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ゴールドのごとく輝きを放つモ ザンビーク産ルビー


GIAのフィールド ジェモロジィ部門で主任を務めるWim Vertriest。2020年1月30日、GIAゲスト講義シリーズの一環として『A Decade of Mozambican Rubies(モザンビーク産ルビーの10年)』と題する講義を行った。ビデオ再生時間: 1時間21分10秒

GIAのフィールド ジェモロジィ部門で主任を務めるWim Vertriestが先日カールスバッドのGIAで行った講義『A Decade of Mozambican Rubies(モザンビーク産ルビーの10年)』では、印象的なものがありました。宝石の起源に関して消費者が非常に慎重深くなり始めたのは、ほんのここ15年ほどのことです。サファイアであればカシミールというように、伝説的な産地から石が採鉱された場合を除き、起源はこれまでほとんど無視されていました。

しかし、Vertriestが行った講義は、あまり知られていない新しい産地であるモザンビークのルビーに関して詳しく説明し、採鉱の歴史、特徴、市場の需要に焦点を当てました。GIAの「バイキング」とも呼ばれるジェモロジスト Vertriestによる情報を織り交ぜながらの講義はゴールドのように素晴らしい内容となりました。

7つのルビー。
これらのルビー(1.07~4.62カラット)はモザンビーク北部で採鉱された。写真撮影:Robert Weldon/GIA。提供: Tommy Wu、Shire Trading Ltd.(シャイアー トレーディング株式会社)、香港。

モザンビーク産ルビーの発見

10年前には聞いたこともなかったようなモザンビーク産ルビーは、2008年に発見されて以来、世界各地の市場で最も一般的なルビーとなりました。現在、モザンビーク産ルビーは主要な見本市で販売されているルビーのかなりの部分を占めています。

小さな採掘現場の周りで作業する大勢の鉱山労働者。
モンテプエズ周辺の茂みの中で採鉱している探鉱者、ガリンペイロたち。写真撮影:Vincent Pardieu/GIA

発見から現在までのタイムライン

2008年 ‒ 初めて確認されたルビーは、ライオンやゾウなどの野生動物のための保護区、Niassa Reserve(ニアッサ国立保護区)で発見されます。しかし、この地域が保護区であるからという理由で、採掘職人がこの地に足を踏み入れないということはありません。2009年の夏、水源が枯渇したため、採掘職人は退去せざるを得なくなり、採鉱は事実上終了します。

2009年 ‒ Montepuez(モンテプエズ)の町の近くの高速道路の隣でルビーが発見されます。何万人もの採掘職人が現場に集まります。1年と経たないうちに、世界中のトレーダーがこの鉱山の近くの町でルビーを取得し始めます。石はバンコクのようなカットおよび取引の中心地に持ち込まれ、モンテプエズはタイのルビー取引におけるルビーの主要な原産地となります。

2014年 ‒モンテプエズ周辺で多数の鉱業権を所有するMwiriti Limitada(ムウィリティ リミタダ)は、天然資源会社Gemfields(ジェムフィールズ)と提携し、MRMを創設します。政府が承認したプロセスに従い、ルビーが初めて輸出されます。

2020年 ‒10年足らずの間に、ルビーの採鉱は、採掘職人がすべて手作業で行っていたものから大部分が機械化されます。しかし、いくつかの企業がモザンビークで大規模なルビー採掘事業を設立しているにもかかわらず、依然として数多くの採掘職人が残っています。
 

積み重ねられたルビーの原石とコインの比較。
通常、Maninge Nice(マニンゲ ナイス)タイプのルビー(これらは最大17mm)は、深みのあるレッドをしており、強い蛍光を示すが、平坦でインクルージョンが多く含まれていることもある。写真撮影:Vincent Pardieu/GIA

モザンビーク産ルビーの品質

モザンビークからは、Maninge Nice(マニンゲ ナイス、タイ語でBor Daeng )とMugloto(ムグロト、タイ語でBor Som)の主に2つのタイプのルビーが産出されます。これらの用語の名称は、モンテプエズ地域で最も生産性の高い鉱山の名前に由来します。

マニンゲ ナイスのルビーは、鮮やかな色、強力な彩度と強い蛍光を有します。しかし、形が平坦で、フラクチャーが非常に多い傾向があるため、カットすると小さなルビーになります。フラクチャーがある場合、外観と耐久性を向上させるためにフラックス修復で処理されます。このプロセスでは、フラクチャーを修復するホウ砂で石を加熱します。

ムグロトのルビーはマニンゲ ナイスのルビーよりも分厚い形をしていて、フラクチャーが少なめです。しかし、色調は暗く、蛍光が弱い傾向にあります。ムグロトのルビーは、青いオーバートーンを取り除き、生き生きとした色を与えるために、加熱処理を必要とすることがあります。低温によるこの加熱処理を検出することは困難であり、多くの場合、高度な機器が必要となります。

ルビーに含まれる楕円形の鉱物インクルージョン。
角閃石はモザンビーク産ルビーによく見られる鉱物インクルージョンである、とVertriestは講義中に説明した。顕微鏡写真:視野 1.32mm。写真撮影:Jonathan Muyal/GIA。

モザンビークのGIA

Vertriestは、アフリカ、アジア、ヨーロッパで研究試料を収集しながら、GIAと共にフィールドで何年も経験を積み重ねた結果、ルビーに関する専門知識を習得しました。宝石を産出される現場の近くで購入することは、GIAが研究する石が実際にその産地から採鉱されたものであることの紛れもない証明となります。Vertriestは、「行かなければ分からない」と述べます。

最も信頼できる試料は、ジェモロジストによって直接採鉱された試料であるタイプAです。「鉱山に行って、岩石を砕くと、10カラットのルビーが出てきます」とVertriestは述べます。

その他のタイプは、ジェモロジストが収集する方法によって分類されています。

  • タイプB ‒採鉱されるのをジェモロジストが目撃した試料
  • タイプC ‒鉱山現場の採掘職人から購入した試料
  • タイプD ‒鉱山現場以外の採掘職人から購入した試料
  • タイプE ‒鉱山に近い二次的な調達者(採掘職人以外)から購入した試料
  • タイプF ‒国際市場で二次的な調達者から購入した試料

GIAが収集する試料のほとんどはタイプ D または E であり、可能な場合はタイプ A、B、および C も使用されます。これらの宝石に関する研究は、GIAのカラーストーン鑑別及び原産地レポートをサポートしています。

 

 

採掘現場で宝石を含む砂利を選別する2人の男性。
2018年12月にミャンマーのモゴックで宝石を含む砂利を選別するGIAの上級研究科学者Aaron Palke(左)とVertriest。写真撮影:Kevin Schumacher/GIA

フィールド ジェモロジストになる方法

Vertriestは、地球深部ダイナミクスおよび地殻流体を主に研究し、地質学の修士号を取得しました。また、GIAよりグラジュエイト ジェモロジスト®(Graduate Gemologist®)で、Gemmological Association of Great Britain(英国宝石学協会)より宝石学でそれぞれディプロマを取得しています。

しかし、どの学位が最も役に立つのかと学生に尋ねられると、Vertriestは「常識が一番役に立つ」と答えました。

「フィールド ジェモロジィは、いきなり飛び込む業界ではありません。むしろ、ジェモロジストが、色々な場所を訪問し、適切な質問を尋ねて、研究チームと共に、または宝石のグレーダーとして働いて成長する業界なのです。フィールドジェモロジストはGIAの研究部門の一部であるため、地質学、化学、または物理学の高度な学位も必要となります」とVertriestは説明します。

Vertriestが使用するツールは、ルーペ(不可欠であると彼は言います)と宝石検査用トーチですが、懐中電灯や携帯電話のライトでも代用できる可能性はあると認めています。しっかりと役に立つ光源を使用すると、石の品質を判断するのに役立ちます。

「取引者は、ピンクの傘の下でルビーを、そして青い屋根の下でサファイアをよく販売しています。これらの条件は石の外観をまさしく向上させ、石の見栄えが実際よりも良くなるのです。トーチ(または懐中電灯)を持っていると、薄暗い場所や外が暗いときに宝石を検査するのにも役立ちます」とVertriestは述べます。

GIAで働いている理由を尋ねられると、GIAのおかげで多くの機会が与えられるから、とVertriestは答えます。ルビーや他の宝石を研究するために、大規模な鉱山や採掘職人が作業している鉱山の現場だけでなく、宝石の取引所も訪れることがGIAのおかげで可能となるのです。

「挨拶をするとき、『こんにちは、Wimです』という代わりに『こんにちは、GIAです』と言えますよね。GIAの名前がなかったら、訪問できる場所は半分になるでしょう」とVertriestは語ります。

GIAには信じられないほど数多くのリソースがあります、と彼は述べます。GIAのラボと研究部門には、この分野で最も偉大な研究員がおり、その時の最も差し迫った宝石に関するいくつかの問題を研究しています。他の分野では、フィールド研究員は外部の分析サービスに依存しなくてはならず、データを数ヶ月も待たなければなりません。しかし、GIAには独自の分析部門があるため、Vertriestが午前中に複雑な分析を依頼すると、昼食後には結果を受け取ることができます。

GIAで働きながら宝石業界を渡り歩くのは興奮するほど楽しいのですが、個人的に進んでいくとなると「信じられないほどのギャンブル」になる可能性があります、とVertriestは述べます。

GIAのシニアライターであるPhoebe Shangは、グラジュエイト ジェモロジスト®(Graduate Gemologist®)です。