人の選択、利害得失の判断およびその理由を探求し、カラー宝石のカットの品質の様々な側面を評価するためのガイドラインを提供します。

オリジナルの連載記事のこのウェブサイト版は、5つの記事に分かれており、オリジナルの文体をわずかに編集したものです。

ファセットの配置のワイヤフレームまたは描写(図4-02など)は、宝石のカットにおけるいくつかの特徴を示すために本物の宝石をスキャンして作成されました。

この連載記事の第3部では、カラー宝石において最高の価値を生み出すためにカット職人が行う決断および利害得失における選択について説明しました。これらの選択において重量やクラリティ(透明度)を最大限にすることが重視されますが、多くの場合は、すべての価値の要因において最も重要である色を最大限に引き出すことが最も重視されます。この記事では、宝石の色および価値について引き続き詳述し、カット職人の判断をさらに探求します。

カラーゾーニング(均一な色の欠如)

サファイアの原石
図 4-01: サファイア結晶の原石におけるこれらの断面は、カット職人が考慮しなければならない典型的なカラーゾーニングを示している。写真撮影:Jonathon Muyal/GIA
価値要因のひとつであるカラーゾーニングは、宝石の内部で色が不均一な部分として定義されました。カラーゾーニングは、これらのサファイア(図4-01参照)のように、多くの場合、宝石が形成される間に生じた温度の変化や特定の微量元素が不均一に混入するために起こります。目に見えるカラーゾーニングは、あまり目立たないものからはっきり見えるものまで様々です。クラリティ(透明度)と同様に、カラーゾーニングではその場所とコントラストが重要となります。カット職人がファセットの配置を入念に計画して、カラーゾーニングが隠くれた場合、価値にはほとんど影響しません。経験豊富なカット職人は、不均一な色の部分がガードルに平行になるように配置したり、色溜まりしている部分をわずかにキューレットに配置することで、フェイスアップに対するカラーゾーニングの影響を削減します。第1部で説明したキューレットが中心から外れているネイティブカットの宝石を覚えていますか(図4-02参照)?このタイプのカットは、強い色がある箇所をキューレットに配置し、それを利用してその色がフェイスアップで観察したときに全体的に広がっているように見せます。その色がある箇所は中心から外れているので、カット職人は均等にその効果を分布させるために、その色の箇所を利用できるようにキューレットを中心から外しました。キューレットが中心になるようにリカットすると、その色がある箇所が取り除かれてしまい、最終的に仕上がった宝石の色は、はるかに弱くなってしまいます。

ファセットの配置
図 4-02: ネイティブカットの宝石は、フェイスアップで観察したときに色が宝石全体に広がるように見えるキューレットで強い色の部分があるのを特徴とする。イラスト: Al Gilbertson/GIA

サファイアはカラーゾーニングがあることでよく知られており、カット職人に問題をもたらすことがよくあります(図4-03参照)。オーストラリアやタイで産出された数多くのグリーンサファイアを拡大して検査すると、緑色は実際に青と黄色のカラーゾーニングが作用して生じていることが判明します。これらのサファイアの中には、肉眼で観察できる興味深い青緑色のカラーゾーニングを示しているものがいくつかあり、安価な多色のサファイア(ブルーとオレンジ、グリーンとブルーなどの異なる色を示す)は、いくつかの市場ではよく売れていました。

サファイア
図 4-03: サファイアのカラーゾーニングは、カット職人に多くの問題をもたらす。写真撮影:Jonathon Muyal/GIA

多くの天然の宝石が、天然であるということの証しであるカラーゾーニングをある程度示すことを念頭に置くのが重要です。独特なカラーゾーニングがあるという原因で貴重とされる宝石がいくつかあります。アメトリン(図4-04参照)およびいくつかのマルチカラーのトルマリン(図4-05参照)は、両方ともはっきりとしたカラーゾーニングを示しています。アメトリンは同じ結晶中でアメシスト(紫水晶)とシトリン(黄水晶)を組み合わせ、カラーゾーニングが、結晶内の鉄の酸化状態が異なるため生じます。これは、形成中に結晶全体で起きる温度差が原因であると考えられています。興味深いパターンのあるコントラストを生み出すカラーゾーニングがある宝石は、ブレンドされた色のある宝石とは対照的に、市場で需要がより高くなります。このような場合は、カラーゾーニングを敢えてフェイスアップで示します。

アメトリンの上部と側面図
図 4-04: デザイナーカットは、このアメトリンで見られるようにコントラストの面白い模様を作ることでカラーゾーニングを引き立てる。カット:Dalan Hargrave 写真撮影:Orasa Weldon、© GIA
トルマリン
図 4-05: これらのトルマリンは、素晴らしいカラーゾーニングを最大限に活かすために、シンプルなシェイプとステップカットのファセッティングスタイルにカットされた。写真撮影:Robert Weldon/GIA

複屈折

互いが直角に偏光する2つの異なる光線に光を分割する宝石は複屈折性と呼ばれています(例えば、トルマリン、ペリドット、タンザナイトなど)。単屈折性の宝石は、光を別々の光線に分割しません(スピネル、オパール、琥珀、ダイヤモンドなど) 。複屈折性の宝石では、それらの光線の各々に異なった屈折率があります。その2つの光線のRIの値の違いは複屈折量と呼ばれ、これは測定値でもあります。べリル (アクアマリン)、コランダム (サファイアとルビー)、またはトルマリンのような宝石は、複屈折性であるものの複屈折量が低い宝石の一例です。RIの差が大きい宝石(ジルコンなど)は簡単に見分けることができ、ファセットの端が、10倍の倍率で二重に見えます。ぼやけて見えるファセットの端は、より高い複屈折量(0.10以上)に関連しています。

複屈折性の宝石には2つのタイプがあります。一軸性の宝石では、単屈折性(その方向に入る光が2つの光線に分かれない)のように作動する光軸と呼ばれる方向があります。二軸性の宝石には光軸として作動する2つの方向があり、カット職人は、これを考慮する必要があります。原則として、複屈折性の宝石のテーブルは、その光軸に対して正確に直角にカットする必要があります。しかし、これには明らかに例外があるため、さらに理解を深めるためには、多色性に関するRichard Hughesの記事を読むことをお勧めします。ガーネットやスピネルなど単屈折性の宝石は、カットする際にどの方向でもカットすることができます。

多色性

光が2つの光線に分かれると(複屈折性)、これらの2つの光線が異なる色として現れたり、同じ色でも2つの色合いや度合いが強くなって見られることがあります。スペクトルの異なる部分は異なる方向で吸収されるため、色において明らかな違いが生じます。強い多色性を示す宝石の例としては、アンダリュサイト (紅柱石)、コランダム、スポジュメン(リチア輝石)、トルマリン、タンザナイトなどがあります。ここでは、カット職人は、その宝石をフェイスアップで見たときに最高の色が現れるようにカットするよう、細心の注意を払う必要があります。色が弱かったり、あまり好ましくないと潜在的な価値が下がってしまいます。

このサファイア結晶の断面(図4-06参照)は、一般的なカラーゾーニングと光軸を示しています。光軸に対して直角で見られる色の強度および色相は異なることがよくある。これは特にサファイア、アクアマリン、トルマリンに当てはまります。その他の場合では、フェイスアップの位置でタンザナイトのような色を混ぜると魅力的になります。このタンザナイトの塊は、表面が光軸に垂直になるようにカットされ(図4-07参照)、それぞれの表面が異なる色を示します。タンザナイトをカットする場合、色が混ざるときに異なる色がブレンドして1つの色として見れるよう、フェイスアップの外観が改善するように原石を配置することがあります。

サファイアの結晶
図 4-06: サファイアや他の宝石でよく見られるように、カラーゾーニングが光軸に沿ってどのように配置されているかがこのイラストで示されている。光軸に対して直角で見られる色の強度および色相は異なることがよくある。イラスト: Al Gilbertson/GIA
タンザナイト
図 4-07: このタンザナイトの塊は、表面が光軸に垂直になるようにカットされた。それぞれの表面 (上、右、左) では異なる色が観察できる。立方体をしたこの石は小さいため、色がよく飽和されていない。大きな立方体では、色がより飽和している。タンザナイト。カット:Nathan Renfro、写真撮影:Jonathon Muyal/GIA

カット職人による利害得失の判断: カット職人は、歩留めと最高の色のどちらを重視すべきか、というジレンマによく直面します。色が弱かったり、好ましくない色の大きい宝石を原石からカットするよりも、その原石をある方向にカットすれば最高の色を引き出すことができますが、小さな宝石がいくつか作れるだけかもしれません。仕上がった宝石に予測される最終的な重量と推定販売価格は、どの方向でカットすればカット職人にとって最も収益性が高くなるかという判断に影響を与えます。

グリーントルマリンには、カット職人が「閉じたC軸」と呼ぶものが時々あります。これは、光軸がその1つの方向で宝石に入ってくるすべての光を吸収し、その結果として黒い不透明な方向となることを意味します。この場合、カット職人は光軸に対して直角にカットする必要がありますが、それでも暗さが宝石内に戻って反映されてしまいます。図4-08の2つのトルマリンでは、左側の閉じたC軸と右側の開いたC軸を比較しています。閉じたC軸 (左側) の影響を削減するために、ほとんどのカット職人は、黒い先端が宝石のフェイスアップの位置で反映されないように、C軸に沿って端のファセットを角度が非常に急になるようにカットします(図4-08ではこれが行われていないため、両端が黒くなっている)。

カット職人による利害得失の判断: 閉じたC軸で作業をする場合、ステップカットスタイルにするか、両端を急な角度でカットするかのどちらかに限定されます。原石が珍しい形をしている場合、カット職人がこれらの吸収する暗い部分を導入する必要があり、色があまり好ましくなる可能性があります。

トルマリン
図 4-08: 左のトルマリンは、閉じたC軸があるため、両端が黒くなっている。光は閉じたC軸を通過しない。右のトルマリンのC軸は開いているため、端が宝石の他の部分と同じ豊かな色を示している。写真撮影:Robert Weldon/GIA

テーブルファセットと平行であるC軸を持ち、丸みを帯びた形にカットされる多色性が強い宝石は、このトルマリンのように青緑色と黄緑色として見える多色性の「ボウタイ」を示します(図4-09参照)。

カット職人による利害得失の判断: カット職人は、多色性の色が魅力的になるか、それとも仕上がった宝石の潜在的な価値を損なうかどうかを決定する必要があります。いくつかの宝石においては、その判断は簡単です。タンザナイトでは、カット職人は2つの反対の色を一緒に組み合わせますが、トルマリンの場合は2つの異なる色を組み合わせると宝石の魅力が減ってしまいます。

トルマリン
図 4-09: このトルマリンは、多色性の青緑および黄緑の「ボウタイ」を示している。カット職人がテーブルファセットに平行にC軸を持つラウンドシェイプをカットした結果、このパターンが生じた。写真撮影:Robert Weldon/GIA

宝石のサイズ

カット職人による利害得失の判断: 色が均一である原石からは、サイズとプロポーションが多種多様になるにつれて、色の強度が異なる宝石を作ることができます。たとえば、薄い色の原石からカットされた宝石は、色の飽和を十分に生み出すことができる特定のサイズに達すると魅力的であると見なされます。原石が非常に淡い色である場合、カット職人は、わずかに色が付いてよくカットされた宝石をいくつもカットするよりも、深みのある色を持つ1つの大きな宝石をカットする計画を立てるでしょう。

図4-10には、色が非常に均一になっている素材からカットされた4つの宝石があります(場所に限りがあるため宝石の半分のみを表示)。最も大きい2つの宝石は暗すぎます(左)。3番目の宝石は色の飽和が良好であり、最後の宝石は色が薄すぎます。最高の色の範囲を達成するためには、この大きな原石は、3番目の宝石(7.5mm)のようにおそらく6〜12mmの範囲でカットする必要があります。

4つの宝石
図 4-11: このイラストの7.5mmの宝石は最高の色の飽和を示している。6〜12mmの範囲でカットすることで、大きい原石から最高の色の幅を達成できることを表している。イラスト: Al Gilbertson/GIA

まとめ

フェイスアップの色は、多色性の影響を削減できる方向や一般的なカラーゾーニングの方向など、さまざまな点に左右されます。また、宝石には適切な量の色の飽和がなくてはいけません。宝石のサイズが大きくなると、色の飽和が増加しますが、この両方とも原石の特徴に依存しています。

美しさは見る人の目によって決まるというのは確かにその通りですが、宝石は何百年もの間私達の目を魅了するためにファセットカットされてきました。その間、多くのスタイルが視覚的に魅力的でなくなったため無くなりました。このセクションでは、宝石の加工を魅力的にするもの(またはしないもの)に焦点を置いて説明してきました。私たちは鮮やかな色や 視覚的に興味深いパターンを見たいと思っています。「十分に良い」宝石で妥協する代わりに、購入することを検討している宝石が、色を向上させるるためにカットされたか、より鮮やかに見せるためにカットされたか、そして最終的に視覚的に興味深いパターンを作るためにカットされたか、ご自身に尋ねてみてはいかがでしょうか。宝石は人が感動する要因を持っていなくてはいけないのです。

このシリーズは、すべての価値要因で最も重要である「色」に対するカット職人の気配りに焦点を当ててきました。しかし、カット職人は芸術性と細部へのこだわりを介して宝石に付加価値をもたらします。宝石のファセットの配列および研磨、そして職人技におけるその他の分野を、次回および最後の記事で紹介します。

Al Gilbertsonは、カールスバッドにあるGemological Institute of Americaのラボのカット研究部門でプロジェクトマネージャーを務めています。GIAに入社する前は、American Gem Society(アメリカ宝石学会、AGS)のカットタスクフォースで、カットグレーディングのASET技術の基礎としてAGSが取得した特許を開発するなど、多大な貢献をしました。GIAには2000年に入社し、ラウンドブリリアントダイヤモンドのためのGIAカットグレーディングシステムを開発した研究チームの一員となりました。また、Gilbertsonは『American Cut—The First 100 Years(アメリカのカット — 最初の100年)』の著者でもあります。

この記事をレビューしていただき、貴重なご意見をいただいたWayne Emery(The Gemcutter)、Brooke Goedert( 研究データスペシャリスト/GIAカールスバッド)、Josh Hall(副社長/Pala International, Inc.)、Dalan Hargrave(Gemstarz)、Richard Hughes(Lotus Gemology)、Stephen Kotlowski(Uniquely K Custom Gems)、Andy Lucas(コンテンツ戦略およびフィールドジェモロジィ教育部門マネージャー/GIAカールスバッド)、Nathan Renfro(鑑別部門分析マネージャー/GIAカールスバッド)に、深くお礼を申し上げます。

この連載記事の第1部および第2部は、GemGuide(ジェムガイド)の2016年1月/2月 第35巻1号、第3部および第4部は、2016年3月/4月 第35巻2号、第5部は、2016年5月/6月 第35巻3号に掲載されました。記事では主題に「ファセットカットされた」という用語は使用されていませんが、この連載記事の主な要点は、ファセットカットされた宝石です。
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