フィールドレポート

モンタナ州ロッククリーク産サファイア:採鉱の新時代が始まる


手に持ったサファイア
新しいロッククリークサファイア鉱山で産出した、美しいファセットカットされたサファイアとサファイア原石。 写真:Andrew Lucas/GIA

 はじめに

モンタナ州で見つかったすべてのサファイア鉱床のうち、最も豊かな鉱床はロッククリーク(ジェムマウンテン)地区にあります。 1890年代から1930年代の間に、65トンを超えるサファイアの原石がこの地域から回収され、1930年代後半に合成サファイアが導入されるまで、スイスの時計製造業界に継続的に供給していました。

この地域で豊富なサファイアを含有するこの土地は、120年ぶりに単一の事業体によって所有されることとなりました。 モンタナ州におけるサファ​​イア採掘の新時代の幕開けに立ち会い、このオペレーションを完全に理解するため、GIAチームは、8月上旬に新しいロッククリークサファイア鉱山を訪問しました。 

サファイアの採鉱
GIAは、Potentate Mining LLCが所有、運営する、新しく設立されたロッククリークのサファイア鉱山へチームを派遣しました。
丘の上に集まったグループ
訪問客とロッククリークサファイア鉱山のホスト。 左から右へ:Andrew Lucas、Warren Boyd、Robert Kane、Keith Barron、Shane McClure、Nathan Renfro、Tao Hsu、Kevin Schumacher。 写真提供:Potentate Mining LLC

歴史的概要

サファイアはもともと、モンタナ州の多くのサファイア鉱床と同様にロッククリーク地域でも、1800年代後半における金の探査中に発見されました。当時、金の採鉱はこの地域でたいへん人気がありました。 時計製造業界からの需要に勢いを得て、サファイアの採鉱が頂点に達して以来、地元のサファイア採鉱はフィリップスバーグのサファイアを主に扱うジュエリー会社や有料でサファイアを探し求める人々を大いに支えてきました。  

Gem Mountain Sapphire Mine(ジェム・マウンテン・サファイア鉱山)の地図
ロッククリーク地域にはモンタナ州でのサファイア採鉱の豊かな伝統があり、新たな商業的オペレーションも現在進行中です。

現在の鉱山所有者であるPotentate Miningは、2011年にジェムマウンテンの北側に位置するユーレカガルチの土地を購入し、2014年には南側の土地の購入も完了しました。 現在同社は、この歴史的に重要な採鉱地区で、サファイアを産出する土地のうち約3,000エーカーを所有しています。 

牧草地内の小屋
ロッククリーク地域ギャラリー

地質学と採鉱オペレーション

ジェムマウンテン地域のサファイア鉱床は、すべて二次鉱床です。 多くの原石が河床から回収されてはいますが、それは泥流に含まれているものです。 泥流とは、短期間の大量の降雨に起因する、急激な物質移動プロセスです。 強力で速い浸食は常に泥流を伴います。泥流の堆積物は、シルト(沈泥)、巨礫、有機素材、その他の岩くずが分かれずに混ざり合っています。 ユーレカガルチのサファイアと金の鉱床は、風化スレートまたは中原生代のベルトスーパーグループに属する千枚岩の岩盤の上にある、分かれずに混ざり合った泥流を明らかに示しています。 サファイア地区の大部分は、始新世の流紋岩溶岩流および関連する火山岩(Berg、2014年)に支えられています。

露頭のサファイア含有層を指し示している男性
ユーレカガルチ地質学ギャラリー

多くのロックリーク産サファイアの原石の表面が白くなり、刻まれているのは、それらが火山噴火時のマグマのキャリアによってもたらされたゼノクリスト(外来結晶)であることを示しています。 露頭は、鉱山から約3マイル(5キロ)離れた場所で見つかり、アルカリ玄武岩であることが化学的に判明したため、Potentateの社長であるDr. Keith Barronはこれがキャリアであった可能性があると見ています。 地上磁気探知機による調査の結果も、地表下に苦鉄質火成岩がある可能性を示しています。 すべての観測と試験の結果から、Dr. Barronは敷地内にサファイアがまだ豊富にあることを確信しています。 かつての鉱山労働者は、水圧で採掘しなければならなかったため、主にガルチで作業をしました。低地ほど容易に十分な水圧を得られたからです。 ガリー(小峡谷)やガルチを探す代わりに、Potentateはガルチと丘の頂部の間の地域を試験的に採掘し、生産の見込みを見極めました。 

岩石の露頭
この玄武岩露頭は、ユーレカガルチの採掘現場から約3マイル(5キロ)離れています。
Dr. Keith Barronは、これがこの地域のサファイアの原岩である可能性があると見ている。 写真:
Andrew Lucas/GIA
グループにサファイアを含む岩石を見せる男性
近隣のヘレナで採鉱されたサファイアを含む岩石の一片を、Dr. Keith Barronがグループに見せている。 写真:Nathan Renfro/ GIA

Potentateは現在、所有地内の2つの場所、ジェムマウンテンの北側にあるユーレカガルチと南側のサファイアガルチで採鉱しています。 サファイアガルチでのバルクサンプリングが2014年に完了しました。 ユーレカガルチはサファイアよりも金が豊富で、現在、平均して立方ヤードあたりUS$88に相当する金を産出しています。 サファイアはこの場所で、副産物として散発的に回収されます。 2014年には約22ポンド(10キロ)のサファイアの原石を産出しました。 

森の中のログキャビン
ユーレカガルチのオペレーションギャラリー

歴史的に、この地域の多くのガルチで採鉱が行われてきました。 私たちのチームは、サファイアガルチにある、1904年頃に採鉱が行われていた豊かな鉱床を訪ねました。 オールドキャビンと大きな岩の山を、この渓谷に沿ってくっきりと見ることができます。 サファイアガルチの採掘現場は丘の上にあり、このことも、サファイアがこの地域の泥流で運ばれているという鉱山所有者の説を証明しています。 ダブルデッキスクリーニングプラントは、この場所に設置されています。 素材はスクリーニングが行われ、3つの山に分けられます。 目標とする素材の粒子サイズは、1/8インチ~1インチ(0.3175cm~2.54cm)です。 1インチを超える小石は廃棄物となりますが、1/8インチ未満の素材は、市場が存在する場合、後の処理のために保存されます。

掘削機
サファイアガルチのオペレーションギャラリー

洗鉱工場はユーレカガルチにあります。 サファイアガルチとユーレカガルチの両方から採掘された素材がここで処理されます。 二組のジグと流し樋の箱が、サファイアと金のために設置されています。 サファイアガルチで出る素材は一定量の粘土が含まれているため、洗鉱工場では一時間あたり約15~20立方ヤードしか処理することができません。 一方ユーレカガルチでは、毎時約50~60立方ヤードの素材を洗浄することができます。 

洗浄プラント
ユーレカガルチ洗鉱工場ギャラリー

大きめのジグは、深めのジグベッドでサファイアを回収するよう設計されていますが、金はタンクに落として小さめのジグで回収されます。 最後に、細かな金の一部をジグで回収できていない場合のため、素材を流し樋の箱に通します。 GIAチームはジグの洗浄プロセスに参加し、鉱山労働者と共にまずまずの量のサファイアの原石を手で選別しました。 試料もラボ用に採取しました。

ジグからサンプルを回収する男性
ジグ洗浄ギャラリー

地下水は、プラントでの洗浄のために使用され、沈殿池を介してリサイクルされます。 水は、池に流入した後、洗浄用に再びポンプで汲み上げるまで少なくとも4時間寝かせて沈殿させます。 この間洗鉱工場は、通常完全に作業を停止します。 池の底は、泥を収集して採鉱された土地の復元に使用するため、定期的に清掃されます。 

指先に乗った一片の金
ゴールドパンニングギャラリー

環境に優しい採鉱

新しいロッククリーク鉱山への訪問中、私たちは、所有者が土地と環境を保護する社会的責任を真剣に受け止めているという印象を受けました。 採鉱後、土地を池の底に蓄積した細かな素材で覆い、地元の植物や草の種を播布します。 スプリンクラーは、新しく復元された土地に水をまくために一日数時間稼働します。 Dr. Barronは、数週間すると復元された土地に草が生えはじめ、冬になればヘラジカが草をはむ、と私たちに語りました。 工場の廃棄物は、道路舗装用に郡に販売されています。

復元された土地で稼働するスプリンクラー
採鉱後、土地は廃棄素材で復元される。 現地の植物の種子を埋め、土壌に水をたっぷりとまく。 次の冬には、この復元された土地に生えた草が野生動物を養うだろう。 写真:Andrew Lucas/GIA

同様の方法が両方の採掘現場で採用されており、採掘、洗浄のプロセス全体を通し、化学薬品は一切使用されていません。

新しい採鉱クレーム(鉱区)で見つかったサファイアの原石は、2mmから1インチのサイズに及びます。 回収された最大の石が約30ctです。 原石は非常に典型的なマグマ性の再吸収面の特徴を持ち、丸くなっています。 サファイアガルチで産出するものの約13~15%が天然の色で、約8~12%が天然のファンシーカラーです。 

サファイアの原石
ロッククリーク産サファイア原石ギャラリー

1980年代後半から1990年代初頭にかけて熱処理法が完成したことにより、EmmettとDouthitが開発した加熱方法に石が非常によく反応するため、ロッククリークサファイアにはより多くの可能性が生まれました。 現場で、GIAチームは、あらゆる色のファセットカットされたサファイアを見ました。 

サファイア原石とファセットカットされた石
ロッククリーク産サファイアギャラリー

新生産および開発

2015年の採鉱シーズンは、上質のサファイア原石の生産と販売により好調でした。 石工はPotentate Miningの重要なクライアントです。 一部の石工は、Potentateのサファイアの原石を美しいファセットカット石に変えます。 Earth's Treasury(アース・トレジャリー)のJeffrey Hapemanは、モンタナ州の州都にちなんだ「Helena Oval (ヘレナオーバル)」のようないくつかの特別なカットスタイルを適用し、Potentateから購入したロッククリーク産サファイアにファセットカットを施しました。 こうした石の多くは、特徴的なパステルファンシーカラーのものです。 Americut Gems(アメリカット・ジェムズ)のRachel Abelは、Potentateが採掘したサファイヤに、精密切削加工や熱処理を施しています。 Rachelはロボットによるカッティングシステムを使用し、2.5mm~4.5mmの範囲のサイズのロッククリーク産サファイアに正確なファセットカットを施します。 モディファイド・ラウンドブリリアントカットに仕上がり、かつ、一部のダイヤモンドに見られる「ハート・アンド・アロー」効果を呈するよう、石にファセットカットを施します。

あらゆる色のファセットカットされたサファイア
新生産ギャラリー

新しい採鉱シーズンがロッククリークで始まったばかりです。 Potentate Miningによれば、約7キロのサファイアの原石がこれまでに生産され、20ctを超える石もいくつか 回収されたということです。 鉱山と洗鉱工場では、さらにアップグレードが行われています。

マーケティングと長期的な目標

Potentateのマーケティングディレクター、Warren Boyd氏によれば、ロッククリーク鉱山では、選ばれたクライアントのグループにのみサファイアの原石を販売するということです。 生産物の多様性により、ジュエリー小売業者から大量生産の業者まで、この鉱山では様々なレベルのクライアントへの供給を保証できます。  2.5mm~6.0mmの範囲の小さな石は精密な石工に最適で、一方、より特殊な石工に適した1カラット以上の石もたくさんあります。 

サファイアを持つ男性
Dr. Keith Barronは、ロッククリークサファイア鉱山の将来について非常に確信を持っている。 ここで
彼は鉱山で採れた最良の石の一部をGIAチームに見せている。 写真:Andrew Lucas/GIA

このロッククリークサファイア鉱山の重要なポイントには、その責任ある調達と一定した供給に加え、アメリカ産であるという事実が含まれます。 土地と採掘施設を完全に一社で所有していることは、Potentateが他の多くの生産者よりも有利な点です。 Dr. Barronは、Potentateが米国最大のカラーストーンのサプライヤーになり、世界のサファイア市場の一定のシェアを獲得することを望んでいる、と私たちに語りました。 サファイアガルチでのサンプリングおよびユーレカガルチでの活発な採鉱がともに非常に有望な結果を生み、同社は2016年が再び好調な採鉱シーズンとなることを待ち望んでいます。 

 

Dr. Tao Hsuは、Gems & Gemology(宝石と宝石学)の技術編集者です。 Andrew Lucasは教育のためのフィールド宝石学を担当するマネージャーで、Shane McClureはカラーストーンサービスのグローバルディレクターです。Nathan Renfroは宝石鑑別部門のアナリティカルマネージャー兼内包物研究部門の分析顕微鏡使用者、Kevin Schumacherは、GIAカールスバッドのデジタルリソーススペシャリストです。

著者らは、Potentate MiningのDr. Keith BarronとWarren Boyd氏に対し、私たちの訪問を手配してくださったことにつき感謝いたします。

Berg, Richard B. (2014) Sapphires in the southwestern part of the Rock Creek sapphire district(ロッククリークサファイア地区南西部のサファイア)。 モンタナ州グラニット郡:モンタナ州鉱山・地質局、会報135。