ダイヤモンドとして持ち込まれたスピネル


ダイヤモンドとして提出されたスピネル原石には、結晶面と反対方向を向いた三角形が確認できる。
図1. ダイヤモンドとして持ち込まれたこのスピネル原石は、結晶面と反対方向のトライゴンを示した。 写真提供:Joshua Balduf(ジョシュア バルドフ)、©GIA
ダイヤモンド類似石は未だ広く流通しており、GIAのラボにおいてもよく目にするものです。 とは言え、カラーダイヤモンドを装った天然宝石に遭遇することは稀です。 ニューヨークラボでは最近、カラーダイヤモンド鑑別及び色の起源レポートのために持ち込まれた、驚くほどに飽和したファンシーインテンスピンクからビビッドピンク(図1)の色を持つ0.50カラットの原石試料を受け取りました。 この石は八面体の結晶形を示し、結晶面に多数のトライゴンが見られました。 化学溶解により生じたこれらの三角形のエッチピットは、天然ダイヤモンドとスピネル両方に一般的に見られる特徴ですが、フラックス合成スピネルにも観察されています(M.S. Krzemnicki、“Trade Alert: Flux grown synthetic red spinels again on the market,” (「トレードアラート:フラックス法合成レッドスピネルが再び市場に現れる」)SSEF Newsletter、 2008年10月14日、3頁)。 八面体上に見られる場合、トライゴンは結晶面と反対の方向を向きます(再度、図1参照)。 図2はトライゴン中の明瞭な貝殻状断口を示しており、この特徴はダイヤモンドには見られないものです。 この特徴と印象的な色は共に、この試料がダイヤモンド以外のものであることを示しました。

このスピネルには、トライゴンに加えてダイヤモンドには見られない貝殻状断口(矢印参照)があります。 40倍に拡大。
図2. トライゴンに加え、このスピネルはダイヤモンドには見られない貝殻状断口(矢印参照)を示した。 顕微鏡写真:Martha Altobelli(マーサ アルトベーリ)、©GIA。 40倍に拡大。
高分解能のUV-Visスペクトルは、天然ダイヤモンドでは見られない発光バンドと吸収ピークを示しましたフォトルミネッセンススペクトルを詳細に検査した結果、クロムのピークが685、687、689、700nmにおいて確認されました。 クロムは、スピネルにおいては赤/桃色の原因となりますが、ダイヤモンド中には存在しません。 685 nmピークの狭いバンド幅およびUV-Visスペクトル中の~533nmのバンドから、これが未処理の石であることが証明されました(S.Saeseaw他、 “Distinguishing heated spinels from unheated natural spinels and from synthetic spinels: A short review of on-going research,” 「非加熱の天然スピネルと合成スピネルから加熱スピネルを区別する:現在進行中の研究報告」、www.giathai.net/pdf/Heated_spinel_Identification_at_May_25
_2009.pdf
)。 この他の観察として、スピネルと一致する比重3.45-3.48、さらに長波および短波紫外線での中程度から強度の赤色反応も見られました。 ダイヤモンドレポートのために持ち込まれた石ですが、実際は天然のピンクスピネルでした。

この一件は、宝石素材の同定において、標準的な宝石学技法と高度な分光法の両方が重要であることを再認識させるものです。 

Martha Altobelli、Paul Johnson、Kyaw Soe MoeはGIAのニューヨークラボの研究者です。