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ブックレビュー:Real or Fake? Moldavites(本物それとも偽物?モルダバイト)


Real or Fake? Moldavites(本物それとも偽物?モルダバイト)の表紙
František Funda著、ソフトカバー、92ページ、イラスト入り、 powerprint s.r.o.(パワープリントs.r.o.)出版、プラハ、2015年。

モルダバイトとは、巨大隕石の衝突によって生じた強度の熱と圧力で地上の珪素が溶解するときに生成される衝撃ガラスです。 ファセットカットされたモルダバイトを鑑別するのは非常に簡単です。 流理構造や数多くの気泡の他に、SiO2の高温型であり、屈折率が低いため容易に観察できる線状またはらせん状のルシャトリエライトがモルダバイトに含まれています。 しかし、カットされていない素材を鑑別するのは非常に困難なため、この課題に関して新たな情報が得られるであろうとこの本に期待していました。

著者のFrantišek Fundaは、『Real or Fake? Moldavites(本物それとも偽物?モルダバイト)』の中でモルダバイトに関する数多くの話題を読者に理解しやすく説明します。 この本は、モルダバイトの宝石学特性およびカット石と原石モルダバイトについて解説します。 さらに、チェコ共和国のベシェットニッチェ鉱床(美しい原石の生産地として有名)で産出されるモルダバイト、天然のモルダバイトから作られたハンドメイドの彫刻、摩耗したり壊れたモルダバイト、ジュエリーとなったモルダバイトなども紹介します。 また、世界中にある宝石学の研究室のリストおよび他の著者が発表した分析結果に基づくモルダバイトの化学組成に関する付録もあります。

原文がチェコ語で執筆された本書は、英語を母国語としない翻訳者によって翻訳されました。 そのため本書では、内部構造に関する部分で脈理に当たる語に、ドイツ語のschlieren(シュリーレン)という用語が使用されています。

表面が天然のように見えるモルダバイトを鑑別するのは比較的に困難であるため、原石に関する章は非常に参考になります。 天然のモルダバイトの表面で見られる特徴は、自然の侵食により生成されたものであり、著者はこの過程の証拠となる鋭い隆起などを紹介します。 天然のモルダバイトのその他の特徴として、針状のルシャトリエライトおよび溝や開いたままの気泡などの不規則な形状が表面で観察できたり、モルダバイトが発見された堆積物から産出された粘土層または含鉄砂岩の残基が含まれていることが挙げられます。 ベシェットニッチェ産のモルダバイトが他の地域から産出されたものと特に異なる点は、鋭い突起部があるということです。このため、このようなモルダバイトにはハリネズミという非常に滑稽なあだ名が付けられました。

ある章ではその全部のページを割いて、モルダバイトの宝石学的特性およびその特性が天然の試料を鑑定するのにどのように利用されるかについて説明します。 Fundaは、この物質の屈折率と相対密度が人工ガラスと部分的に一致すると述べています。 天然のモルダバイトは、長波及び短波の紫外線に対して不活性の蛍光反応を示しますが、模造石のなかには短波紫外線に対して白濁色の蛍光を示すものがあります。

本書にはカラー画像が掲載されていますが、残念ながら試料のサイズに関する情報が写真に記述されていません。 この書籍は、素人および専門家の両者にとって、本物のモルダバイトを模造石から区別する方法を教えてくれる究極のガイドであると宣伝されています。 しかし、これには賛成できません。それは、次回出版される本『Facts about Moldavites(モルダバイトに関する事実)』でモルダバイトの不均一性や内部構造について読者が詳細を理解するよう勧めているからです。 著者はこの主題について熱心に説明していますが、この本のタイトルで多く期待していたほどの情報は得られませんでした。

Guy Lalous氏は、アントワープのAcademy for Mineralogy (ACAM:鉱物学アカデミー)およびブリュッセルのSociété Royale Belge de Gemmologie (SRBG:ソシエテ・ロイヤル・ベルジ・ド・ジェモロジー)でシニア宝石学講師を務めています。 また、欧州教育連盟で宝石学における審査委員会(FEEG)のメンバーでもあります。