模造「メロ真珠」
1月 21, 2011
クライアントは時折、特別な母貝から生まれたと伝えられた、またはそう信じている「真珠」を鑑別のために提出することがあります。最近メロ「真珠」として提出された52.49カラット、19.62×19.21×19.16mm、ほぼラウンドの「真珠」(図1)は、その一例です。外観からは真珠のように見えませんが、真珠として判断されることが確かに可能なため、より詳しい検査そしてレポートが必要とされました。クライアントがその結果を確認したかったのは疑いの余地がありません。
最初にルーペを使用して検査した後、顕微鏡で検査をすると、比較的細い縞模様(図2)が確認されました。この縞模様は、ある部分ではっきりした表面の溝に沿ってヘリンボーン模様を形成していました。この縞模様自体が、問題を投げかけました。何らかの形で真珠にまだ癒着している貝殻がある場合、直線の縞模様になるのが可能であるかもしれないとき、何らかの形でブリスターパールの底部に関連していない限り、真珠で「直線」と判断できる構造上の縞模様を観察することは非常に珍しいためです。しかし、この真珠の縞模様は表面で全体にわたってあるように見えるため、その「真珠のような」性質は直ちに疑問に思われました。真珠かどうか特定するのにさらに問題を投げかけたのは、
自然に着色されたこの種類の真珠にしては色がわずかにまばらであったということです。このため、より詳しい検査が行われました。小さいながらもはっきりとしたオレンジ色の色溜まりが表面に到達する割れ目(図3)で直ちに発見され、これまでに説明した表面にある主な溝からはみ出ていました。このため、想定していたほどすべてが完全ではないということを裏付けました。しかし、最初に抱いた意見を支えるためにより多くの情報を収集する必要があり、いくつかの高度な分析手順やGIAに設置されている他の装置で検査を行う必要がありました。
比重が2.84であるという結果を得た後、GIAに設置されているFaxitron(ファクシトロン社)製リアルタイムX線顕微法システムを用いて真珠のような構造の特徴が見えるかどうかを確認するために分析を行いました。1番目の方向では縞模様の構造が直ちに確認され(図4)、最初に検査されたときに予備的な光学検査を介して見られたヘリンボーン構造が繰り返して起こるのが別の方向で明らかに発見されました。ほとんどの天然メロ真珠は、X線顕微法で観察できる2つの構造のいずれかを示すことが宝石鑑別士の経験から確認されています。これら2つの構造とは、有用な構造が非常にわずかまたは皆無の状態、もしくはその中心の近くに小さな空洞のような特徴があるということです。したがって、この特別な試料の縞模様の性質は、同心円が自然に形成されたメロ真珠、またはいかなる母貝から採取された真珠に関連付けられるものではありませんでした。したがって、この特定の「真珠」を形成する素材の性質は貝殻であるという結論に達したため、貝殻から作られた模造メロ「真珠」を取り扱っているように思われました。
色に関しては、自然に着色されたかどうかを証明する必要がありました。紫外線の照明を使用して行われた検査では、短波長または長波長のどちらの放射にも有用な反応を示しませんでした。そのため、色の起源を決定するのに役立つ3つの装置を使用して分析をすることに焦点を当てました。エネルギー分散形蛍光X線(EDXRF)分光計で一般的な方法を用いて行った分析では、異常なものは何も発見されず、炭酸を用いた特殊な方法が適用されたとき、この真珠に使用された貝殻は、マンガンが低量でストロンチウムが多く含まれているため、海水の母貝から形成されたことが確認されました。PerkinElmer(パーキンエルマー社)製950紫外線可視近赤外(UV-Vis-NIR)分光光度計を使用した後に得られたスペクトルは、オレンジ色の真珠または貝殻によく見られる吸収特徴を示し、色が処理されたと断言できるような特徴は確認されませんでした。このため、Renishaw(レニショー社)のinViaラマン顕微鏡で514nm Ar-ion(アルゴンイオン)レーザーを使用して、色の原因をより詳しく特定することになりました。この分析の結果、1086cm-1で振動が1回ピークに達し、約704および702cm-1辺りで二重項になるため、この貝殻はアラゴナイトで生成されていることが確認されました。しかし、メロやカシスなどの種に属する自然に着色された真珠または貝殻に見られるポリエンの(Salares、1977年)ピークがないため、天然に着色されていないことが判明しました(図5および6)。天然のポリエン色素を持つ比較的薄い色の真珠でさえも、1120 cm-1および1520cm-1の領域で通常は小さなピークがいくつか見えるはずなので、この「真珠」のかなり飽和した色の部分を検査したときに、かなり強くこれらのピークを示すべきでした。そのピークがまったく現れなかったという事実から、着色は人工的なものに違いないと確認されました。
貝殻の着色に使用された色素の正確な性質については断定することはできませんでしたが、2008年にAGTAラボラトリーに提出された模造真珠で検出された色素に類似していました1。
真珠ではないという予想をさらに裏付ける模造品のもうひとつの特徴は、この真珠は成形され、研磨されたという明らかな証拠を示したことでした。複雑な作業(例えば、形状を変更するためのやすり掛けや研削)および光沢を改善するためのポリッシング自体が、貝殻の起源の証拠になるわけではありませんが、これら両方の作業は、通常、貝殻の一部から模造真珠を生成するために必要とされます。このため、考慮されている他のすべての要因に加えて、これらが両方とも存在する場合は、さらに疑わしくなります。
メロ「真珠」の染色された模造品は市場で非常に珍しいとされているわけではありませんが、ラボラトリーの宝石鑑別士にとっては珍しいものとなります。なぜなら、ほとんどのクライアントは自分の持っている真珠が本物かどうか分かっており、模造品ではないかと疑いがあるものを検査するのに費用をかけるのは無駄となるため、これらの模造真珠は定期的に提出されないからです。したがって、ラボラトリーが観察することの多い模造真珠は、クライアントが本当に真珠であると信じているもの、または興味または研究のために提出されたもののみとなります(Krzemnicki、2006年;Wentzell、2006年)。上記2つの記事で言及されているすべての模造メロ「真珠」と同様に、この染色された貝殻の起源は、貝殻の厚さおよびはっきりした光彩の模様からシャコガイ種(オオジャコガイを含む二枚貝の様々な種)であることが最も可能性が高いと判断されました。
Krzemnicki, M.S.、(2006年)、A Worked Shell Bead as an Imitation of a Melo Pearl(メロ真珠の模造品として使用された貝殻のビーズ)
Salares, V.R.、Young, N. M., Carey、P. R., Bernstein, H. J.、(1977年)、Excited state (excitation) interactions in polyene aggregates. Resonance Raman and absorption spectroscopic evidence. (ポリエン凝集体における励起状態(励振)の相互作用。共鳴ラマンおよび吸収分光法による証拠)、Journal of Raman Spectroscopy(ジャーナル・オブ・ラマン・スペクトロスコピー)、6、282-288。
Wentzell, C.Y.、(2006年)、Imitation Melo "Pearls"(模造メロ「真珠」)、Gems & Gemology(宝石と宝石学)、42、2、166-167。