リサーチニュース

宝石学を大舞台へ:2015年GSA(Geological Society of America 米国地質学会)年次総会

, ,

2015年GSA年次総会の看板
2015年Geological Society of America(アメリカ地質学会/GSA)年次総会が、11月1~4日ボルチモアで開催されました。 この会議で、GIAは2つの技術セッションを主催しました。 写真:Tao Hsu/GIA

鉱物学に深く根ざした現代宝石学は、他の様々な科学的分野、特に地球科学からの理論や技術を組み込むことで、次第に多領域に渡るようになってきました。 

2015年GSA年次総会のGIAブース
GIAブース訪問者と共に宝石学の研究や教育について語る、GIA同窓会のKate DonovanとDr. James Shigley。 写真:Tao Hsu/GIA

Geological Society of America(アメリカ地質学会/GSA)の総会には、世界中から6,000人以上の地球科学者が集まります。最新の研究を紹介したり、今後の作業のためのインスピレーションを見つけたりするには最適な場です。 2013年以来、GIAの研究者はGSAの年次総会に参加してきました。 ボルチモアで11月1~4日に開かれた2015年次総会では、GIAは1つは口頭、もう1つはポスターを用い、合計26個のプレゼンテーションからなる2つの技術セッションを主催しました。 同時に、GIAはボルチモア会議センターの展示ホールにて、GIA代表者が質疑応答のため在席するブースも設けました。

宝石学口頭技術セッション

GIAのDr. James E. ShigleyとDr. Wuyi Wangが口頭セッションを共催しました。 Dr. George Harlowも、宝石素材の研究がどのように地球の地質系統全体の洞察に役立つかという講義を行いました。 Dr. Wangは、HPHT合成ダイヤモンド内の[Si-V]–欠陥の発見と分布を発表しました。 GIAニューヨークラボのチームによるこの研究は、フォトルミネッセンス・マッピングを強力な研究技術として示すと同時に、[Si-V]欠陥はCVD合成ダイヤモンドでしか発生しないという広く認められた学説に挑戦するものでした。 

口頭プレゼンテーションのスケジュールの横に立つDr. James Shigley。
ジェモロジィ口頭技術セッションのスケジュールの横に立つDr. James Shigley。 Dr. ShigleyとGIA図書館館長のDona Dirlamは、2013年のGSA年次総会にてジェモロジィ技術セッションを創設した。 写真:Tao Hsu/GIA

まさに学際的なアプローチとして、Swiss Gemmological Institute SSEF(スイス宝石学研究所SSEF)のDr. Laurent E. Cartierは生物学者と協力して、有機宝石の起源特定のためにDNA分析を用いました。 現在の研究は、パールに焦点を当てています。 初めて、ジェモロジストは真珠の母貝の種類の決定的な鑑別を行えるようになったのです。 Dr. Cartierらは、サンゴやアイボリー(象牙)のような他の有機宝石への利用を視野に、この技術の完成を目指しています。

ドアの隣に立つDona
Dona Dirlamは、GIAのRichard Liddicoat Research Library and Information(Richard Liddicoat宝石学図書館情報センター)の
ディレクターです。 Donaは、GSAの宝石学技術セッション創始者の1人です。 写真:
Cathy Jonathan/GIA

GIAニューヨークラボ所属の博士課程修了後研究者であるDr. Karen Smitは、西アフリカ産のタイプIbダイヤモンド内の硫化物インクルージョンのRe-Osアイソトープを研究しています。 アイソトープの研究は、ゴンドワナ超大陸の形成を説明するために用いられました。 ワシントンのCarnegie Institution(カーネギー研究所)のDr. Steven Shireyは、ブラジル産の超深層ダイヤモンド内の硫化物インクルージョンに関するRe-Os地質年代学研究を紹介しました。 このインクルージョンの古さは、地下の内部対流により促進された結晶のリサイクルの存在を示しています。 どちらの研究も、地球科学のリサーチにおいて宝石素材が担う役割の重要性を実証しています。

2015年GSA年次総会の宝石学セッションの参加者たち
GSA参加者が宝石学口頭セッションの開始を待っている。 写真:Tao Hsu/GIA

有名な宝石や歴史的なジュエリーに関する宝石学研究も、大きな関心を集める題材です。 ロンドンのNatural History Museum(ロンドン自然史博物館)所属のAlan Hart氏は、Mogul(ムガール)カットの創造についての調査を紹介しました。 英国戴冠宝器の1つである、「Mountain of Light(光の山)」という意味の有名なKoh-i-Noor(コ・イ・ヌール)ダイヤモンドを事例研究として用いて、Hart氏は当時の原始的な道具でMogul(ムガール)カットを可能にした主要要因は、異なる硬度だと発見しました。  ハーバード大学のDr. Raquel Alonso-Perezは、分光解析と微量元素解析の両方を用いて、19世紀の北アメリカで作られた宝飾品であるHamlin(ハムリン)ネックレスにあしらわれたトルマリンの研究を行いました。 

2015年GSA年次総会での宝石学プレゼンテーション
Dr. Wuyi Wangと共同主催の技術セッションを発表するDr. Shigley。 写真:Tao Hsu/GIA

インクルージョン研究は、現代宝石学の重要な柱の1つです。 GIA屈指のインクルージョン研究員であるJohn Koivulaは、合成コランダムを天然加熱処理素材として誤認する可能性を指摘しました。 実験研究により引き上げ法と火炎溶融法で作られた合成コランダムの両方で発生する熱融解した亀裂は、いわゆるフラックス治癒された天然石に見られる特徴とほとんど同じに見えるということが証明されました。 GIAカールスバッドラボ所属の博士課程修了後研究者であるDr. Aaron Palkeは、モンタナ州南西部で発見されたサファイア内に、珍しいガラス質の融解インクルージョンを見つけました。 Dr. Palkeらは、これらのサファイアはケイ石に富んだ溶解物とアルミナに富んだレスタイトを作り出した高純度の変成作用中に、包晶鉱物として結晶化したと仮説を立てました。 このトピックに関する今後の研究が、モンタナ産サファイアの起源と移動に関する謎を明らかにするかもしれません。

2015年GSA年次総会での宝石学口頭セッション
プレゼンテーション後に出席者からの質問に答えるDr. Steven Shirey。 写真:
Tao Hsu/GIA

自然現象に関連する宝石は、科学研究対象として特に興味深い材料です。 スミソニアン学術協会のDr. Keal Byrneらは、気温および/または光に反応して不思議な色の変化を見せる「カメレオン」ダイヤモンドの発光に関する調査を行いました。 ペンシルバニア州立大学のXiayang Linは、インドで見つかった天然クォーツ結晶内でイリデッセンスを発生させる微細な表面の特徴を発見しました。

宝石学研究プレゼンテーション
モンタナ産サファイア内に発見された珍しいガラス質のインクルージョンの研究を発表するDr. Aaron Palke。 写真:Tao Hsu/GIA

研究員たちはまた、アメリカの宝石鉱床に関する研究も紹介しました。 スミソニアン学術協会のDr. Michael Wiseは、熱水エメラルドと北カリフォルニア州のヒデナイト地域で採鉱されたヒデナイトに関する自身の研究を発表しました。 バージニア工科大学のYury I. Klyukinは、ヒデナイト付近の北アメリカエメラルド鉱山にある鉱床の流体の変遷を調査しました。 Maine Mineral and Gem Museum(メイン州鉱物宝石博物館)のDr. William B. Simmonsは、ミカ山のペグマタイトで最近発見された宝石品質のポルサイトに関する 情報を共有しました。

GSAミーティングルームの外に立つ宝石学研究者の一団
宝石学口頭セッションのプレゼンターたち。 写真:Tao Hsu/GIA

宝石学ポスターセッション

11月4日に行われた宝石学ポスターセッションでは、12種類のポスターが用いられました。 総会の最終日に行われたにも関わらず、多くの参加者がセッションに集まりました。 プレゼンテーションの時間と形式の柔軟さにより、展示者と閲覧者の間でのダイナミックな議論が可能となりました。 

GSAにてポスターの写真撮影
宝石学ポスターセッションは、GSA年次総会の最終日に多くの注目を集めた。 写真:Tao Hsu/GIA

様々なトピックを扱うポスターが貼り出されました。 GIA研究員はマイクロダイヤモンドやダイヤモンドの欠陥の形成、タイプIaダイヤモンドの低圧高温(LPHT)処理に関する研究などを展示しました。 Sarah OstryeはGIA図書館の貴重な本のデジタル化プロジェクトを紹介しました。 Materialytics(マテリアリティクス)のCatherine McManusは、LIBSスペクトルの多変量解析を用いたダイヤモンドの起源特定に関する自身のプロジェクトを紹介しました。 ミズーリ州立大学のGary S. Michelfelderと共著者は、ブラジルのコロマンデル地域の漂砂ダイヤモンドの起源に関する研究発表を行いました。 

GSAポスター紹介者
貴重な本のデジタル化プロジェクトを紹介するGIA図書館のSarah Ostrye。 写真:
Cathy Jonathan/GIA

また、中国の宝石学学生による、中国北東部で最近発見された宝石コランダム鉱床に関する研究およびタンザナイトの色に関する研究の発表は素晴らしいものでした。 ポスターセッションのトピックと抜粋は、こちらで閲覧できます: https://gsa.confex.com/gsa/2015AM/web
program/Session38771.html

授与スピーチを行うDr. Rodney Ewing
Dr. Rodney Ewingは、鉱物学研究に多大な貢献をしたとして、Mineralogical Society of America(アメリカ鉱物学会)のローブリング・メダルを授与された。 写真:Tao Hsu/GIA

GSA総会のもう1つのハイライトに、スタンフォード大学の地質環境学教授、Dr. Rodney C. Ewingへの、Mineralogical Society of America(アメリカ鉱物学会)のローブリング・メダル授与が執り行われました。 Dr. EwingはGIAの理事を9年間務め、研究活動に対し洞察力に富んだ助言を提供し、GIAの博士課程プログラムの育成にも尽力しました。 

デンバーで開催される2016年GSA総会に参加者を招待するクマのマスコット
2016年のGSA年次総会はデンバーで開催される予定。今年に続き、高レベルな宝石学の研究結果を地球化学界にもたらすことだろう。 写真:Tao Hsu/GIA

2013年のGSA総会での初回以降、宝石学技術セッションは重要な研究結果を他の科学者たちと共有するためのより幅広い場として機能してきました。 2016年のGSA年次総会はデンバーで開催される予定で、宝石学セッションの主催者も近日中に準備を始める予定です。 

Dr. Tao Hsuは Gems & Gemology(宝石と宝石学)の技術編集者です。 Dr. James Shigleyは、GIA特別研究員です。 Dona M. Dirlamは、GIA Richard T. Liddicoat Gemological Library and information center(GIA Richard T. Liddicoat宝石学図書館情報センター)のディレクターです。 Dr. ShigleyとDonaはどちらもGSA年次総会での宝石学技術セッションの創始者です。