2016年は高級時計メーカー各社が控えめなデザインを志向


イエロー、グリーン、ブルー、紫、ピンクのサファイアがグラデーション調に敷き詰められ、時計とバンドの部分に虹のような外観をもたらしている。
ショパールのレインボーインペリアーレ Joaillerie ウォッチ。581のサファイアがグラデーション調に並び、デザイン性と芸術的技巧が融合する。今日の高級時計市場では、派手すぎない控えめなデザインが人気。 写真提供:ショパール

世界の高級品市場は、欧米諸国で変化する消費者態度、そしてアジアや中東の新しい経済的現実に対応する中で、志向に変化がみられます。 超高級時計業界では、前年度以前人気であった「ダイヤモンドが大量にあしらわれた」ものよりも、ユニークで思い出に残るようなデザインが売れるようになっており、その傾向が他のどの業界よりも顕著に見られます。

今日の市場では、需要の急激な減少を巻き返そうと、高級時計ブランド各社が戦いに挑んでいます。 販売高は年間を通じて確実に下落しており、4月には2015年の同期比で売上個数で8%、売上高で9.6%減少しました。  

予想通り、貴金属や宝石の腕時計では最大の下落が見られ、売上高および売上個数ともに14%以上減少しました。 一時は最も有望な市場とされた中国への輸出量も36%以上低下し、売上高に関しては17%減少しました。 日本での需要は5.8%減少し、ヨーロッパでは2桁の下落が見られました。 唯一の成長市場は米国でしたが、わずか1.2%増でした。

これらの動向の要因として、以下のような点が考えられますが、これらは他の高級製品生産者が自社の製品やマーケティングを再考している理由と同じと言えます。

  • 中国の経済成長が鈍化している。販売高10%の下落を経験している小売業者もある。
  • 商品や石油価格の低下により、中東のバイヤーの購買力が低減している。
  • 米ドルの高騰により、ロシアとインドの消費者の購買意欲が低下している。
  • 非常に裕福な米国の消費者ですら何を買うかについての見方が厳しくなっており、裕福さの誇示のためだけに消費しないようになっている。
この時計は、ダイヤモンドがあしらわれた三日月形の文字盤とホワイトアリゲーターレザーストラップが特徴。 Mouawad(モワード)の La Bijou Devine ウォッチシリーズ。約2カラットのカラーレス ラウンドブリリアントカットダイヤモンドを、三日月形のローズゴールドの文字盤に埋め込んだデザイン。数年前に人気があった派手な趣向ではなく、スタイルと上品さが強調されている。 写真提供:モワード

Alain Mouawad は「今日では、人々の慎重さが増しています。」と言います。Mouawad 氏の会社は伝統的に、高品質のダイヤモンドを20カラット以上散りばめた時計を展開していました。 同社の最新作のジュエリー時計には高級志向の La Bijou Devine コレクションがあり、ダイヤモンドが約2カラット使われています。

有名ブランド各社の新作がお目見えするバーゼルワールド2016の高級腕時計パビリオンを巡ると、2、3年前の展示よりはるかに控えめな腕時計が並んでいました。

パヴェセットブルーサファイアで覆われた時計の蝶の羽を開くと、秘密の文字盤が現れる。 ストラップ部は青いサテン生地。 バーゼルワールドで、グラフ社はプリンセスバタフライウォッチを公開した。梨型のブルーサファイア25カラットがあしらわれ、無色のダイヤモンドバゲットで飾られている。 ダイヤモンドの一つを押すと、文字盤が現れるようになっている。 写真提供:グラフ社

例として、グラフ社は過去にはダイヤモンド、それも数多くのダイヤモンドばかりをあしらった作品に重点を置いていましたが、25カラットの梨型サファイアを羽の部分に、小さめのバケットカットダイヤモンドを文字盤の周囲にセットした「プリンセスバタフライ」ウォッチを公開しました。

ショパールは従来は、ダイヤモンドをあしらった世界で最も高価な時計を製作するメーカーでしたが、製作開発部門のディレクター Guy Bove は、同社の顧客は「数多くの宝石を使うのではなく、個性的なデザイン」を望むようになっていると言います。

ダイヤモンドで囲まれた正方形または丸い文字盤の真珠の基底を、ラウンドブリリアントダイヤモンドが動くデザインになっているのが特徴。 ブラックファブリックストラップ。 ショパールは、同社が40年以上前に初回製造したハッピーダイヤモンドウォッチコレクションを復活させた。 この時計は、5ミリメートルのカラーレス ラウンドブリリアントダイヤモンド4〜14個(モデルによる)が、時計の文字盤の内側で自由に動くようになっている。 写真提供:ショパール

同社は40年ぶりに復活させた「ハッピーダイヤモンド」ウォッチを含め、様々なダイヤモンド時計シリーズを展開しています。その中で、印象的なデザインを用いてダイヤモンドをセットすることで「ダイヤモンドをよく見せる」ことに焦点が置かれています。女性用腕時計では、時計の表面のガラスの下に置かれた5ミリメートルのラウンドブリリアントカット ダイヤモンド14個が、真珠の文字盤上を自由に動くようなデザインになっています。 男性用腕時計では、4つのダイヤモンドが動くようになっています。

ショパールはまだ、時計に宝石を散りばめるというコンセプトを諦めてはいません。 そして、非常に難しい技巧を用いた独創的なインペリアーレ Joaillerie ウォッチを公開しました。581個の色の違うサファイアを色が少しずつ異なるように、文字盤、ベゼル、バンドの部分に配置し、色の全スペクトルが現れるようにデザインされています。

高級時計は、宝石がすべてではありません。 多くの時計ブランドは、リシュモンやルイ・ヴィトン、モエ ヘネシー(LVMH)などのコングロマリットの一部門であり、これらの企業ではブランドの品位を保つことやマーケティングに百万ドルをも費やしています。 実際、バーゼルワールドフェアでは、これらのブランドが都市店舗ほどの大きさの立体空間で時計を展示しており、ブランドプレゼンスを示している好例と言えるでしょう。 その空間構造の内部には上品さとテクノロジーの融合が見られ、毎年このショーを訪れる10万人ほどの観光客やバイヤーを感動させるように設計されています。  

「ブランドは、時計においては非常に強い力を発揮します。 高級ジュエリーよりもずっとその傾向が強いのです。」と Mouawad は言い、さらに彼によると、時計の中には、ダイヤモンドやその他の宝石が数多くあしらわれていなくても、百万ドルを上回るモデルもあります。 価格は、デザインと芸術的技巧の結果の表れなのです。多くの高級時計は、時間を刻む以外に、月の周期に従った非常に複雑なアナログ的動きをするように作られています。 また、カレンダーや、ストップウォッチなどのスポーツ的機能も搭載されています。

「中には、デザインやケーシングが施される前に、10万ドル以上もするものもあります。」と Mouawad は述べています。  

パヴェセットピンクダイヤモンドで覆われた時計の蝶の羽を開くと、秘密の文字盤が現れる。 ストラップ部はピンクのサテン生地。 グラフは、梨型のファンシーピンクダイヤモンドが25カラットあしらわれた、ピンクプリンセスバタフライ ウォッチを公開。いかに派手かという点において今も勝負に挑んでいる。 蝶の羽を開くと、秘密の文字盤が現れる。 写真提供:グラフ社

Mouawad は中国の高級腕時計の需要は、より複雑な装いを見せ、限定版のコレクターズアイテムへと移行していると指摘します。 また、中東では、バイヤーはまだジュエリー時計を求めているものの、今日の経済状態の現実によりその需要が削られているとも言います。 米国市場は依然として成長していますが、消費者は世界の他の市場と同じように、コレクター的魅了のある独特なデザインの時計を選ぶようになっています。

Russell ShorはカールスバッドにあるGIAのシニア業界アナリストです。