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珍しい真珠


図1: 372.46カラットの真珠の3つの画像。前面(左)、裏側(中央)、片側の底部(右)。
図1: 372.46カラットの真珠の3つの画像。前面(左)、裏側(中央)、片側の底部(右)。

はじめに

GIAのような真珠の鑑別サービスを提供するラボラトリーには、鑑別手順およびこれらの手順の結果に基づく最終的な結論に関しては「一般的」と判断される真珠がよく提出されます。しかし、このウェブサイトにアップロードされている以前の文書(Sturman、2009年)に記載されている2つの真珠や図1に示すような真珠(この記事で説明されるアイテム)のように、特別な関心が寄せられる真珠が提出されることがあります。

GIAがその真珠を検査できるか確認するため、そしてこのような大きな真珠を検査する費用に関して情報を得るために、クライアントは、真珠を提出する前に電子メールで真珠の画像をGIAに送信しました。送信された画像を評価したとき、これは興味深い研究になることが明らかに分かりました。それは、この真珠が大きいだけでなく、ある部分で真珠の表面を改良するために既に「何か」が行われているように見えたためです。図1で見られるように真珠が撮影された3つの方向のうち2つでこれが明らかに確認できます。また、クライアントは、標準的な「真珠鑑別レポート」で提供される一般的な情報に加えて、真珠の光沢、表面の状態および連相(該当する場合に記載されるが、この場合は明らかに該当しない)を詳しく記述するGIAの「分類レポート」のスケールの下で真珠を検査する場合の費用の見積もりも要求していました。このため、GIAにとって貴重なクライアントの皆様にサービスを提供するクライアントサービス担当者(CSR)は、この場合、GIAのポリシーを説明する必要があると判断しました。それは、「真珠分類レポート」は、ほとんどの真珠に最近行われるようである、わずかまたは平均的なポリッシング(研磨)を除き、処理されていない真珠に対してのみ発行されるためです。つまり、この真珠に関しては大きな疑いがあるため、GIAの仮説が正しい場合、この特定の真珠に対して「分類レポート」は発行できず、「真珠鑑別」レポートのみが発行されることになります。したがって、CSRスタッフは、分析の過程で処理が検出されなかった場合のみ「分類レポート」が発行されることをクライアントに通知しました。この新しい情報をしばらく検討した後、鑑別スタッフは、この真珠には処理が全く施されておらず完全に天然のものなので問題はないという旨をクライアントより告げられました。GIAは、クライアントが正しいことを望みました。

真珠

クライアントが指摘したように、真珠は非常に大きいものでした。重量は372.46カラット(74.50グラム)あり、寸法は58.21x32.70x20.97mmでした。しかし、この真珠を手にした途端、何かが「正常でない」という重大なことがすぐに感じられました。そのサイズにしてはあまりにも重く、「適切」であるとは感じなかったのです。また、真珠を正面からひっくり返し、裏を検査すると、さらに疑わしくなりました。全く異なる素材のように見える非常に奇妙な黄色の部分がすぐに見えました(図1)。このため検査結果にはあまり期待ができませんでした。

この真珠のように通常はバロック真珠である大きなルースの真珠を長年にわたって扱った経験から、真珠の鑑別に関与する宝石鑑別士は、これらの真珠はよく空洞があり、ほとんどの場合は天然のブリスターパール(貝殻部に癒着して形成された後、除去される)であると判断します。また、このような真珠の多くは、過去に様々な素材で充填されていることがこれらの経験より確認されています(Scarratt、1984年、Scarratt、1986年)。したがって、この真珠の過剰な重量とサイズを考慮に入れ、X線顕微法を使用すれば、内部の空洞内に何らかの充填を観察することが可能となり、真珠の表面の開口部は証拠を隠すために黄色の素材で覆われていると予測しました。この黄色い素材は、白い真珠に必ずしも一致する色ではないため、奇妙に見えました。しかし、時が経つにつれて、より現実的でよく合うオリジナルの色から現在の色に変化してしまった可能性があります。

X線顕微法 – 分析結果

真珠の検査を行う技術者が真珠の内部構造を明らかにする立場にいるときはいつでも、何が見えるかに関して常に期待が膨らみます。フィルムが開発されるまで、またはGIAの場合は、画像がGIAのFaxitron(ファクシトロン社)製CS-100ACリアルタイムX線システムのコンピュータモニターに表示されるまで、実際には誰もわかりません。また、提出される通常の真珠とは「異なる」と知られている真珠がその内部の秘密を明らかにするとき、この期待はさらに高まります。この真珠の場合はまさにその通りであり、推測に終わりを告げるときがきました。

モニターに画像が表示されたときに最初に判明したのは、大きい空洞内にある大きな不透明の(金属または原子数の高い元素で構成されるもの)物体です(図2)。予測していたことは確認されましたが、これで検査が完了したわけではありませんでした。内部の状態を詳しく示す画像が必要であったため、図1に示されているように真珠は様々な方向で検査され、真珠とその充填剤の全体を三次元で撮影することになりました。これらの画像は分析において重要な鍵となりました。

図2:真珠の大きな内部空洞内の不透明(白い領域)メタリック構造。
図2:真珠の大きな内部空洞内の不透明(白い領域)メタリック構造。

3方向からの検査が重要であっただけでなく、真珠が非常に大きいので、検査機器の最小視野の範囲を超えたため、図2に示すように真珠の一部しか一度に検査できませんでした。ほとんどの真珠ははるかに小さく、構造をよりはっきりと観察するために拡大する必要があるので、この特殊なX線機器ではめったにこのようなことは起こりません。それにもかかわらず、後ほど見られるように、このような大きな真珠においても、倍率を上げて観察することは有用であったことが証明されました。

2枚の別々の画像を組み合わせることで、真珠の全体の内部構造の合成写真を再現することができます(図3)。

図3:1番目の方向における検査済み「中空」真珠の複合顕微鏡写真。
図3:1番目の方向における検査済み「中空」真珠の複合顕微鏡写真。

組み合わせた画像(図3)は、大きな空洞内にある非常に不規則な金属片と思われるものを示しています。しかし、これは本当でしょうか?このような大きな金属片は真珠にどのようにして挿入されたのでしょうか?したがって、少なくとも2つの新しい方向から真珠を観察して、実際に内部がどのようになっているのかを検査する必要がありました。次の方向で真珠を検査すると、奇妙な形の金属片が実際には2つの金属片であり、1つはより均一な輪郭を持ち、もう1つは奇妙な形の輪郭を持っていることが判明しました(図4)。しかし、その輪郭は最初に考えていた印象ほど不規則ではありませんでした。金属製の充填剤に加えて、別の不透明な外観(おそらく貝殻の断片)を持つ一連の「細長い一片」が2つの金属の物体の間に見られ、空洞内で動かないように小さな金属片を支えて固定しているようです。

図4:真珠を2番目の方向に動かした後に観察した最初の画像。2つの不透明な(白い)金属製の充填が確認された。
図4:真珠を2番目の方向に動かした後に観察した最初の画像。2つの不透明な(白い)金属製の充填が確認された。

2つの異なるX線顕微法の画像による別の合成写真は、この側面での方向の真珠の内部を示しています(図5)。大きな金属片の不規則な形状はこの方向でも明確に確認され、特にこの金属片を真珠に挿入するには、真珠の表面の開口部または穴はかなり大きくする必要があったことを示しています。このため、次のステップは、表面の開口部が存在していた部分の証拠を発見することでした。したがって、空洞の内面にある壁を検査して、割れ目が検出できるかどうか確認することになりました。これは想像するほど実際には簡単ではありませんでしたが、高倍率で真珠の周りの壁を詳しく検査すると、真珠の表面にある黄色い物質の位置と驚くほど互いに関連している部分が見つかりました。この部分は、図5に示すように、小さいほうの金属片をその位置に保っている細長い物質のすぐ下、そして大きいほうの金属片の右側にありました。この部分を拡大して観察すると、内側の空洞の壁に割れ目があることが発見されました(図6)。

図5:2番目の方向で観察された内部構造をX線顕微法で撮影した画像の合成写真。
図5:2番目の方向で観察された内部構造をX線顕微法で撮影した画像の合成写真。
図6:真珠の内部にある空洞への開口部を隠すために使用される素材の断片(おそらく貝殻)。
図6:真珠の内部にある空洞への開口部を隠すために使用される素材の断片(おそらく貝殻)。

コントラストを変えてFOVを広げることで、画像をさらに改善し、その部分をより詳しく表示することが可能になりました(図7)。実際、同じ画像からは、この部分における真珠の表面をコーティングする素材が、表面を覆っており、内部の空洞への開口部を塞ぐのに使用された貝殻の断片と思われるものと真珠の表面との間の隙間を充填していることが明らかに確認できます。

図7:「キャップ(蓋)」及び付随するコーティングに関連する領域をクローズアップで撮影した画像。
図7:「キャップ(蓋)」及び付随するコーティングに関連する領域をクローズアップで撮影した画像。

最後に、X線顕微法での検査では、真珠は3つ目の方向(縦方向)に移動され、再び検査されました。真珠はFOV内に収まるようになったため、この方向で一度に真珠全体が見えるようになりました(図8)。金属の充填剤が1つとして見えるような(そうではないと既に証明済み)視覚的に騙されやすい外観を見るのは興味深かったことです。これは、真珠を異なる方向に移動し、一方向だけに頼るべきでないということが重要であるのを示しています。この唯一の例外としては、明らかなビーズ核が真珠で発見された場合が考えられますが、それでも少なくとも2つの方向でそのような真珠を検査した方が最適です。

図8:真珠全体およびその内部構造は、X線顕微法で3番目の方向にて確認された。
図8:真珠全体およびその内部構造は、X線顕微法で3番目の方向にて確認された。

最後の方向では、詰まったまたは覆われた空洞の入り口と証拠を隠すために使用された素材を別の見方で確認できました(図9)。

図9:3番目の方向で確認されたコーティングで覆われた部分の別の画像(右はその拡大)。
図9:3番目の方向で確認されたコーティングで覆われた部分の別の画像(右はその拡大)。

コーティング

X線顕微法による検査の他に、ルースの個別の真珠はすべて最低もう1つ以上の標準的な分析手順を受けます。したがって、この真珠は、その後、Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)によって製造されたGIAのARL QUANT'Xエネルギー分散形蛍光X線(EDXRF)分光計の試料室に設置され、真珠層の表面が分析されました。その結果、この真珠は海水真珠であることが判明しました。しかし、この真珠のある部分をコーティングする黄色い素材の成分は不明であったため、これが次に分析されました。その結果、硫黄が主要な微量元素であり、リンもわずかに微量元素として含まれており、チタンと鉄が成分に発見されました。次に、GIAのRenishaw(レニショー社)製 inViaラマン顕微鏡の514nmレーザーを黄色の素材の表面に当て、この物質を特定するために証明できるさらなるデータを得るために分析しました。GIAとRUFFのデータベースによる最も近い照合結果によると、この素材はエポキシ系接着剤のAraldite(アラルダイト)でした。

コーティングの性質を決定する最後のステップは、短波長と長波長の紫外線に真珠をさらした後、宝石顕微鏡でこの素材を観察することでした。これら2つのステップの1つ目は、真珠がコーティングとは異なって反応したことを示しました。紫外線の2つの波長に対する反応は強度が異なったものの、真珠が白っぽい蛍光を示し、コーティングが黄色の蛍光を示し、全体的には類似したものとなりました。顕微鏡で観察した結果、その組成物は、反射粒子を含む黄色がかった配色を有する透明から半透明の物質で構成されることが判明しました(図10)。また、コーティングは、真珠の表面の他の部分と同様にポリッシングにさらされていたようにも見えました。

図10:顕微鏡で利用可能な最小7.5倍の倍率設定で表示中の全コーティング。
図10:顕微鏡で利用可能な最小7.5倍の倍率設定で表示中の全コーティング。

さらに検査をした結果、コーティング素材の内部には多数の気泡が閉じ込められていることが直ちに発見され(図11)、コーティングの近くの表面に近い部分に強い光ファイバーの光線を当てると、開口部に関連する境界のぼんやりとした輪郭が確認されました。

図11:充填剤が挿入された真珠の開口部を隠すために使用されたコーティングに見られる気泡。85倍率。
図11:充填剤が挿入された真珠の開口部を隠すために使用されたコーティングに見られる気泡。85倍率。

コーティングは、アラルダイトに不明の粒子を混ぜたもののように思えますが、コーティングに関して得られたすべての情報を再び考察した結果、決定的な結論につながりました。

結論

本レポートに報告されているように、この真珠に関するすべての分析を行った後、真珠を特定する最終的な結論に至り、分析結果を記述するためにレポートに使用する文言を判断するのみとなりました。同意するべき最も重要で最初の事実は、真珠の本当の起源でした。これは天然真珠、有核養殖真珠、無核養殖真珠のどれでしょうか?それとも判断が不可能だったのでしょうか?判断が不可能な場合は、真珠の内部が非常に変造されており(例えば、他の装飾を挿入するために構造に過剰なドリル穿孔を行った場合)、そのため構造のほとんどが取り除かれた状態などです。この真珠の場合は、これは該当しないようです。空洞が大きく、真珠が空洞の形状に沿ってできており、これらは経験から天然真珠に関連する特徴とされているため(Kennedy、1998年)、無核養殖真珠であるというオプションも除外されました。これで天然真珠か有核養殖真珠かのいずれかとなりました。大きな空洞からビーズ核が取り除かれ、その後に真珠が充填された可能性があることを真剣に検討した結果、この考えには反対しました。それは、これほど大きい真珠が、母貝の生殖腺に形成されてから真珠に必要とされる長い年月の間に発見されなかったという可能性は非常に低く、養殖真珠であれば、ブリスター種である可能性はさらに少ないためです。GIAが確認している大きな有核養殖真珠の中でこの試料のサイズに近いものは1つのみです(不明、2008年)。したがって、この真珠は天然中空真珠として形成され、その母貝に癒着し、最終的にその中で異物で充填処理され、その後この充填処理の証拠を隠すためにコーティングされたことがほぼ確実であると判断されました。

したがって、この特別な真珠に関するレポートでは、鑑別の欄に「天然の「中空」ブリスターパール」、処理の欄には「充填済、部分的にコーティング済、処理済、研磨済」と記載されました。また、コメント欄には「異物で充填」および「重量は充填剤により多大な影響あり」と記載されました。

Kennedy, S. J.(1998年)Pearl identification(真珠の鑑別)。Australian Gemmologist(オーストラリアンジェモロジスト)。 20. 1. 2-19
Scarratt, K.(1984年)Notes from the Laboratory: A filled pearl(ラボラトリーからの報告:充填された真珠)。Journal of Gemmology(ジャーナル オブ ジェモロジー)。 19. 2. 113-114
Scarratt, K.(1986年)Notes from the Laboratory: Filled pearls(ラボラトリーからの報告:充填された真珠)。Journal of Gemmology(ジャーナル オブ ジェモロジー)。 20. 2. Sturman, N.(2009年)Pearls with Unpleasant Odors(不快な臭いを持つ真珠)。http://www.giathai.net/pdf/Pearls_with_unpleasant_odours.pdf. 2009年3月30日
著者不明。 (2008年)Largest Cultured Pearl and Largest Natural Blister Pearl(最大の養殖真珠および最大の天然ブリスターパール)。Myanmar Pearl Enterprise(ミャンマーパールエンタープライズ)。