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展覧会レビュー:Colors of the Universe: Chinese Hardstone Carvings(宇宙の色:中国の硬石彫刻)


ジェードの卓上置き物。
図1: 風景画が彫刻されたジェードの卓上置き物。 ネフライト製。 寄贈:Heber R. Bishop、1902年。写真提供:Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)

硬石の彫刻は中国最古の芸術的伝統の一つであり、その歴史は8,000年も遡ります。 中国の文化において最も貴重な石として考えられているジェードが彫刻に好まれていましたが、他の硬石も彫刻に使用されてきました。 王朝が変化を遂げるとともに原材料の入手にも変化が生じ、彫刻技術はゆっくりと発展しました。 しかし、清王朝(1644年~1911年)の時代には、すべてが好転しました。原材料が確実に入手できるようになり、優れた芸術性と職人技が発展し、乾隆帝(在位期間 1735年~1799年)など芸術に熱心な皇帝が君臨し、見事に素晴らしい彫刻が数多く誕生しました。

ニューヨークのMetropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)で開催された展覧会『Colors of the Universe: Chinese Hardstone Carvings(宇宙の色:中国の硬石彫刻)』では、博物館の素晴らしいコレクションから厳選された、清王朝における宝石細工の最高作品のうち75点を展示しています。 ジェード(図1)の他に、アゲート、クォーツ、マラカイト、トルコ石、琥珀、サンゴ、ラピスラズリやその他の硬石を使った見事な彫刻もご覧いただけます。 大きなギャラリーの4つの壁に沿って展示され、そして中央に設置されている二段のショーケースにも披露されているこれらの彫刻は、見事に素晴らしい想像力と、清朝宮廷で珍重されていた技術的な技巧を表現しています。

これらの彫刻の多くは、一部を除き、Heber R. Bishopのコレクションから厳選された作品であり、これらはメトロポリタン美術館で常にご覧いただけます。 19世紀後半から20世紀初頭にかけて製糖業で成功を収めたことで有名な博愛主義者のBishopは、1902年に彼が収集していたジェードの彫刻の素晴らしいコレクションをメトロポリタン美術館へ寄贈し、この美術館で早期に理事を務めました。 また彼は、ジェードに関する最古の書籍のひとつである、2冊一組で重さ125ポンド(57キログラム)もの巨大な英語版の本の資金援助もしました。 この書籍は100冊のみが複製され、世界中の王族および国立図書館限定で配布されました。

このギャラリーの一つの壁は、Bishopが収集していたジェードの作品ですべて(奇妙なことに1点を除く)飾られています。 ここでは、Heber Bishopが見事に素晴らしい彫刻を見分けるのにいかに鋭い洞察力を備えていたかご理解いただけるでしょう。 この中で人気がある作品のひとつとして、ジェードの山ともいわれている玉山を表現している大きな「Boulder with Daoist Paradise(道教信者の楽園がある巨礫)」が挙げられます。また、これよりもさらに大きい「Jade Basin(ジェードの桶)」(図2)は、フビライ・ハーンが1265年に発注したと伝えられている北京のBeihai Park(北海公園)にある宮廷庭園の有名なオリジナルの作品をモデルにしています。 そのオリジナルの作品は、中国のすべてのジェード作品で最も有名なものの一つです。 1700年代半ば、乾隆帝が漬物を保管するためにそれを使用していた道教寺院の僧侶から入手しました。 乾隆帝はこのジェードの桶に非常に魅了されたため、この桶に関する3つの詩を執筆し、桶の内部にその漢詩を彫刻し、この宝物を所蔵する別棟を建築しました。

大きなジェードの桶。
図2: 「Jade Basin(ジェードの桶)」、 およそ1774年。 ネフライト製。 寄贈:Heber R. Bishop、1902年。写真:Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)

ギャラリーの残りの3つの壁は、中国人の職人が使用したあらゆる種類の硬石で造られた彫刻品が数多く展示されており、その中には厳密に硬石の定義を満たさない石(ソープストーン、琥珀、サンゴ)も使われているものもあります。 これらの多くはBishopのコレクションのものですが、他の寄贈者からの作品もいくつか素敵に展示されています。 この中で好評な作品は、ネフライトでできた小さい「Elephant Carrying a Vase(花瓶を運ぶ象)」(図3)とその対となる「Horse Carrying Books(本を運ぶ馬)」(両方ともガーネットで象嵌細工が施されている)、木製のスタンドも素敵なアート作品となっている素晴らしいアゲートでできた「Pomegranates(ザクロ)」(図4)、山の形をしたラピスに彫刻された「Luohan in a Grotto(洞窟の阿羅漢)」などです。

花瓶を運ぶ象
図3:「Elephant Carrying a Vase(花瓶を運ぶ象)」ガーネットで象嵌細工が施されているネフライト製。 寄贈:Heber R. Bishop、
1902年。写真:Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)
ザクロ
図4: 「Pomegranates(ザクロ)」アゲート製。 寄贈:Heber R. Bishop、1902年。写真:
Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)

ギャラリー中央に設置されているショーケースには、9つの鼻煙壷(主にビジネスマンのBenjamin Altmanの遺贈品)及び12の小さめの硬石の彫刻が展示されています。 この中で人気を博している作品は、「髪の毛状」トルマリンを含むロッククリスタルでできた鼻煙壷(図5)と、見事なアップルグリーンのジェダイトでできた鼻煙壷です(素材がはっきりと表れるよう両方とも装飾されていません)。また、巧みに彫刻されたサンゴの如意(つまり笏)、繊細な彫刻が施されたジェダイトとトルマリンのペンダントや小さなアクアマリンの封印(印鑑)も高い評価を得ています。

トルマリン含有の鼻煙壷。
図5: トルマリン含有のロッククリスタル製の鼻煙壷。ジェダイトのストッパー付き。 Benjamin Altmanの遺贈品、
1913年。写真:Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)

この展覧会では、似たような種類の石を比較することができます。 例えば、彫刻が施されたカルセドニーとアゲートの変種がいくつか展示されていたり、ジェードの異なる種類であるネフライトとジェダイトも両方展示されています。 コスモクロアジェダイトでできている「Elephant with Two Boys(2人の男児が乗った象)」(図6)では、この珍しい素材の大きいサイズの例を見る絶好のチャンスを提供します。グリーンカルセドニーの花瓶では、その控えめな材質と、色の似た本物のジェードの間に存在する違いを明らかにご覧いただけます。

2人の男児が乗った象
図6: 「Elephant with Two Boys(2人の男児が乗った象)」コスモクロアジェダイト製。 Edmund C. Converse
の遺贈品、1921年。写真:Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)

すべての展示品が最適な照明で演出されており、明確にラベル表示されています。 しかし、これらの傑作の彫刻の写真を1~2枚添えていればより興味深いものとなるでしょう。 清王朝の時代では、これらの硬くて頑丈な石は足踏み式の旋盤でゆっくりと辛抱強く研磨して手作業で製作されたであろうことを考えると、その職人技に一層感心させられます。 ひとつの作品を彫刻するのに1年以上もかかることは珍しくなかったのです。

この展覧会は、宝石細工の傑作、中国の装飾美術、珍しい宝石素材そして最高級の職人技に興味のある方にとって非常に有意義なものとなるでしょう。 ギャラリー222は3階にあり、そこに到着する際に古代中国のジェードのギャラリーを通過します。来場者は、中国の硬石の彫刻が数千年前にどのように始まったのかを理解していただけるでしょう。 また、この博物館のChinese Scholar’s Garden(中国の学者の庭園)を訪れ、中国の彫刻芸術を異なる視点からご覧になるのもおすすめします。
 
展覧会『Colors of the Universe: Chinese Hardstone Carvings(宇宙の色:中国の硬石彫刻)』は、ニューヨーク5番街にあるMetropolitan Museum(メトロポリタン美術館)の本館で2017年10月9日まで開催されています。 推奨されている入館料は大人25ドル、65才以上の方17ドル、学生12ドルです。この入館料には、The Cloisters(クロイスターズ美術館)とThe Met Breuer(メット・ブロイヤー)の同日の入館料も含まれています。 5番街にある建物は年中無休でオープンしています。開館時間は、日曜日から木曜日までは午前10時から午後5時30分、金曜日と土曜日は午前10時から午後9時となっています。 休館日は、5月の第一月曜日、感謝祭、クリスマス、および元日です。

Eric Hoffmanは航空宇宙エンジニアを引退しており、45年間中国のジェードに関心を寄せてきました。 また、ジェードと鼻煙壷を専門に扱うHoffman’s Far East Gallery(ホフマンズ・ファーイースト・ギャラリー)を所有しており、雑誌『Adornment』の寄稿編集者でもあります。