展覧会レビュー:メトロポリタン美術館での「JARによる宝飾品」


JAR チューリップのブローチ
メトロポリタン美術館で行われた「JARによる宝飾品」に展示された2008年作のこのチューリップのブローチは、ルビー、ダイヤモンド、ピンクサファイア、ガーネット、シルバー、ゴールド、エナメルでできている。 写真:Jozsef Tari、提供:JAR、仏・パリ。
2013年11月20日以来、ニューヨーク市のメトロポリタン美術館は、この美術館初の現存している現代のジュエラーに捧げる「JARによる宝飾品」 回顧展を開催しています。 宝石業界ではJARとして知られているブロンクス出身の Joel Arthur Rosenthal(ジョエル・アーサー・ローゼンタール)は、外部の世界とのやりとりに関して非常にこだわりを持っていることで知られています。  彼は雑誌の撮影のために自分のデザインを貸し出したり、レッドカーペットに姿を現したりしません。 それにもかかわらず、彼のジュエリーは、競売で最も引っ張りだこの1つで、頻繁に数百万ドルの入札で売られます。 Jane Adlinによって精選された395点が展示されているJARの回顧展は、美術館の一階の近現代美術ギャラリー内のHelen and Milton A. Kimmelman Galleryにあります。近現代美術ギャラリーには、マティスやクレー、ピカソなどの絵画も展示されています。

この宝飾品コレクションの構成は、JARの作品だけを独占的に取り扱っているという点で、それ自体が稀少なイベントです。 訪問者は、現実的な実物大の、マルチカラーの作品たちの連携を楽しむことができます。 JARは、花のテーマ(図 2)を好み、その展示数は百点を超えています。 動物のモチーフははるかに少なく、50点を少し上回るだけです。 主要な宝石は、ダイヤモンド、サファイア、ルビー、真珠です。 スファレライトやアレキサンドライトなどのいくつかの稀少な宝石も展示されています。 またJARは、マイクロモザイク、アンティークカメオ、18世紀のミニチュア、甲虫の羽の​​ような素材を自分のデザインで再利用しています。 青や紫など、珍しい金属の色の表現を可能にするチタンの枠を使うことによって、彼はジュエリー業界の革新者になりました。

JAR チューリップブローチ
図 2。 左:2001年作。ダイヤモンド、ライラックサファイア、ガーネット、アルミニウム、シルバー、ゴールドによって、このライラックのブローチが創作されている。 右:JARはダイヤモンド、アルミニウム、シルバー、ゴールドを使用して、このゼラニウムのブローチ(2007作)を作成した。 両品とも、個人のコレクションからのもの。 写真:Jozsef Tari、提供:JAR、仏・パリ。
展示および関連販売イベントは、世界クラスの文化施設であるメトロポリタン美術館が商業スペースとして機能しているという非難があり、いくつかの論争をかもし出しています。 また、JARの回顧展は、エリート好みの高価な作品を賛美するものとして非難されています。

しかしながらこれらの作品の稀少性を考えると、この回顧展はそれ自体が宝飾品愛好家にとって注目すべきイベントです。 ジェモロジストは、巧みなパヴェ·セットの作品でJARが使用している宝石の優れた品質を賞賛するでしょう。 選択された作品におけるルビー、ダイヤモンド、サファイア、天然真珠の素晴らしさは、特に印象的です( 図 3)。 これらの作品の目を引く品質は、JARの短い経歴以外に表記を用いない展示自体の演出の無さを十分に補っています。 レイアウトに系統だったテーマはありません。 目利きの人はさまざまなテーマを識別することができるかもしれませんが、一般大衆は、私が訪問中に目撃したように、花や動物の作品の多様性に圧倒されてしまいます。 簡潔なオブジェクトリストを掲載している簡単な小冊子は、宝石の寸法やカラット重量に関する情報を欠いているものの、歓迎される記念の品です。 この情報不足は展覧会カタログによっても解決されておらず、この回顧展の総展示作品数395点のうち70点しか取り上げられていません。

JAR チューリップブローチ
図 3。 左:ダイヤモンド、シルバー、プラチナを特徴としたこのJARのブレスレットは、2010年に作成された。 右:椿のブローチも2010年に作成され、そのデザインにルビー、ピンクサファイア、ダイヤモンド、シルバー、ゴールドを使用している。 両品とも、個人のコレクションからのもの。 写真:Jozsef Tari、提供:JAR、仏・パリ。
展覧会の経路は円状で、長い楕円形の部屋を右回りに歩きます。 最初のコレクションは50点の花の作品で、主にブローチで構成されています。ルビーとダイヤモンドのパーロットチューリップのブローチは、特に魅力的です。 次に続くグループは、より抽象的で装飾的なパターンでデザインされた60組のイヤリングで構成されています(図 4)。 2番目の壁には、抽象的な作品、箱、彫刻、腕時計、時計など珍しい作品のグループが展示されています。 これらの作品のいくつかに見られるハイパーリアリズム、独創性、および高精度は、JARの幅広いインスピレーションを示しています。  このウィンドウに展示されている作品のいくつかは、この厳粛な環境に驚きとユーモアの予想外の要素を引き出してくれます。 レタスの葉と18世紀のモイクロモザイクのウサギのブローチ(鎖により結合)は、アスパラガスのブローチと共に、注目に値します。

JAR 蝶のブローチ
図 4。 左:JARのカラフルなハンカチのイヤリング(2011年作)は、サファイア、ガーネット、ジルコン、トルマリン、エメラルド、ルビー、ファイアーオパール、スピネル、ベリル、ダイヤモンド、プラチナ、シルバー、ゴールドを組み合わせたもの。 右:このカメオと薔薇のはなびらのブローチも2011年の作品で、そのデザインにはルビー、ダイヤモンド、シルバー、ゴールドが組み込まれている。 両品とも、個人のコレクションからのもの。 写真:Jozsef Tari、提供:JAR、仏・パリ。
また訪問者は、14個の四角いウィンドウケースのそれぞれに、両側に1点または2点を展示した作品を楽しむことができます。 このグループの最も象徴的な宝石の1つは、アゲート、ダイヤモンド、サファイア、シルバー、ゴールドで構成されたシマウマのブローチです(図 5)。また、天然真珠、サファイア、いぶし銀とゴールドで作られた羊の頭のブローチも興味をそそられる作品です。 展覧会は40点の花や植物の作品で埋め尽くされた長方形のウィンドウケースに続きます。 展示は、20点の蝶のブローチで飾られたパネルで優雅に終了します。

JAR チューリップブローチ
図 5。 左:JARによるこのケシのブローチ(1982年作)は、ダイヤモンド、トルマリン、ゴールドで構成されている。 右:1987年の作品である象徴的なゼブラのブローチは、アゲート、ダイヤモンド、サファイア、シルバー、ゴールドから作成されている。 両品とも、個人のコレクションからのもの。 写真:Katharina Faerber、提供:JAR、仏・パリ。
一般の来場者は、空間演出と説明の不足に気をとられて彼の芸術性と職人技を見逃すかもしれませんが、「JARによる宝飾品」は、これらの稀少で多要素の傑作をさらに熟知したいと思っている宝飾品マニアにとっては必見です​​。

Delphine Leblancはニューヨーク市にある Tiffany & Co.(ティファニー社)の鑑定専門家です。