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ブックレビュー:「The Guy Ladrière Collection of Gems and Rings(宝石とリングのGuy Ladrière コレクション)」


「The Guy Ladrière Collection of Gems and Rings(Guy Ladrière 宝石とリングのコレクション)」表紙
Diana Scarisbrick、Claudia Wagner、John Boardman共著。320頁、ハードカバー、イラスト入。 Philip Watson Publishers(Philip Watson出版)。2016年、$65.00。

パリ生まれのアートディーラーでありコレクターであるGuy Ladrière が収集したアンティークの指輪、彫刻が施された宝石、カメオなどの世界級コレクションを集めた、初となるカタログ本です。 約300点ほど集められた作品の中からカメオとインタリオ(沈み彫り)に焦点をあて、憧れの珍しい宝石の豪華なカラー写真も掲載しています。 3人の共同著者たちは、それぞれの分野で高く評価されている権威者です。 Diana Scarisbrick は、「Finger Rings: Ancient to Modern(指輪:古代から現代へ)(2006年)」、「Rings: Miniature Monuments to Love, Power and Devotion(リング:愛とパワーと忠誠へのミニュチュアモニュメント)(2014年)」を含む数多くの本の著者であり、有名なジュエリー歴史家でもあります。 Claudia Wagner は、オックスフォード大学のビーズリー・アーカイブのシニア研究員で、本書の3人目の著者でもあるSir John Boardman と共に「The Marlborough Gems (マールボロ公の宝石)(2009年)」を執筆しました。 Boardman は、オックスフォード大学の古典考古学と芸術の名誉リンカーン教授で、 「Greek Gems and Finger Rings(ギリシャの宝石と指輪)(2001年)」、「The World of Ancient Art(古代芸術の世界)(2006年)」、「Greek Art(ギリシャ芸術)(2012年)」、その他多くの書籍の著者でもあります。

Scarisbrick の序文では、Guy Ladrière の世界と彫刻された石に対する彼の情熱を読者に垣間見せてくれます。 巨匠の名作絵画や彫刻を扱うこのパリのディーラーが、ルーブル美術館で研究をしていくうちに彫刻された宝石に魅了されていく過程を解説してくれます。 古代のインタリオとカメオに対する小さな好奇心は、やがて知識の渇望へと変わっていきました。 彼はフランス、オーストリア、英国、イタリアで美術館のコレクションについて研究しました。 Ladrièreは、どの時代に作成されたかに関わらず芸術形式には収集価値があることに気づき、様々な時代における小さな彫刻を長年にわたって手に入れてきました。 ローマのリング、中世のインタリオ、ルネサンスのカメオ、18世紀のブローチなど、Ladrière がこれまでに収集したさまざまなタイプの上質な歴史的宝石のカタログとなっています。

第一章では、「In The Round(ラウンドの中)」というタイトルで、完全な三次元彫刻として彫られた石に焦点が当てられています。 1世紀後半から19世紀にかけての10個の石がこの章の中に出てきます。 この章の最初の石には、神話の女王オンファレのようにヘラクレスのライオンの皮の付いた王冠姿のエリザベス1世が絶妙に彫られています。 エリザベスは政治的目的のために彼女自身の寓話的肖像画を奨励し、ヘラクレスのライオンの皮は悪魔と戦うパワーを表しています。 この作品は赤と薄紫色をしたアゲートに彫られており、16世紀後半のものとされています。 鱗の鎧(よろい)または胸当てを着けた古典的な男性の胸像(おそらくローマ皇帝ドミティアヌス)は、トルコ石に複雑な部分まで細かく彫られています。 1世紀後半のものとされているこの小さな彫刻は、大きさこそミニチュアではあるものの、鎧かぶとを身につけたローマ皇帝の大きな大理石の胸像にも匹敵します。 長い髪とひげ、頭にはモディウス(頭飾り)をのせたジュピター・セラピスの18世紀のクロムカルセドニー製の胸像、医学と科学の父であるヒポクラテスの1820年ごろのクリソプレーズの胸像など、古典的なテーマは他の小さな彫刻でもよく見られます。 16世紀後半から17世紀にかけてのグロテスクな3つの頭が刻まれた珍しいサードニックスは、美しい詳細写真が掲載されています。 それは後に、ゴールドとアメシストの蛇スタイルのヒンジおよびペンダントリングと一緒に取り付けられました。 大きな鼻とふっくらとした唇がそれぞれの顔に各々の特徴を与えています。 本文によれば、このような石はもともと短剣の柄にはめ込まれていました。

「カメオ」は一番大きな章となっており、私(本書評家)が見たコレクションの中でも最も美しいカメオで満たされています。 サードニックス、カーネリアン、トルコ石などの様々な石に彫刻が施されています。 ブローチやピン、あるいはゴールドのリングにセットされたものなどがあります。一塊のレッドアンバーから作成されたリングから彫られた物もあります。 カメオの大半は横顔の像で、ハイレリーフ作品もいくつかあり、斜めの角度からのものも少数あります。 「The Head of a Youth(若者の頭)」と呼ばれている18世紀後半から19世紀にかけての作品は、完全な横顔の像ではなく独特なものとなっています。 見ている人から少し離れている方向に、頭を向けています。構図の中心に彼のハイレリーフの耳があり、伝統的なポーズに独特なひねりが見られます。 黄色と白のオニキスの中にある「アモンの角」を持つアレキサンダー大王の肖像画は、4つのトルマリンと共にブローチに取り付けられています。 イエローオニキスに彫られた金の髪のこの作品は優雅で古典的なスタイルです。 このセクションの中には、1世紀ローマからビクトリア朝時代に至るまでの11個ものメデューサのカメオがあります。 蛇と身もだえする髪の人気の古典的なモチーフであるメデューサは、レッドカーネリアン、アゲート、トルコ石、明るいブルーのカルセドニーで表現されています。

枠にはカメオと同様に美しいものが使われています。 黄色と赤のサードニックスのルイ13世の胸像は、真珠、ダイヤモンド、エナメルのパルメット(葉模様)の板絵である17世紀の額に入れられています。 反対側のページには、金のピンでとめられた金とダイヤモンドの王冠を持つアフリカ人のハイリリーフのサードニックスが掲載されています。 エメラルド、真珠、ダイヤモンドが施された精巧なエナメルデザインのルネサンス・リバイバルペンダントは、人物・動物像のカメオのセクションに掲載されています。 このサードニックスのカメオは、岩に座る鷲に姿を変えたユピテルとガニュメデスの様子です。 最後の章は、1577年にポルトガルの宮廷に到着した有名なサイ「Marvel of Lisbon(リスボンの驚異)」を描いた、16世紀の魅力的なサイを含む動物のカメオです。

インタリオの章では、カメオで連想する隆起した凸状の彫刻とは異なるその凹面彫刻に焦点を当てています。 インタリオの大部分は、シグネットリングまたは印鑑となっています。 文書の所有者または創作者の印づけのためにこれらの宝石は封蝋(ふうろう)部に押され、個人的な文書に何世紀にもわたって使われました。 本書では、枠にセットされたインタリオの宝石写真だけではなく、封蝋部の押印も白黒写真で掲載されています。 これにより読者は、彫られた宝石を見るだけでは分かりにくいデザインの詳細を見ることもできるでしょう。 ルビーに彫られたローマ人の頭部のインタリオ・リングは1世紀のもので、月桂冠をかぶる男性の横顔が描写されています。コレクションに最初にインスピレーションを与えたものに似ています。

Ladrière コレクションのリングの種類は、広範囲にわたります。 「Rings(リング)」の章は、ギリシャやローマのリングから始まり、メロビング、ロンバルディア、ビザンチン作品などの中世へと移ります。 彫刻された金のシグネットリングやインタリオストーンは、それらが作られた時代や文化の証です。 初期の西洋リングの歴史のすべてが、ひとつのコレクションに収められているのです。

「Christian Subject(キリスト教の題材)」の章に、コレクションの中で最も美しい作品のひとつがあります。 1530年から40年ごろのローマで作られたロッククリスタルの飾り額には、ローマの柱に縛りつけられたキリストのむち打ちが描写されています。 飾り額は、驚くほど詳細に、そして典型的な古典ルネサンス様式の遠近法でエッチングされます。 描写されている建築と全ての人物は古典的な理想のプロポーションで、この時代の絵画に見られるような明らかな線形遠近法で作られた奥行きがあります。 時代を超えて生じたひびやかけにも関わらず、それは未だに彫刻芸術の傑作です。  

本書は、美術史家、宝石愛好家、または美しく刻まれた宝石に情熱を持っている人の書庫に加えるべき素晴らしい1冊となるでしょう。 

Timothy Adamsは、ロシア宮廷の宝石商であるCarl Fabergé(カール・ファベルジェ)作品専門の独立した美術史家です。 彼は、カルフォルニア州オレンジカウンティにあるBowers (バウアーズ)博物館で、装飾芸術のキュレーターコンサルタントをしています。